Naoya The Great - Chapter 1 夢のまた夢・・・リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤーに選出 Part 3 -

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■2023 Fighter of the year - リング誌が井上尚弥を選出


Naoya-Pac2

井上の受賞に一言いいたいと思うのは、クロフォード本人や在米マニアだけに止まらず、ボクシングに愛情を注ぎ続けてきた、それこそ一家言を持つ者たちの中に、国と地域に関わらず一定の割合居るに違いない。

主にSNSを通じて展開される異論・反論もまた、井上自身には何の責任もないことではあるが、反骨心にも並々ならぬものを持つモンスターだけに、心に期すものが既に溢れているのではないか。

それは、2年連続での受賞。いや、3年連続で受賞し、アジアNo.1のパッキャオに並ぶこと。100年近いリング誌の表彰歴を振り返っても、3年連続での受賞は過去に例がない。パックマンを超える4度の受賞ですら、今現在の井上なら不可能ではないとさえ思えるが、30代に突入した年齢を考えると流石に厳しい。

また、階級も大きなハンディキャップになる。何だかんだ言っても、王国アメリカのボクシング・マーケットを支える揺ぎ無い看板は、ウェルター級から上の中~重量級になる。軽量級のトップ・ファイターが伍していくには、誰もが納得するしかない結果、頭3つも4つも飛び抜けた実績が不可欠。


4つあるフェザー級のどれか1つを獲って5階級制覇を達成しても、それだけではアンチの口を完全に黙らせることはできない。「中量級とは競争の激しさが違う。同列には論じられない」との主張が繰り返される。

これまでと変わらない圧倒的なパフォーマンスを維持したまま、126ポンドでも4本のベルトを集めて、史上唯一となる「3階級+4団体統一」をやってのければ、2度目の年間MVPは確実だ。外す理由がない。

だが、相対的なパワーダウン&体格差をスピード&テクニックで補い切れず、悪戦苦闘が続く中でのギリギリ薄氷の載冠であったり、メイウェザーよろしくタッチ&アウェイの安全策に閉じこもるしかなくなったら、突出した力を発揮する若い才能に道を譲らざるを得ない(それが米国籍の黒人やメキシコ系ならなおさら)。


あくまで試合内容と勝ち方次第にはなるが、フェザーを完全制覇した後、さらにS・フェザーの2団体をまとめて(4つすべては無理にしても)、6階級制覇+王座統一(3つ・4つである必要はない)の離れ業まで行けば、パッキャオに並ぶことも夢ではなくなる。


◎パッキャオの受賞歴:3回

第1回目:2006年:S・フェザー級
一度惜敗したエリック・モラレスと2度対戦して連勝。特に3回KOで圧勝した第3戦は、出世試合となったフェザー級時代のマルコ・A・バレラ第1戦に勝るとも劣らない、大きな衝撃を全世界に与えた。

■ vs モラレス第3戦:3回KO勝ち
<1>2006年11月18日/トーマス&マックセンター,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦


<2> vs モラレス第2戦:10回TKO勝ち
2006年1月21日/トーマス&マックセンター,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=W8RDO7VaJ34

<3> vs モラレス第1戦:12回0-3判定負け
2005年3月19日/MGMグランド,ラスベガス
WBCインターナショナルS・フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=Sl4V0e2Odqw

<4> vs マルコ・アントニオ・バレラ第1戦:11回TKO勝ち
2003年11月15日/アラモドーム,テキサス州サンアントニオ
※リング誌フェザー級王座認定(WBCフライ,IBF J・フェザーに続く3階級制覇)
https://www.youtube.com/watch?v=I0rhQX6WFpw

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第2回目:2008年
<1>3月15日:ファン・M・マルケスに2-1判定勝ち
マンダレイ・ベイ・リゾート&カジノ,ラスベガス
WBC S・フェザー級王座獲得(4階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
https://www.youtube.com/watch?v=31WoU-BJMdw

<2>6月28日:デヴィッド・ディアスに9回TKO勝ち
マンダレイ・ベイ・ホテル&カジノ,ラスベガス
WBCライト級王座獲得(5階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
※個人的にはパッキャオのベスト・パフォーマンスだと確信する
https://www.youtube.com/watch?v=WgsHmnnMC34

