有明4大決戦+α プレビュー 1 /兄弟4団体統一への第1歩 - 井上拓真 vs リボリオ・ソリス -

カテゴリ:
■4月8日/有明アリーナ/WBA世界バンタム級王座決定12回戦
元WBC暫定王者/WBA1位 井上拓真(大橋) VS 元WBA S・フライ級王者/WBA2位 リボリオ・ソリス(ベネズエラ)






「やっと(尚弥が)返上してくれた。」

2万人超の大観衆で埋め尽くされたさいたまスーパー・アリーナで、正規王者ナルディーヌ・ウバーリ(仏)とのWBC内統一戦に完敗してから3年半余り。待ちに待った世界戦正式決定の一報を受け、拓真は万感の思いを込めてそう言った。


尚弥よりも7ヶ月早く、2017年夏から主戦場をバンタム級に移していた拓真は、転級初戦で大ベテランの久高寛之(仲里)を10回判定に退けると、続いて元日本王者の益田健太郎(新日本木村)にも10回3-0判定勝ち。

ピークを過ぎていたベテランとの連戦で予想外(?)の苦闘を強いられ、先行きに一抹の不安を抱える中、アンダードッグのワルド・サブ(インドネシア)を呼び、左ボディの一撃で快心の初回KO勝ち。

倒して当然の相手とは言え、プロ入り3度目のKOをモノにした拓真は、実力者マーク・ジョン・ヤップ(比/六島ジムと契約して日本で活動)を中~小差の12回3-0判定に下す。OPBFのベルトを持ち、WBC3位だったヤップに堂々の勝利を収めて、WBC王座への指名挑戦権を獲得。


実際にはこの前(2016)年、S・フライ級で戦っていた拓真は、当時WBOバンタム級の王座を保持していたマーロン・タパレス(比)への挑戦が決まりながら、右拳を負傷して無念の徹底を余儀なくされている。

大いに載冠を期待されていた大柄なサウスポーのパンチャー,大森将平(WOZ/引退)を難なく倒したタパレスへの評価は想像以上に高く、拓真には118ポンドのバンタム級リミット上限で調整した実戦経験が無かったことから、「不幸中の幸い」との声も聞かれた。

相応の実績と経験を持つベテラン勢とのテストマッチを体験できたことは、結果的に拓真にとってプラスだっと見る向きも少なくない。


こうした経緯を経て、2018年の晦日興行(大田区総合体育館/メインは伊藤雅雪 vs E・チュプラコフ=WBO J・ライト級王座戦)で実現したのが、WBCの暫定王座決定戦だった。

不正不当な手段で山中慎介から王座を強奪したルイス・ネリーが、山中とのリマッチで確信犯の体重オーバーでベルトを放棄。WBCはウバーリとラウシー・ウォーレン(ロンドン五輪で因縁を結ぶライバル)に決定戦を指示したがスムーズに交渉が進展せず、挑戦機会を待たされる拓真に(ネリーの問題も含めて)WBCが配慮を示したという状況。

タパレス戦が流れてから丸2年、万全の態勢で臨んだエリミネーターで、WBC2位に付けていたペッチ・CP・フレッシュマート(タイ)に大差判定勝ち。暫定の2文字付きではあるものの、念願だった世界のベルトを巻く。


そしてウバーリのバネとパワー(+経験値)に屈した拓真は、武漢ウィルス禍による休止を挟み、2021年10月に組まれた復帰戦で国内バンタム級のトップに位置していた長身のスラッガー,栗原慶太(一力)と対戦。

大きく上回るスピードのアドバンテージとコンビネーションをフルに活かし、パンチング・パワーに関する限り、国内では尚弥に次ぐ存在と表すべき栗原の強打を空転させ続けた。

初回にバッティングで左の瞼をカットする不運にも見舞われた栗原は、必殺の右をヒットするタイミングを容易に見い出せず(数回チャンスはあったが不発)、瞼からの出血が止まらず9ラウンドでストップ。ジャッジ3名のスコアは、ほぼフルマークで拓真を支持(89-82×2名,90-81×1名)。

S・フライ級に続いてOPBFの2階級を制した拓真だが、4団体統一へとひた走る”リアル・モンスター”こと尚弥の煽りをまともに食らう格好となり、止む無くS・バンタム級に上げてチャンスを模索する。

栗原戦から10ヵ月後の2021年11月、国内S・バンタム級トップの一角,和氣慎吾(FLARE 山上)をワンサイドの12回判定に下し、WBOアジア・パシフィック王座を奪取。昨年6月には、古橋岳也(川崎新田)をほぼフルマークの3-0判定に屠り、日本タイトルとの同時2冠を達成するなど、118~122ポンドで名実ともに国内トップの実力を証明済み。


爆発的な尚弥のパワーは望むべくもないが、打っては外し,外しては打つヒット&アウェイの巧さと精度の高さは紛れもないワールド・クラス。

打撃戦を回避した栗原戦について、「もうちょっとやりようがあったのでは・・・」と注文を着けるファンもいれば、「あれが拓真の真骨頂。無理に打ち合って墓穴を掘っていた久高,益田戦の頃とは別人の成長ぶり」と賞賛する者もいて、評価は賛否に分かれた。

痩身&ボクサーパンチャースタイルの和氣とは、至近距離でガシャガシャにやり合う必要がそもそもなく、思っていた以上に手が合う好勝負。


さらに骨格の違いが露になった古橋戦では、体格差で押し込まれることを前提に、後退あるいはロープを背負いながらでも、常に先手で左(ジャブ,ストレート,フック)を突いて右につなげつつ、ローリングを軸にしたボディワークで古橋のパンチをかわす作戦を徹底。

ハイリスクなクロスレンジに身を置き、かつての久高,益田戦のように勢いだけで無闇に打ち合いにのめり込むこともなく、クリンチ&ホールドからの揉み合いで無駄に時間を潰す愚も冒さず、セーフティ・リードを保ったままゴールテープを切る進境を見せてくれた。

太くなったお腹回りが気になりながらも、S・フライ~バンタム級時代と同等のハンドスピード&機動力(生命線)を維持し、距離と戦い方に関わらず不用意な被弾の確率を減らす。

一回り二回り大きな相手に対して、簡単に当たり負けないフィジカルの強度を作り上げた上で、強引な力による対抗ではなく、ブラッシュアップした攻防のテクニックと良い意味での駆け引きで渡り合う。