<3>12月6日:オスカー・デラ・ホーヤに8回終了TKO勝ち
MGMグランド,ラスベガス/ウェルター級契約12回戦


ボクシング界のセオリーを難なく乗り越え、「階級の壁」を根底から覆したパッキャオが、メイウェザーと並ぶスーパースターへと飛翔した歴史的な勝利。

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第3回目:2009年
<1>5月2日:リッキー・ハットンに衝撃的な2回KO勝ち
MGMグランド,ラスベガス
リング誌J・ウェルター級王座認定(6階級制覇=リング誌フェザー級王座を含む)
※世界中のファンが支持するに違いないパッキャオのベストKO


<2>11月14日:ミゲル・コットに12回TKO勝ち
MGMグランド,ラスベガス
WBOウェルター級王座獲得(7階級制覇=リング誌J・ウェルター,フェザー級王座を含む)
https://www.youtube.com/watch?v=kUruG4y9mak


マルケス(2008年3月)とディアス(2008年6月)を連破して、3ヶ月のスパンでS・フェザーとライトの2階級を獲り、暮れにデラ・ホーヤを引退に追い込んだ後、さらにハットン,コットと三立ての快進撃。2008年から2009年にかけてのパッキャオは、紛れも無い”東洋の奇跡”だった。

「正気か?。カネに眼が眩むのも程がある。本気でパッキャオを殺す気か?」

デラ・ホーヤの引退試合に担ぎ出され、ウェルター級契約の12回戦と公表されるや否や、、存命だったドン・ホセ・スレイマンWBC会長を皮切りに、世界中の関係者から轟々たる非難が集中。

加齢と歴戦の疲労に、古傷(左肩の腱筋断裂)の再発まで重なり、その上無理なウェイト調整を自らに科したゴールデン・ボーイ。ラスト・ファイトのコーナーを預かったメヒコの名匠ナチョ・べリスタインによると、本番1ヶ月前に147ポンドの契約リミットまで絞っていたらしい。


154ポンドのS・ウェルター級に主戦場を移して7年が経ち、仕上がりに不安があったのだと思う。147でどの程度動けるのか、確かめたかったに違いない。しかしナチョは、「性急に落とし過ぎだ。キャンプのメニュー消化にも悪影響を及ぼす。すぐに150まで体重を戻すべきだ。」と進言。

お付きの栄養士に、ナチョ自身が直接食事の改善を申し入れしたというが、実際にどうなったのかは不明。公式計量と再計量の結果は次の通りだが、体格差に関する辛らつな批判が余程堪えていたかもしれない。

◎デラ・ホーヤ:前日145ポンド⇒当日147ポンド
◎パックマン:前日142ポンド⇒当日148ポンド1/2


わざわざ契約体重を2ポンドアンダーして、空腹のまま眠れる一夜(?)を耐えて、当日午前中の再計量で147のリミット丁度に合わせたのは、「ウェイトのハンディは無い。フェアな勝負だ」との、デラ・ホーヤなりの無言のアピールではなかったか。

内容と結果を振り返って見れば、ナチョの心配がそのまま現実になってしまった。足取りも反応も鈍く重く、満足に動けないまま為す術がない落日のスーパースターを、小柄なパッキャオがスピードと手数で翻弄。思うがままに打ち据え、最後はコーナーに詰めて滅多打ち。

8回終了後のインターバル中、顔面を酷く腫らしたゴールデン・ボーイは、すっくと椅子から立ち上がると、対角線上を真っ直ぐ歩みを進めて、パックマンとローチにギブアップの意思を伝えてジ・エンド。

Naoya-Pac1

フルトンを完封した井上のボクシングも圧巻ではあったが、年間MVPを連続受賞したパックマンと3名のビッグネームが繰り広げた熱いドラマ、現在の井上と同じ30歳前後のパッキャオが発揮したアビリティとパフォーマンスは言語を絶する。