プロ10年目を迎えた拓真は、キャリアに相応しい自制心(技術&経験に裏付けされた本物のクレバネス)を身に付け、まさしく充実の時期を迎えつつある。


◎最終会見




不惑を超えてなお、バンタム級のトップ戦線に留まり続けるソリスは、今回が4度目の来日。日本のファンにはお馴染みの顔の1人。

初来日は2013年5月。暫定王者として初防衛を終えたソリスは、指名挑戦者(WBA内の統一戦)の対場で河野公平(ワタナベ/引退)と対峙。一進一退の拮抗した勝負をしのぎ、マジョリティ・ディシジョン(2-0判定)を引き寄せて初載冠を成し遂げる。

そして7ヵ月後の同年12月、2ポンド半のオーバーでブチ切れ状態の前日計量(計量時間を事前通告無しに変更されたと異常な興奮状態)が物議を醸した亀田大毅との2団体統一戦(12回2-1判定勝ち)では、本番のリング上で存分に実力差を見せ付け鬱憤を晴らす。2-1に割れたスプリット・ディシジョンは、幾ら何でも亀田一家に忖度し過ぎ。


「カメダはマフィアだ!」

国内スポーツ紙の取材に応じたソリスは、穏やかならぬ一言を発していたが、そこを突っ込み掘り下げる記者はいない。残念の極みではあるけれど、これが我が国ボクシング界の実態。

その後バンタム級に階級を上げ、”ゴッドレフト”山中慎介の挑戦者として3度目の訪日を実現したのが2016年3月。第3ラウンドに山中を2度倒してあわやの場面を創出。安定政権を築き、リング誌P4Pランキング入りも果たした山中に冷や汗をかかせた。


母国のベネズエラは親子二代でWBAの会長職を務めるメンドサ一家のお膝元であり、軽量級を中心としたベネズエラの人気・有力選手の厚遇は、メキシカンのトップボクサーを手厚くバックアップするWBCと同様、長年の悪しき慣行として知られている。

ソリスも当然のようにWBAに操を立てて(?)、これまで戦った8度の世界戦中、山中戦を除いてすべてWBAのベルトが懸かっていたが、40歳にして2位のランキングを高い下駄と見られてしまうのは致し方のないところだが、必ずしも”温情のみ”とは言い切れない。

とりわけ注目すべきは、モンテカルロで行われたジェイミー・マクドネル(英)との2試合と、空位のレギュラー王座を争ったリゴンドウ戦(2020年2月/ペンシルベニア州アレンタウン)だろう。

3名のジャッジが2~5ポイント差でマクドネルの勝利を支持した第1戦(2016年11月/)は、露骨極まりない地元判定(興行を主催したプロモーターはエディ・ハーン)であり、真の勝者はソリスで間違いない。

ソリス陣営の猛抗議が実り(ベネズエラ人を大事にするWBAらしい)、1年後の2017年11月、同じモンテカルロでリマッチに漕ぎ着けるも、第3ラウンドに発生したバッティングで遭えなくノーコンテスト。切望した第3戦は陽の目を見ることなく、マクドネルは来日して井上尚弥に瞬殺された。


マクドネルとの第1戦で、ソリスは事実上の2階級制覇を達成していたという次第。活動拠点のパナマシティと母国を行き来しながらローカルファイトでやり直し、5連勝(3KO)をマークして辿り着いたのが、リゴンドウとの決定戦。

130ポンド契約でのロマチェンコ戦で惨敗を喫した後、井上尚弥とのビッグマネー・ファイトを追い求めて、かつてのライバル,ドネアの後を追うように階級ダウンを表明したリゴンドウは、フリオ・セハとのテストマッチ(2019年6月)で”慣れない打撃戦”を選択。

実力に比してまったく盛り上がらない人気と報酬に業を煮やしたのか、何度もグラつきながらようやく8回にレフェリーストップを呼び込み、どうにかこうにか事無きを得るも、磐石だった安定感に大きな疑問符が付く。


「これでわかっただろう?。打ち合いだってやれば出来るんだ!」

鼻息も荒く胸を張るリゴンドウだったが、精一杯の虚勢としか映らない。言葉が過ぎることを、リゴンドウ・ファンの皆様に深くお詫びする。セハ戦の金メダリストは、”年寄りの冷や水”そのものだった。


右に左にヒラリヒラリとその身を翻し、逃げながら常にカウンターを狙うキューバの天才。一撃必倒の破壊力を誇るリゴンドウの左の大砲に怯むことなく、積極果敢な波状攻撃を繰り返すソリス。

惜しむらくは、中盤第7ラウンドの攻防。遂にリゴンドウの左を被弾して腰砕けになり、追撃をかわし切れずにエイトカウントのノックダウン。

ここでもしぶとく粘ってフルラウンズを戦い終えたが、1-2のスプリット・ディシジョンはリゴを支持。ニューヨークから派遣された3名のジャッジのうち、ソリスに振った1人は115-113を付けていた。完封勝ちをアピールするリゴンドウは、いつにも増して不満げな表情を浮かべていたが、山中戦とマクドネル戦に負けず劣らず、ソリスはまたもや負けて株を上げる。


大金星を上げ損ねたソリスは、パナマに戻ってローカル・ファイトの繰り返し。パンデミックによる休止(2020年2月~2021年6月)が、加齢による衰えに拍車をかけても良さそうなものだが、無駄に打たせないディフェンス・テクニックの賜物なのか、スタミナ面も含めて顕著な退潮傾向は見られない。

直近の2試合は母国で行っており、フルラウンズの試合映像が見当たらず、ソリスの現状について明確な判断がしづらいのは確か。

けれども、拓真はけっして「40歳のジジイ」などと思わず、河野に競り勝ち山中を2度倒した頃と同じと見る慎重さが何よりも重要。


荒々しいタフ&ラフから、丁寧な技術戦までソツなくこなすソリスと彼のチームは、対戦相手の分析と具体的な対策を着実かつ抜かりなくやってくる。

乱戦・混戦を苦手にするマクドネルには、河野戦と同じくごちゃごちゃのラフ・ファイトを仕掛け、打ち終わりのタッチでポイントを掠め取るリゴンドウには、追いかけつつも態勢を崩してまでの深追いはしない(カウンター対策を兼ねる)。

ベネズエラ陣営は拓真の試合映像をしっかりチェックして、マクドネル,河野と同じ見立てでやって来るのではないか。


スピードに優る拓真を自由にさせて、好きなように出はいりさせたらその時点で勝負にならない。思った以上に素早い踏み込みから一気に抱きつき、揉み合い上等のクリンチワークでかく乱すると同時に、見えづらい角度からセオリーにないパンチをしつこく繰り出す。

強引にでもタフ&ラフに引きずり込み、バッティングも有りでとにかくひっかきまわす。そうやって拓真のストロング・ポイントを潰して、どちらとも取れるラウンドを増やし、”逆地元判定”とも呼ばれた河野戦の再現を狙う・・・。



□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
拓真:-2000(1.05倍)
ソリス:+750(8.5倍)

<2>Bet365
拓真:-2000(1.05倍)
ソリス:+750(8.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拓真:1/16(1.0625倍)
ソリス:7/1(8倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
拓真:1/14(約1.071倍)
ソリス:13/2(13倍)

スポーツブックのオッズは、流石に拓真に寄せ過ぎか。どれだけ離れても、1対5程度が適切と思われる。


拓真の勝利を毛ほども疑う訳ではないけれど、ソリスを甘く見ると痛い目に遭う。抱きつかれたら、逆に密着してソリスの動きを封じるべき。中途半端に両手を広げて、例え1発でも2発でも打たせる隙は作らないのが得策。

スピードの差を過信することなく、打たせずに打つボクシングに徹して欲しい。



◎拓真(27歳)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
元WBCバンタム級暫定王者(V0),前日本S・バンタム級(V0),WBOアジア・パシフィック S・バンタム級(V1),OPBFバンタム級(V0), 元OPBF S・フライ級(V2)王者
戦績:18戦17勝(4KO)1敗
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)
戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。
”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士。
身長:164.2センチ,リーチ:163センチ
※ウバーリ戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎ソリス(41歳)/前日計量:117.3ポンド(53.2キロ)
元WBA S・フライ級王者(V3)
戦績:43戦35勝(16KO)6敗1分け
世界戦通算:7戦4勝2敗1NC
身長:163センチ,リーチ:177センチ
※山中慎介戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎参考映像:前日計量



○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□オフィシャル

主審:ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)

副審:
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)
ロベール・レーヌ(モナコ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


◎発表会見フル映像



●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■バンタム級の動き

<1>WBO決定戦
5月13日カリフォルニア州ストックトン
ジェイソン・モロニー(豪) vs ビンセント・アストロラビオ(比)

<2>IBF決定戦
期日・会場未定(5月~6月中?)
1位 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) vs 2位 メルヴィン・ロペス(ニカラグァ)

※EMMANUEL RODRIGUEZ AND MELVIN LOPEZ TO VIE FOR VACANT IBF BANTAMWEIGHT TITLE
https://www.ringtv.com/650336-emmanuel-rodriguez-and-melvin-lopez-to-vie-for-vacant-ibf-bantamweight-title/

<3>WBC:未定
直近ランキングの上位5名
1位:ドネア
2位:ナワポン・ソー・ルンヴィサイ(タイ)
3位:レイマート・ガバリョ(比)
4位:アレッサンドロ・S・バリオス(メキシコ)
5位:アストロラビオ(比)


ハートブレイカーとマグニフィコが正面衝突  - フィゲロア vs マグサヨ 直前プレビュー -

カテゴリ:
■3月4日/トヨタ・アリーナ,カリフォルニア州オンタリオ/WBC世界フェザー級暫定王座決定12回戦
元WBA・WBC S・バンタム級王者/WBC1位 ブランドン・フィゲロア(米) VS 前王者/WBC2位 マーク・マグサヨ(比)





日本のファンに取っても注目度の高いマッチアップが、いよいよ本番当日を迎える。

開催地はオンタリオ?・・・と言っても、良く知られたカナダではなくカリフォルニア。ロサンゼルスとサンバナディーノの丁度中間辺りに位置する人口16~17万人の都市で、19世紀末にカナダ人の兄弟がこの土地を切り拓き、新しい街に生まれ故郷の名前をそのまま付けたのが呼称の由来。

会場のトヨタ・アリーナは1万人規模の収容が可能な多目的屋内施設で、フランチャイズにするプロスポーツチームはまだないらしいが、コンサートを始めとする大きなイベントはもとより、バスケ,アイスホッケーとともに、屋内競技の代表格としてボクシング興行も行われている。


昨年7月、アラモ・ドーム(テキサス州サンアントニオ)で当時ベルトを保持していたマグサヨから、なんとも微妙な2-1判定で王座を奪った正規王者レイ・バルガスが、3階級制覇を公言。チャンピオンのままS・フェザー級への進出を目論む。

同じく階級アップ(ライト級転出)を決めたシャクール・スティーブンソンが放棄した130ポンドのWBC王座決定戦に挑むことになり、1位のフィゲロアと前の王者で2位のマグサヨに暫定王座決定戦を承認した。

載冠を確実視されていたバルガスが、本番(先月11日)直前に126ポンドの返上を決めたとの一報があり、正規王座決定戦への格上げも取り沙汰されたが、伏兵オシャキー・フォスターによもやの大差0-3判定負けを喫してしまい(非常に好ましい結果)、2月16日に更新された最新の月例ランキングを見る限り、バルガスはフェザー級の王座に居座っている。
※WBCランキング(フェザー級)
https://wbcboxing.com/en/featherweight/


175センチの長身に恵まれたフィゲロアは、テキサス出身のメキシコ系米国人。大いに大成を期待された兄オマールとともに、実父オマール・シニアに幼い頃から仕込まれ鍛え上げられた。

無敗のままWBA S・バンタム級の暫定王座に就き、そのまま正規に昇格されると、日本人の怨敵ルイス・ネリーを荒ぶるインファイトで押し捲り、ボディの一撃で悶絶させWBC王座を獲得。

山中慎介に対する不埒極まる狼藉に加えて、我らが”リアル・モンスター”井上尚弥にも、あのカシメロに引けを取らない挑発を繰り返していた大口を塞いでくれたフィゲロアに、日本のファンは拍手喝采。不肖私めも心の底から歓喜し、とにもかくにも溜飲を下げまくった。


ネリー戦が特にそうだったと言う訳ではなく、甘いマスク&スマートな痩身を誇る(?)テキサスのニューヒーローは、繊細で脆そうな外見とは裏腹な徹底したインファイトを持ち味にする。

一気呵成に距離を詰めると、長いリーチをいささか窮屈そうに折り曲げ、密着したまま離れずに上下を叩きまくり、少々打たれたぐらいでは容易に音を上げない。

ディフェンスの穴はけっして小さいものではなく、スピードと瞬発力にも欠ける。口さがない物言いをご容赦いただけるなら、「被弾覚悟の肉弾戦」に活路を見い出す。

昨今のプロボクシングでは絶滅危惧種と表して間違いのない、典型的なラッシング・ファイターだ。スピード%シャープネスに才を発揮するディフェンシブな黒人のボクサータイプ(フルトンやシャクール,ヘイニー等々)とは、どうしようもないくらい決定的に相性が悪い。