デラ・ホーヤ,ハットン,コットに比肩し得る名前が、現在のS・バンタム~S・フェザーには見あたらない。バレラ&モラレス,イスラエル・バスケスとラファエル・マルケス、以上ベスト4より1~2枚格は落ちるが、レオ・サンタクルス,アブネル・マレス,ジョニー・ゴンサレス,オスカー・ラリオス・・・。

90年代半ば~2000年代の最初の10年の軽量級を、強力に牽引したメキシカン・レジェンドに匹敵するヒスパニック系の後継者がいてくれたら、122~126ポンドの景色はまるで違ったものになっていただろうに・・・。

モンスターと言えども、この男たち(全盛期のバレラ,モラレス,R・マルケス=4強)と戦ったらどうなるかわからない。誰もがそう思える真のライバル不在こそ、リアル・モンスター,井上尚弥にとっての最大の悲劇ではないのか。

ルイス・ネリーごときは、リアルなメキシカン・レジェンド4強の足元にも及ばない。はっきり申し上げて「顔じゃない」のである。


◎Part 4 へ


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■複数回の受賞者一覧/最多はアリの6回(!)

<1>6回:モハメッド・アリ(米)
<2>4回:ジョー・ルイス(米)
<3>3回:
(1)ロッキー・マルシアノ(米)
(2)ジョー・フレイジャー(米)
(3)イヴェンダー・ホリフィールド(米)
(4)マニー・パッキャオ(比)
<4>2回:
(1)トミー・ローラン(米)
(2)バーニー・ロス(米)
(3)エザード・チャールズ(米)
(4)シュガー・レイ・ロビンソン(米)
(5)インゲマール・ヨハンソン(スウェーデン)
(4)フロイド・パターソン(米)
(7)ディック・タイガー(ナイジェリア)
(8)ジョージ・フォアマン(米)
(9)シュガー・レイ・レナード(米)
(10)トーマス・ハーンズ(米)
(11)マーヴィン・ハグラー(米)
(12)マイク・タイソン(米)
(13)ジェームズ・トニー(米)
(14)フロイド・メイウェザー(米)
(15)タイソン・フューリー(米)
(16)カネロ・アルバレス(メキシコ)


Naoya The Great - Chapter 1 夢のまた夢・・・リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤーに選出 Part 2 -

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■2023 Fighter of the year - リング誌が井上尚弥を選出



クロフォードは昨年1試合しか戦っておらず、それがスペンスとの4団体統一戦だった。両選手ともP4Pのトップ10入りを果たしており、対戦時はクロフォードが3位(井上:2位)で、スペンスは4位。

すなわちウェルター級の4団体統一戦は、P4Pトップ5以内に入る者同士の激突であり、戦前の予想も50-50の互角との見方が大勢を占めていた。米国の識者や関係者から高い評価を得ているスペンスをクロフォードはまったく問題にせず、一方的になぶり続けて後半のストップに追い込んでいる。

◎PBCオフィシャル・ハイライト



井上も過去最大の難敵と見られたフルトンをワンサイドの8回TKOに下しているが、2団体を統一したとは言え、世界王者としての実績が浅いフルトンはP4Pランク外で、アフマダリエフを超特大の番狂わせで破ったタパレスも同様。しかも、タパレスの勝利を予想する者は誰もいなかった。

制圧したウェイトを比較すると、クロフォードの3階級に対して井上は4階級。ただし、これにも当然異論はある。王国アメリカでは「正統8階級(Original 8)」への信奉が未だに厚く、ジュニア・クラスを認めたがらない人たちが何時の時代にもそれなりにいる。
※正統8階級:ヘビー,L・ヘビー,ミドル,ウェルター,ライト,フェザー,バンタム,フライの8つ

歴史が長いJ・ウェルター(S・ライト)とJ・ライト(S・フェザー)2階級と、1960年代初頭に創設されたS・ウェルター(J・ミドル)級は別にしても、1970年代半ば以降に増えたジュニア・クラスを軽視する傾向は根強く残っていて、とりわけ3階級⇒7階級に倍増したフェザー級以下の軽量級は、強い風当たりを受ける場面が少なくない。