ネリーのように打ち合ってくれる相手でないと良さを発揮できない上に、1発でし止め切れるだけの豪打者ではなく、一定水準以上のボクサーとやれば必ずラウンドが長引き、軽からぬダメージを負う。

フルトンとの2団体統一戦(スーパー王者アフマダリエフのいるWBAは統一戦を未承認=返上)は、相性を考えれば上出来も上出来。敗れたとはいえ、本当に良く頑張ったと賞賛されて然るべき。

世界のトップ戦線でどこまで身体と精神力が持つのか、引退後の健康にも不安が過ぎるリスキーな戦い方だが、それを自らの生き方にする以上止むを得ない。


そして、長身痩躯のボクサータイプ(バルガス)に僅差の割れた判定を失い、ゲイリー・ラッセル・Jr.から番狂わせで奪った王座を防衛できなかったマグサヨは、この試合がプロ初黒星からの復帰戦。2試合続けて長身とやるのは、却って都合がいいとの見方もあるようだ。

チャンピオンになって以来、あられもないクリンチ&ホールドで接近戦を回避し、露骨に乱戦を嫌う弱腰がファンの失望を買ったバルガスだが、126ポンドで調整したマグサヨ戦では、修行時代に見せてくれた強打が復活。

簡単に引き下がらずにパワーで応戦する姿を見て、「ステロイド使用はもっての外。でも、減量が負担になっていたのは事実」なのだと実感した。

本調子を取り戻したバルガスに臆せず立ち向かい、右のオーバーハンドで繰り返しヒットを奪ったマグサヨも天晴れ。


直近のオッズは、いずれもフィゲロア押し。

Brandon Figueroa vs Mark Magsayo
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
フィゲロア:-375(約1.27倍)
マグサヨ:+225(3.25倍)

<2>5dimes
フィゲロア:-265(約1.38倍)
マグサヨ:+225(3.25倍)

<3>betway
フィゲロア:-225(約1.44倍)
マグサヨ:+180(2.8倍)

<4>ウィリアム・ヒル
フィゲロア:4/9(約1.44倍)
マグサヨ:15/8(2.875倍)
ドロー:14/1(15倍)

<5>Sky Sports
フィゲロア:4/11(約1.36倍)
マグサヨ:9/4(3.25倍)
ドロー:16/1(17倍)





カリフォルニアはメキシカンとメキシコ系のボクサーのホームであり、競った展開のまま終了ゴングが鳴った場合、マグサヨの勝ちはまずない。

明確に勝ち切る為には、テン・カウントのノックアウトか、どこからも文句の出ないレフェリーストップが望まれる。バルガス以上に正面から打ち合ってくれる分、マグサヨにも決定機のチャンスは増す。

だからと言って、タフなフィゲロアを倒すのはやはり難しい。確率的には10パーセントもないだろう。


マグニフィコの本領が如何なく発揮されることを、切に切に願う。


◎フィゲロア(22歳)/前日計量:125.8ポンド
前WBA S・バンタム級正規(V1),元WBC同級(V0)王者
戦績:20戦23勝(18KO)1敗1分け
アマ戦績:不明
身長:175センチ,リーチ:183センチ
左ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎マグサヨ(27歳)/前日計量:126ポンド
※1回目の計量で0.8ポンド(約360グラム)オーバー(126.8ポンド)/*数分後に再計量を行いリミットをクリア
前WBCフェザー級王者(V0)
戦績:25戦24勝(16KO)1敗
アマ戦績:不明
※ジュニア時代にフィリピン国内の全国トーナメントで複数回の優勝経験有り
身長:168センチ,リーチ:173センチ
右ボクサーファイター







カテゴリ:
■5 or 6月/日本国内(?)/WBC・WBO世界S・バンタム(122ポンド)級タイトルマッチ12回戦
2団体統一王者 スティーブン・フルトン(米) vs 前4団体統一バンタム級王者/WBO1位 井上尚弥(日/大橋)

リアル・モンスターが進出する122ポンドの現状について、簡単におさらいしてみよう。まずは最新の世界ランキングから。

主要4団体の世界ランキング(122ポンド/11位以下は割愛・省略)

主要4団体の世界ランキング(122ポンド)
  WBA
(2023年1月31日更新)
呼称:S・バンタム級
WBC
(2023年2月16日更新)
呼称:S・バンタム級
IBF
(2023年2月11日更新)
呼称:J・フェザー級
WBO
(2023年2月14日更新)
呼称:J・フェザー級
C ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
1位 空位 井上尚弥
(日/大橋)
マーロン・タパレス
(比)
井上尚弥
(日/大橋)
2位 亀田和毅
(日/TMK)
ルイス・ネリー
(メキシコ)
空位 ライース・アリーム
(米)
3位 ケヴィン・ゴンサレス
(メキシコ)
アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
ルイス・ネリー
(メキシコ)
ルイス・ネリー
(メキシコ)
4位 シャバス・マスゥド
(Shabaz Masoud/英)
アラン・デヴィッド・ピカソ
(メキシコ)

ライース・アリーム
(米)
アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
5位 エフゲニー・パヴロフ
(カザフスタン)
ライース・アリーム
(米)
井上拓真
(日/大橋)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
6位 ヘクター・バルデス
(米)
チャイノイ・ウォラウット
(Chainoi Worawut/タイ)
カール・J・マルティン
(比)
サム・グッドマン
(豪)
7位 ラファエル・ペドロサ
(パナマ)
カルロス・カストロ
(米)
サム・グッドマン
(豪)
ムハンマド・シェホフ
(ウズベキスタン)
8位 マックス・オルネラス
(米)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
赤穂亮
(日/横浜光)
※引退を表明
9位 オーレ・ドゥフン
(Oleh Dovhun/ウクライナ)
リアム・デイヴィス
(英)
ルドゥモ・ラマティ
(南ア)
カール・J・マルティン
(比)
10位 イスラエル・ロドリゲス
(メキシコ)
武居由樹
(日/大橋)
亀田和毅
(日/TMK)
亀田和毅
(日/TMK)

主要専門サイトのランキング(122ポンド/承認は10位まで)

主要専門サイトのランキング(122ポンド)
  リング誌
(2023年2月18日更新)
呼称:J・フェザー級
TBRB
(2023年1月9日更新)
呼称:J・フェザー級
ESPN
(2023年2月21日更新)
呼称:J・フェザー級
Boxrec
(随時更新)
呼称:S・バンタム級
C 空位 空位
(※)