1975年にWBCがJ・フライ(L・フライ)級を作った時、「フライ級で通用しない小柄な男たちの集まり」だと、辛らつかつあからさまな批判、否定的な言葉が聞かれた。

事実WBCの初代王者フランコ・ウデラ(伊)は、ミラノで行われたバレンティン・マルティネス(メキシコ)との決定戦で、反則勝ちを拾いに行った行為が疑問視されたことも相まって、母国のファンにも歓迎されず強いショックを受けたと公言。即座にベルトの返上とフライ級への出戻りを表明。翌月には欧州王座(EBU)に挑戦している(2回NC)。


ウデラは五輪2大会連続出場(1968年メキシコ:L・フライ/1972年ミュンヘン:フライ)の戦果を引っさげ、大きな期待を受けてプロに転じたエリート選手だったが、公称152センチの小兵で体格差に苦しんだ。

転向してから2年半後に実現した初挑戦(WBCフライ級)でも、大場政夫(王者のまま23歳の若さで交通事故死/2015年に殿堂入り)と五分の勝負を繰り広げ、小熊正二と4度も戦ったベネズエラの実力者ベツリオ・ゴンサレスに10回TKO負け。ゴンサレス戦までに18戦をこなしているが、3度の敗北を喫している。

メキシコ五輪で初めて採用された108ポンド(アマの呼称:L・フライ級)の新設は、ウデラに限らず160センチ未満の選手にとって大きな福音となった。決定戦に推挙されたウデラは、「自分の為の階級だ」と喜び勇んで参戦。しかし、「プロの108ポンドは、同胞のファンでさえ世界チャンピオンと認めてくれない」と失望を露にした。


続く1976年、多くの批判や忠告を意に介すことなく、またもやWBCがJ・フェザー(S・バンタム)級を立ち上げると、J・フライ級と同じ状況に陥る。曰く、「Original 8」のフェザーでトップになれない連中のお助け場・・・。

そしてこの否定的な意見は、1920年代に王者の承認が始まったJ・ライト級とJ・ウェルター級も同様で、世界タイトルとしての権威をまったく認められず、1950年代後半に再始動するまで、四半世紀に渡る長い休止が続いた。

共に殿堂入りを果たし、ライバルでもあったバーニー・ロス(ライト,J・ウェルター,ウェルター)とトニー・カンゾネリ(フェザー,ライト,J・ウェルター)の2王者は、現役時代はもとより、1930年代末に引退してから20世紀を終えるまでの60余年、王国アメリカのヒストリアンたちに「2階級制覇王者」として扱われ続け、「3階級制覇」を認められるようになったのは、21世紀を迎えて以降、ここ十数年のことである。


フィリピンの英雄フラッシュ・エロルデがJ・ライト級の王座に就き、ライト級の東洋王座と同時並行で連続10度の防衛を果たし、N.Y.の殿堂MSGを満杯にしたプエルトリコの人気者,カルロス・オルティスがJ・ウェルター級のベルトを巻いたお陰で、両階級は2度目の休止を免れた。

それでもなお、1962年に新設されたJ・ミドル(S・ウェルター)級を含めて、「ジュニア・クラス」と一括りにされ、「正統8階級」より一段も二段も低く見られた上、「稼げない不人気クラス」に甘んじ続ける。


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1960~70年代にかけて、人気と実力を兼ね備えた中量級のボクサーと、それらの人気選手を預かるプロモーターとマネージャーが「ジュニア・クラス」を敬遠してくれていたから、東洋圏のトップレベルが割って入ることができた。逆説的ではあるが、これもまた事実。

ライト級,ウェルター級,ミドル級でトップに君臨する東洋のボクサーは、いざ世界を狙う段になると、それぞれJ・ライト級,J・ウェルター級,J・ミドル級へと階級を下げるのが常だった。