(※)
1位 スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
スティーブン・フルトン・Jr.
(米)
2位 ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
ルイス・ネリー
(メキシコ)
3位 ルイス・ネリー
(メキシコ)
アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
4位 ライース・アリーム
(米)
ライース・アリーム
(米)
ライース・アリーム
(米)
ムロジョン・アフマダリエフ
(ウズベキスタン)
5位 アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
井上拓真
(日/大橋)
アザト・ホヴァニシアン
(アルメニア)
マーロン・タパレス
(比)
6位 マーロン・タパレス
(比)
マーロン・タパレス
(比)
井上拓真
(日/大橋)
カルロス・カストロ
(米)
7位 ロニー・リオス
(米)
ルイス・ネリー
(メキシコ)
ゾラニ・テテ
(南ア)
ライース・アリーム
(米)
8位 ゾラニ・テテ
(南ア)
ゾラニ・テテ
(南ア)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
井上拓真
(日/大橋)
9位 マイク・プラニア
(比)
ジョンリエル・カシメロ
(比)
マーロン・タパレス
(比)
ロニー・リオス
(米)
10位 井上拓真
(日/大橋)
ケヴィン・ゴンサレス
(メキシコ)
ロニー・リオス
(米)
リアム・デイヴィス
(英)

主要専門サイトのランキングについて(補足)

  1. 「TBRB(Transnational Boxing Rankings Board)」は、リング誌元編集長のナイジェル・コリンズ,クリフ・ロールド(Boxing Sceneの主任記者)らが中心となって、2012年に立ち上げランキング制定機関。
  2. オスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(が傘下に収める出版社)によるリング誌の買収を巡り、編集長を辞任(事実上の解任とされる)したコリンズが、ランキングの策定も含めた編集方針に対するプロモーターの圧力は不可避だとして、「真に中立的な立場を担保されたランキング」の必要性を訴えた。
  3. 最大の問題は、ランキングの更新が不定期なこと。月次のアップデートができていない。ランキングの透明性と信頼性を高めることを目的として、ボードを構成するメンバーが各国に多数いることも、定期更新を難しくしているのかもしれない。
  4. Boxrecは、登録されたボクサーのレコード(勝敗)を細かく分類し、自動的にポイントに変換・集計を行い、順位を付ける仕組みを作り上げた。
  5. 対戦時点での持ち点(リアルタイムでの総得点)を基準にして、独自の係数でポイントに反映させているらしい(持ち点の多寡により勝敗と連動する獲得ポイントが変動)。
  6. 世界戦を筆頭に、タイトルマッチの構成比が高いほどポイントも上がり易くなっている模様。
  7. 最大の問題点は、そもそもの基準となるポイント計算に、対戦相手の実力が正当に反映されていると言いづらいこと。世界タイトルの乱立に加えて、大量に発生した水増しランカー等の問題は一切考慮されない為、弱い相手を選んで数多く試合を組みKO勝ちを続け、認定団体が承認するいい加減な地域タイトルの獲得・返上を繰り返すことで、相応にポイントは上昇する。


Part 4 へ続く

フルトン VS 井上尚弥が合意へ Part 2 - 手ぐすねを引いて待つ(?)S・バンタム級トップ -

カテゴリ:
■5 or 6月/日本国内(?)/WBC・WBO世界S・バンタム(122ポンド)級タイトルマッチ12回戦
2団体統一王者 スティーブン・フルトン(米) VS 前4団体統一バンタム級王者/WBO1位 井上尚弥(日/大橋)

”ナオヤ・イノウエ争奪戦”。

118ポンドの覇者が雄々しく高らかに宣言した階級アップの一報を受け、年明け早々の122ポンドが色めき立つ。

「こっ酷く打たれるのだけはご勘弁・・・」

専守防衛に閉じこもるのが精一杯のポール・バトラーを11ラウンドで完全に粉砕し、4つ目となるWBOのベルトを巻いた井上を、WBOはスーパー王者に認定(昨年12月20日付け)しただけでなく、1月14日に公表した最新の月例ランキングで、J・フェザー級(IBFとWBOは旧来の呼称を継承)の1位に据えた。

「えっ?。また正規王者決定戦をやるの?」

暫定もレギュラーも休養もいない、正真正銘の完全制覇を果たしたばかりなのに、「この期に及んで、WBOはまたぞろ正規王者をデッチ上げるつもりなのか?。余計なことを・・・」とお嘆きになる方がおられるやもしれない。

だがご安心を。WBOのスーパーチャンピオンは名誉の称号であり、新たにレギュラーチャンピオンを作る愚は冒さない(今のところは)。乱造乱発で正規との並立が常態化していた暫定王座とともに、何かと悪名が高いWBAのそれとは違う。

ちなみに、WBOのみでM・フライ(ミニマム)~フライ級までの3階級を獲った田中恒成も、同じ栄誉に浴している。

Murodjon_Inoue1


そして「井上転級」の一報に素早く反応したのは、WBAとIBFの2冠を保持するもう1人の主役,ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)も同じ。

ご本人直接のコメントではなく、エディ・ハーン(プロモーター)の発言ではあるものの、リアル・モンスターの参戦に歓迎の意向を示しているとのこと。

◎エディ・ハーンの発言に関する記事
<1>Hearn: Akhmadaliev Would Have Absolutely No Problem Fighting Inoue For Undisputed
2023年2月8日

<2>Eddie Hearn Won’t Block Naoya Inoue Vs. Murodjon Akhmadaliev For Undisputed At 122 This Year
2023年1月29日/Boxing News24

<3>Hearn: “Inoue Against Akhmadaliev Is An Unbelievable Fight!”
Eddie Hearn Says Team Akhmadaliev Wants To Fight Naoya Inoue!
2023年1月19日/3KING BOXING WORLDWIDER
https://3kingsboxing.com/eddie-hearn-akhmadaliev-wants-inoue-fight/


2019年4月以来、同胞のシャフラム・ギヤソフ(リオ五輪ウェルター級銀メダル/プロ13連勝9KO)と一緒に”MJ”を獲得(ロシアの主要なファイターを傘下に置くプロモーター,アンドレイ・リャビンスキー,同じくロシアの若き敏腕マネージャー,ヴァディム・コルニリョフとの共同プロモート)したエディ・ハーンが、「2人のマッチアップに障害は無い。マーロン・タパレスとの指名戦(IBF/4~5月中の開催を予定)を終えれば、何時でも交渉をスタートできる。」と断言。