状況が変わり始めたのは、70年代後半~80年代初頭にかけてのこと。

史上最年少王者(17歳6ヶ月)として国際的な注目を集めた早熟の天才,ウィルフレド・ベニテス(プエルトリコ/J・ウェルター,ウェルター,J・ミドル獲得/ミドル級挑戦は失敗)と、アレクシス・アルゲリョ(ニカラグァ/フェザー,J・ライト,ライト級を獲得/J・ウェルター級奪取は成らず)が、「ジュニア・クラス」であるにも関わらず米本土で人気を博し、相次いで3階級制覇を達成(1981年5月~6月)。

正統8階級しか認められていなかった時代に、8つしかないベルトのうち3つを同時に獲ったヘンリー・アームストロングの快挙(1937年10月~1938年8月にかけて達成)以来、半世紀近く途絶えていた大記録が、3つ同時ではないけれども1ヶ月の短い間隔で達成され、「ジュニア・クラス」への蔑視・軽視が徐々に解消し出す。

とりわけアルゲリョの果たした役割は大きく、今やベスト・ウェイトの評価も高いJ・ライト級で連続8回の防衛に成功(7KO)。地味で目立たなかった130ポンドに在米ファンと関係者の熱視線を集め、当時誰も考えすらしなかった4階級制覇を目指し、J・ウェルター級最強のアーロン・プライアー(米)と2度戦い、力及ばず敗れはしたものの、200万ドル超のビッグマネーファイトを実現(PPVはスタートしたばかりのヨチヨチ歩き)した。

N.Y.の殿堂MSGで高評価を得たベニテスとアルゲリョの偉業と人気に触発されたボブ・アラムが、シュガー・レイ・レナード,トーマス・ハーンズ,ロベルト・デュランの3王者を参入させたことで、特別に地味だったJ・ミドル級も一気に活性化。


さらにアラムは、ミドル級の覇王マーヴィン・ハグラーを巻き込み、レナードを軸にした「中量級ウォーズ」を大いに喧伝。稀代のスーパースター,モハメッド・アリという巨大な太陽を失った(1981年に引退)ボクシング界を停滞から救い出し、マイク・タイソンの出現までつなぐ。

”石の拳”デュランの4階級制覇、レナードとハーンズによる(不毛な)「5階級制覇合戦」が、1つの階級で長くベルトを守り、安定政権を築いて無敵の存在を自他共に認められることから、矢継ぎ早に体重を上げて、より多くの階級を獲る「複数(多)階級制覇」へと、スーパースターの評価基準を一変させる。


80年代前半から後半にかけて、J・ライト(V9)とライト(A・C統一/V1)を獲った後、90年代に入ってすぐJ・ウェルターも獲得。連続12回の防衛に成功(通算V16)した3つ目の140ポンドでキャリアのピークを築き、押しも押されもしない不動の地位を確立したフリオ・セサール・チャベスは、脅威の100連勝を目指して驀進。

そして変幻自在のアクロバティックなディフェンスを操り、ライト級~J・ミドル級の4階級を制覇したパーネル・ウィテカーは、ウェルター級王者として挑戦を受けたチャベスに事実上の初黒星を与えた他(1-0のマジョリティ・ドロー)、147ポンドのWBC王座を譲ったオスカー・デラ・ホーヤ戦でも、ゴールデン・ボーイを支持した判定を巡り、ハグラー vs レナード戦(1987年)と並んで未だにマニアの議論を呼ぶ。

デラ・ホーヤの6階級制覇(プロ入りに際して7階級制覇を目標に掲げる)と、メイウェザーの5階級制覇は勿論、まさかのウェルター級進出を成功させ、8階級制覇(リング誌王座を含む/主要4団体:6階級)と同時に、未曾有のアメリカン・ドリームを手にしたパッキャオの奇跡も、80年代を沸かせた「中量級BIG4」の延長線上に成し得たものに違いない。


大場と一緒に殿堂入りの栄誉に浴した具志堅用高(3代目WBA王者/V13=未だに更新されない国内最多防衛記録)と、17連続KO防衛(ゴロフキンに並ばれたがこれも容易に破られない大記録)の離れ業をやってのけたウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ/WBC王者)の大活躍があったればこそ、J・フライ級とJ・フェザー級は一度も消滅や休止することなく今日まで歩みを続けられた。