フルトンのケースと完全に共通するが、常に争点の中心となる放映権(ESPN VS DAZN)の問題は、「然るべき額での金銭譲渡で解決できる」との判断を示している。

「フルトンと井上の交渉が不調に終るようなら、我々はすぐに動くことが可能だ。タパレス戦の後にはなるが、そう遅くない時期にやれるだろう。」


また、S・バンタムに上げる前から井上との対戦に積極的だったルイス・ネリーが、性懲りも無く名乗りを挙げている。

「イノウエは過大評価され過ぎだ。実際はそこまでのボクサーじゃない。オレとやればわかる。あっという間にメッキが剥がれるからな。」

2017年~2019年にかけて、事あるごとに挑発的なコメントを振りまいていた。短期間だったがフレディ・ローチと組んだ時期(ネリーのウェイトオーバーで幻に終ったエマニュエル・ロドリゲス戦に備えた体制一新/2019年11月)もあり、ローチと一緒に「井上恐るるに足らず」とぶち上げる映像もあった筈だ。


ステロイド使用と確信犯の体重超過で我らが山中慎介のキャリア最終盤にとんでもない泥を塗り付け、JBCから事実上の追放処分(日本国内開催の興行からの締め出し)を受けた後、WBCバンタム級の指名挑戦権を懸けたマニー・ロドリゲス戦でも同じ真似を繰り返し、懲りた様子もほとんど感じられない。

日本側の顔を立てる為に一定期間ランキングから除外していたWBCも、ネリーがS・バンタムへの増量を正式に表明(2020年2月)すると、すぐに1位に復帰させてアーロン・アラメダ(メキシコ/対戦当時WBC6位)との王座決定戦を用意している。

この時期正規王者のレイ・バルガスは、前戦の挑戦者フランクリン・マンサニージャに負けず劣らず、バッティング上等の押し合い&揉み合いを仕掛け続ける亀田和毅に手を焼きながらも、誰の目にも明らかな3-0判定に下してV5を達成(2019年7月/和毅の暫定王座も吸収統一)。


長身故に付いて回る体重維持の困難を訴えて、フェザー級進出に色気を出し始めていたところへ、2試合連続のラフ&ダーティ(大の苦手にする乱戦)で負った傷の治療、同年11月に発覚したドーピング違反、長らく世話になったゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(DAZN)からPBC(Showtime)への乗り換えに足の負傷がかさなり、WBCは休養王者への横滑りを決定した(2020年8月/直後に空位:はく奪 or 返上)。

126ポンドの指定席(S・バンタムを放棄した場合即座に1位に据える)を横目で睨みつつ、好条件での復帰戦を模索するバルガスは、パンデミックの追い討ちを受ける格好で戦線離脱が続き、結果的にブランクは2年4ヶ月に及ぶ。

いずれにしても、WBCは余裕でネリーに決定戦を融通できる状況にあったということ。そして1年2ヶ月ぶりの実戦復帰となったアラメダ戦(2020年9月)では、バンタム級時代に発揮していた圧巻のパワーは影を潜めてしまい、大苦戦の末にポイント差が大きく割れた3-0の判定勝ち(118-110,116-112,115-113)を拾う。

こうしてWBA王者フィゲロアとの2団体統一戦が整い、周知の通りまったくいいところを見せることなく、テキサスのニューアイドルに押し捲られて7回TKO負け。サイズの不利も無関係ではなかったけれど、フィゲロアの左フックでレバーを抉られ悶絶するネリーの姿に、日本のファンは拍手喝采で大いに溜飲を下げた(2021年5月)。


昨年2月にセットされた再起戦は、アリゾナ期待の無敗のホープ,カルロス・カストロとのマッチアップ。170センチの長身痩躯を目一杯活かすボクサーに近いボクサーファイターだが、2021年8月の前戦では、ベテランのオスカル・エスカンドンを相手に頭をくっつけたプロのインファイトで応戦。不得手の白兵戦を敢えて選び、見事に勝ち残っている。

乱戦を嫌がる点はレイ・バルガスと良く似ていて、V字回復を目論むネリーには持って来いとも思われたが、エスカンドンを押し切ったフィジカルは想像以上に強く、そうは簡単に問屋は卸さないだろうと考えいたら案の定。

微妙なスプリット・ディシジョン(96-93,95-94,94-95)の後押しで、どうにかこうにかWBCシルバー王座を獲得したが、どうしようもないパフォーマンスの低下は明らか。


山中慎介の”ゴッドレフト”を潰す為にステロイドに手を出し、それが見つかると再戦では意図的な体重超過。118ポンドで見せた強さの源泉が、「PED+計量後の大幅なリバウンド」だったことを自ら証明してしまったに等しい。

流石にマズイと慌てた(?)チームは、昨年10月の再起第2戦で同胞のデヴィッド・カルモナを引っ張り出す。115ポンド時代の井上尚弥に有明で挑戦して、判定まで粘った勇敢なファイターを覚えておいでの方も多いだろう(2016年5月)。

モンスターとの奮戦を終えた後、カルロス・クァドラスにも善戦したが判定負け。その後階級をアップして、2017年以降バンタムとS・バンタムを行き来しながらキャリアを継続するが、ネリー戦を迎えた時点で7戦して2勝5敗。


負けた相手にはカル・ヤファイ(ロマ・ゴンに王座を追われた後バンタムへ上げた)も含まれるが、無名の中堅クラスに思うように勝てない。年齢は31歳で老け込むようなトシではないが、163センチ弱(162.3=井上戦の予備検診データ)のサイズも苦闘の要因。

自分より小さく最近は負けが込み、6年も前の話しにはなるが、モンスターの豪打に耐え抜いて12ラウンズをしのぎゴールテープを切っている。ノニト・ドネアとともに、16戦を数える世界タイトルマッチにおいて、モンスターがKOできなかった「たった2人の男」の1人。

かなり高い確率でKO勝ちが見込める上、首尾良くし止めることができれば井上戦のアピールにも何かと都合がいい。良く考えられたマッチメイクであり、陣営が望む通りの即決(3回)KOでネリーは試合を終わらせた。


今週末(明日)、アザト・ホヴァニシアン(アルメニア)とWBCの指名挑戦権を懸けて戦う予定のネリーが、リング誌のインタビューでまたぞろ何事かを喚き散らした(?)模様。

◎リング誌に掲載された記事
LUIS NERY WARNS AZAT HOVHANNISYAN: YOU WILL SEE THE FAST, AGGRESSIVE ‘PANTERA’ LOOKING FOR THE KO
2023年2月15日/Ring Magazine

「過大評価のされ過ぎは、ナオヤじゃなくてお前だろう?」

ついでに教えてやるが、S・フライ級時代のモンスターは試合の度に拳を傷めていた。減量苦による腰痛も抱えて、コンディショニングをやりくしながらの連続防衛だった。

カルモナ戦でも第2ラウンド早々に右の拳をやってしまい、まともに使えるのは左1本の状態で大差の判定勝ちを収めている。


アルメニアからカリフォルニアに移民してきたホヴァニシアンは、昨年9月モンスターがハリウッドのワイルドカードで行ったスパーリング合宿で手合わせ済み。ジャパニーズ・モンスターのパートナーに自ら名乗りを挙げたとのことで、モンスターを追い詰めたらしい(?)アダム・ロペスと並ぶ猛者たちの代表格。

ごく短く編集された映像ではあったが、NHKが4冠達成直後に放送したドキュメンタリーにその様子が収められていた。

Luis Nery_Azat Hovhannisyan
※後方の中央はお馴染みのオスカー・デラ・ホーヤ(興行を主催するプロモーター)


”クレイジーA”の異名を持つアルメニアのファイターは、レイ・バルガスに挑戦(2018年5月)して大差の0-3判定に退いてはいるものの、逃げ足の速い長身痩躯のクリンチワークに絡め取られて攻め手を塞がれ、ペースポイントを献上する現代のファイターたちが頭を悩ます典型的な負けパターン。真正面から打ち合ったら滅法強い。

この際だからホヴァニシアンにネリーを潰して貰い、煩いだけの口を塞いで欲しい。後半~終盤にかけてのストップでアルメニア移民の勝ちと読むが、実は崖っぷちのネリーが、PEDの助けを借りていないことを願うのみ。


◎ネリー VS ホヴァニシアン戦関連記事
<1>Luis Nery vs. Azat Hovhannisyan Finalized For February 18
2023年1月25日/Boxing Scene
https://www.boxingscene.com/luis-nery-vs-azat-hovhannisyan-finalized-february-18--172046

Azat Hovhannisyan: Luis Nery has my respect, but he’s in for a war
Azat Hovhannisyan is gearing up for a war against Luis Nery on Feb. 18.
2023年2月10日/Bad Left Hook



Part 3 へ続く

フルトン VS 井上尚弥が合意へ Part 1 - 転級初戦がいきなり最終ステージ? -

カテゴリ:
■5 or 6月/日本国内(?)/WBC・WBO世界S・バンタム(122ポンド)級タイトルマッチ12回戦
2団体統一王者 スティーブン・フルトン(米) VS 前4団体統一バンタム級王者/WBO1位 井上尚弥(日/大橋)

Fulton_Inoue 1

シャクール VS 吉野戦内定の速報に続いて、ESPNがまたまた特大のリーク。バトラー戦からちょうど1ヶ月を経た先月13日、4本のベルト返上とS・バンタム級への進出を正式に表明した井上尚弥が、その初陣でいきなりフルトンに挑戦・・・?。

来たる2月25日、122ポンドのベルトを保持したまま、126ポンドのWBC暫定王座を懸けたブランドン・フィゲロアとの再戦が内定(前戦に続くミネアポリス開催)と報じられていただけに、急転直下の感が否めないのも確か。

□Naoya Inoue, Stephen Fulton agree to 122-pound title bout
2023年1月19日/ESPN


リング誌が先月12日に掲載した記事では、フルトン VS ダニー・ローマン戦が行われたアーモリー(ミネアポリスにある8,400人収容の屋内競技場)が用意され、フルトン VS フィゲロア2を筆頭に、以下の2試合を含めた”トリプル・ヘッダー”と報じられている。

□STEPHEN FULTON-BRANDON FIGUEROA REMATCH LIKELY FOR FEBRUARY 25 ON SHOWTIME
2023年1月12日/Ring Magazine

◎IBF J・ウェルター級王座決定戦
IBF1位 ヘレミアス・ポンセ(亜) VS IBF2位 スベリアル・マティアス(プエルトリコ)

◎S・ライト級10回戦
エルヴィス・ロドリゲス(ドミニカ) VS ジョセフ・アドルノ(米)
※アンダーカード:未定

30連勝(20KO)のパーフェクト・レコードを更新中のポンセ(26歳)は、テレンス・クロフォードに続いて140ポンドの4団体を制圧したジョシュ・テーラー(英/スコットランド)への指名挑戦権を得ていたが、147ポンドへの階級アップを公表済みの統一王者は、2-1の判定を巡って紛糾したジャック・カテラル(英/イングランド)とのリマッチしか眼中にない。

カテラルとの決着戦が140ポンドのラスト・ファイトという訳で、指名戦の履行を求めるWBA(昨年5月),WBC(同7月),IBF(同8月)のベルトを相次いで返上。決定戦が行われたWBAとWBCは、以下の通り昨年中に新チャンピオンを承認済み。

※WBA:アルベルト・プエリョ(プエジョ/ドミニカ)
昨年8月20日,フロリダ州ハリウッドで2位のバティル・アフメドフ(ウクライナ)に12回2-1判定勝ち

※WBC:レジス・プログレイス(米)
昨年11月26日,カリフォルニア州カーソンで1位ホセ・セペダ(米)を11回KOで撃破。およそ3年ぶりとなる王座奪還に成功した。


残ったIBFの決定戦でポンセに挑むマティアス(30歳/18勝全KO1敗)は、プエルトリコ期待の140パウンダー。

やはり同じ階級の次期王者候補の1人と目されるドミニカのプロスペクト,エルヴィス・ロドリゲス(27歳/13勝12KO1敗)に相対するアドルノ(23歳/17勝14KO1敗2分け)も、ロドリゲスに引けを取らない好レコードの持ち主で、フルトンと同じフィラデルフィアの出身。

ライト級の熱気と群雄割拠には今1歩及ばないながらも、途切れることなく新たなタレントが顔を出す(テオフィモ・ロペスも参入)。激戦区の激戦区たる所以だろう。


忙しさに取り紛れて記事をアップできないでいるうちに、御大ボブ・アラム(井上の共同プロモーター)もコメントを出したようだ。

◎Naoya Inoue Vs. Stephen Fulton Possible For April Says Bob Arum
2023年1月30日/Boxingnews24
https://www.boxingnews24.com/2023/01/naoya-inoue-vs-stephen-fulton-possible-for-april-says-bob-arum/