その後も、WBCが独断専行してWBAが後追いする構図の中、クルーザー級(1979年/スタート時の呼称はJ・ヘビー級)、J・バンタム(S・フライ)級(1980年)、S・ミドル級(1984年/新興マイナー団体だったIBFが強行/WBAとWBCは1987~88年に遅れて追随)、ミニマム(ストロー)級(1987年)と続く階級大増設の礎となる。

WBCがストロー(ミニマム)級の新設に踏み切った時も、露骨に否定的だった米英を初めとして、「リアルな水増し。存在意義を一切見出せない」と酷い言われようだったが、そもそもフェザー級以下の軽量級は、1940年代以降、主要な選手層をメキシコを中心とした中南米諸国と東洋圏(日・比・タイ・韓)に頼る状況が常態化していたこともあり、中~重量級中心の欧米(特にアメリカ)では、文字通り”軽く”見られ続けた。


1990年~99年までの9年間、恐ろしいまでの強さと巧さで無人の野を突き進んだ”ミスター・パーフェクト”ことリカルド・ロペス(メキシコ/V22)が現れなかったら、105ポンドは本当に消滅の危機に瀕していたかもしれない。

誰もが驚嘆・賞賛するしかなかったあのロペスでさえ、米本土の興行に呼ばれる時は前座扱いで、客もまばらなラスベガスの大会場で早い時間帯にリングに上げられ、安い報酬を強いられている。

具志堅用高の栄えある殿堂入りも、軽量級で史上初の「100万ドルファイト」を実現したマイケル・カルバハル(米)とチキータ・ゴンサレス(メキシコ)のライバル・ストーリー(1993年~1994年/2戦1勝1敗)が、全米のファンを熱狂させたからこそに他ならない。

チキータとカルバハルが一緒に顔を揃え、キャナストゥータに招かれたのは2006年。80年代に隆盛を誇った韓国を代表するJ・フライ級の2大スターの1人,張正九(WBC/V15)が2010年、もう1人の柳明佑(WBA/連続V17・通算V18)も2013年に殿堂入りを果たし、昭和~平成(+令和)を生きた日本のオールド・ファンは、「具志堅が先だろう!」と悔し涙に暮れた(?)ことをまざまざと思い出す。


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スーパースターたちが何の違和感も躊躇もなく参入するようになり、J・ウェルター(S・ライト)とJ・ミドル(S・ウェルター)の2階級は、東洋圏のボクサーがおいそれと近づけない高嶺の花になってしまったけれど、「ジュニア・クラスへの偏見」は確実に減少した。

クロフォードが制覇した3階級は、ライト,J・ウェルター(S・ライト),ウェルター。全階級を通じて最も選手層が厚く、最激戦区として認知されている。その上で、140ポンドと147ポンドの4団体をまとめた。

なおかつJ・ライト(S・フェザー)級からミドル級までの6階級は、認定団体が増えたこと以外、1960年代前半から半世紀以上変更されていない。複数階級制覇の難易度が高いのは勿論、4団体に増えてもなお、東洋圏のボクサーにはタイトルへの挑戦機会を得ること自体が難しい。

井上が獲った4階級は、L・フライ(J・フライ),S・フライ(J・バンタム),バンタム,S・バンタム(J・フェザー)。「正統8階級」に含まれているのは、バンタム級の1つのみ。「Original 8」の118ポンドで4団体を統一したのは大きいけれど、フライ級を飛ばしたのは残念。


フェザー級より下にバンタム級とフライ級しか存在しなかった1974年以前なら、井上はバンタム級しか獲っていないことになる。世界タイトルもWBAとWBCの2団体のみ。世界ランキングも10位までしか認められていなかった。とは言え、ボクサーを取り巻く環境は、ボクサー個人の責任ではない。

井上が生を受けた1993年当時、階級は既に17あって、世界タイトル認定団体も4つに増えていた。こればかりはどうしようもない。同じ階級に複数の世界一が、当たり前のように並立する。

根本的な矛盾を指摘されたら返す言葉のない、欺瞞に満ちたこの現実にどう向き合うのか。承認料ビジネスの旨味にはまって抜け出せなくなった老舗のWBAとWBCを筆頭に、主要4団体は有力プロモーターとズブズブで、もはやかけるべき言葉もない。土台から腐り切っている。