◎JAKE PAUL VS TOMMY FURY WILL DO VERY GOOD BUSINESS ' Bob Arum Fury-Usyk update
2023年1月29日



リング誌に記事が出た1月上旬の時点では、Boxrecのスケジュールにも掲載されていなかったが、本番まで約1ヶ月というタイミングでようやくアップされた。半ば当然の事ながら、井上戦が具体化したフルトンの名前は無い。

また、開催地ミネアポリスの出身で、ロンドン五輪の代表候補からプロ入りした遅咲きのウェルター級,ジャマル・ジェームズ(34歳/27勝12KO2敗/アマ150戦超)が、一昨年10月に喫したプロ2敗目(ラジャブ・ブタエフのWBAレギュラー王座に挑戦して9回TKO負け)からの復帰戦が追加されている。

※Boxrec Fight Schedule
Saturday 25, February 2023
Armory, Minneapolis, Minnesota, USA

同じくフィゲロアも未記載だが、フルトン撤退の穴を埋めるべく、ランク3位の前王者マーク・マグサヨ(比)のスクランブル発進に関する記事が既に出ていた。

※Magsayo eyes return to throne
2023年1月7日/PhilBoxing.com


マグサヨから正規王座を奪取したレイ・バルガスに、フェザー級のベルトを持ったままS・フェザー級の決定戦を承認したことでも分かる通り、WBCはメキシカン(とメキシコ系米国人)の人気選手のプロテクトについて一切躊躇しない。

ドーピング違反が発覚したカネロとバルガス、PED使用+確信犯の体重超過をセットでやからかしたルイス・ネリー&デヴィッド・ベナビデスに対する過剰なまでのバックアップはもとより、かつてのエリック・モラレスやリカルド・ロペス,トラヴィエソ・アルセらへの厚遇を引き合いに出すまでもないと思う。

人気者のフィゲロアに何としても126ポンドの暫定を獲らせて、今週末アラモドーム(テキサス州サンアントニオ)で首尾良くバルガスが勝利したあかつきには、正規王座をバルガスからフィゲロアへと禅譲(バルガスが返上→暫定から繰り上げ)させる腹づもり。

相手が始めからマグサヨだったなら、フィゲロアの暫定王座戦もアラモドームの興行に組み込んでいたに違いない(人気者のフィゲロアはテキサス出身)。

Brandon Figueroa

集客と視聴者数の都合だけを考えれば、「フルトン VS フィゲロア2」もテキサスかカリフォルニアでやった方がいいに決まっている。素人でもわかる理屈で、議論の余地はない。

しかし、米本土で最もメキシコ系移民の人口構成比が高い西海岸のカリフォルニアと第2位テキサスでの開催について、判定決着ありきのフルトン陣営が嫌がり避けるのも当たり前。どちらとも取れる微妙なラウンドを、全部フィゲロアに持って行かれたらそれこそ一大事。

競った展開を覚悟しなければならないフィゲロアと彼の陣営もまた、フィラデルフィア(フルトンのホームタウン)やニューヨーク,アトランティックシティといった東海岸の要所へは行きたくない筈。

S・ミドル級のニュー・センセーション(?),デヴィッド・モレル(キューバ)が、亡命後の生活と活動の拠点を何故かフロリダ(150万人規模に及ぶ亡命キューバ人の大きなコミュニティがある)ではなくミネアポリスに置いていた為、WBAレギュラー王座の防衛戦もすべてアーモリーで行われていた。

大き過ぎず小さ過ぎない小屋のキャパシティ(8千人超)も、モレルだけでなくフルトンの現在地(バリュー=商品価値)には程良いサイズだとの判断なのかもしれない。


2014年秋にデビューしたフルトンは、8年間のプロ生活で21戦をこなしているが、地元のペンシルベニア州内で行われたのは9試合(半数以下)。そのうちホームタウンのフィラデルフィアでは3試合しかやっておらず、なおかつ修行時代(キャリアの前半=2017年まで)に集中している。

場所もカジノが併設された多目的商業施設にリングを設営したり、1,300人しか収容できない2300アリーナ(ウズベクの雄クァドラティロ・アブドゥカハロフと小原佳太のエリミネーターが行われた会場)が使われていて、念願の世界チャンピオンになって以降も、1万人規模のリアコウラス・センター(アルトゥール・ベテルビエフとオレクサンドル・ゴズディクのL・ヘビー級統一戦を開催)には未登場。

後で述べるけれど、フルトンの人気と集客力(視聴者数)は、アル・ヘイモン=PBC(Premier Boxing Champions)の興行を取り仕切る主要プロモーター、そしてPBCの主要な興行を中継するShowtimeの厚く堅い信頼を勝ち得るまでに至っていない。


一昨年11月にラスベガスで行われた第1戦で、判定(0-2のマジョリティ・ディシジョン)に納得できないフィゲロアが、お馴染みのジム・グレイによる勝利者インタビューに割って入り、「ちょっと待て!。勝ったのはオレだ!。観てくれたファンが証人だ!」と詰め寄った。

Fulton_Figueroa 1

「スポーツマンシップに欠ける。悔しいのはわかるが恥ずべき行為だ。」

フィゲロアに対する批判は半ば当然で、致し方のないところではある。但し、どこにもぶつけようのない怒りを抑えることができず、やらずもがなの抗議に及んだフィゲロアの無念にも同情の余地が無い訳ではない。


リング上で火花を散らしたこのやり取りのお陰で、リマッチへの流れは完全に出来上がったと誰もが確信した筈だが、フィゲロアの増量で一旦は胡散無償したかに思われた。

現代のテキサスを代表するアイドルとの再戦は無くなったものの、前WBA・IBF統一王者の強敵ダニー・ローマンとの防衛戦が決定。接(苦)戦は必至との予想を大きく覆し、ほぼフルマークの大差判定で終わらせると、フェザー級でのフィゲロアとの再戦が一気に具体化(失意のローマンはそのまま引退)。

長身のフィゲロアだけでなく、フルトン自身も厳しさを増すウェイト・コントロールについて繰り返し言及していた経緯があり、現状想定し得る対戦相手の中では最も稼ぎのいいフィゲロアを選ぶしかないという見方が大勢を占める。

「126ポンドに完全に移動するのかって?。そりゃあ条件次第だ。」

フルトンにしても、122ポンドのベルトを持ったままでのフェザー級挑戦。フィゲロア戦以上のリターンが見込める井上戦の可能性を残し、126と122の両面待ちを決め込む。


Part 2 へ続く

このページのトップヘ

見出し画像
×