繰り返しになるが、こうした惨状もボクサー個人には何の責任もない。ただし、ベルトを保持するすべてのチャンピオン一人一人が、己の誇りと矜持を懸けて、それぞれの答えを明確にしなければ示しがつかない。

その姿勢は容赦なく問われ続けなければならないし、この点に関する井上の立ち居振る舞いはまったく素晴らしいもので、文字通り一点の曇りもない。


その上で、クロフォードと井上の同時受賞は考えられなかったのかとも思う。「Saturday Night Boxing」というサイトを運営するアダム・アブラモヴィッチ(ランキングサイトTBRBの選考委員)が、大晦日に2023年度の年間表彰(独自)を発表しているが、まさしくクロフォードと井上を2人揃って選んでいる。

◎関連記事・サイト
<1>The 2023 Saturday Night Boxing Awards
”Fighter of the Year: (tie) Terence Crawford and Naoya Inoue”
2023年12月31日
http://www.saturdaynightboxing.com/2023/12/the-2023-saturday-night-boxing-awards.html

<2>Members:Transnational Boxing Rankings Board(TBRB)
https://tbrb.org/members


実は、リング誌にも2名同時選出の事例はあり、なんと5回にも及ぶ。直近は2020年。僅か3年前のことだ。

<5>2020年:タイソン・フューリー&テオフィモ・ロペス
<4>1985年:マーヴィン・ハグラー&ドン・カリー
<3>1981年:シュガー・レイ・レナード&サルバドル・サンチェス
<2>1972年:モハメッド・アリ&カルロス・モンソン
<1>1934年:トニー・カンゾネリ&バーニー・ロス

並んだ名前をあらためて見返すと、フューリー&テオフィモを除く4例は「ああ、なるほど・・・」と得心がいく。

リング誌の当該記事に付いたコメントにも、W受賞で良いのではないかとの投稿があり、同じ考えの持ち主がアメリカにもいるのかと、少し嬉しくなった。

また、スペンスの現在の実力に言及するコメントもあり、在米のマニアは良く見ているとも思う。


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Naoya The Great - Chapter 1 夢のまた夢・・・リング誌ファイター・オブ・ジ・イヤーに選出 Part 1 -

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■2023 Fighter of the year - リング誌が井上尚弥を選出



遂にこの日がやって来た。もしかしたらとかすかな可能性に期待をしてはいたが、まさか現実になるとは・・・。




1928(創刊から6年後)年、引退を表明したジーン・タニー(ジャック・デンプシーを2度破り”戦う海兵”と呼ばれたヒーロー)を表彰して以来、95年の永きに渡って年間MVPを公表し続けてきたリング誌が、2023年度のボクシング界を代表する最も優れた選手に、我らが”リアル・モンスター”こと井上尚弥を選出した。

余りにも辛く過酷な元旦を迎えて、素直に喜びを表していいものかどうか逡巡を覚えつつ、2022年6月~7月にかけて、同誌がパウンド・フォー・パウンド・ランキング1位に抜擢した時以上の特筆大書すべき快挙、歴史に残る壮挙と称すべきだろう。

選定基準が今1つ不明瞭でわかりづらい印象が強く、ややもすると「架空・空想のランキング」だの、「比較不可能なものを無理やり比べるのは無意味」といった批判がつきまとうP4Pに対して、「年間最優秀選手」の表彰は誰の目にも明らかでわかり易い。


これまで東洋圏から選ばれたのはマニー・パッキャオのみで、NHKがスポーツのヘッドライン(TV・ラジオ・ネット)で報じるなど、国内メディアでも大きく採り上げられている。

◎井上尚弥 米ボクシング専門誌で年間最優秀選手に 日本人で初
2024年1月6日(土) /NHK Sports
https://www3.nhk.or.jp/sports/news/k10014311731000/


どれほどの偉業なのかは、過去に選出された名前を確認すれば一目瞭然。

【過去の表彰】


◎Fighter of the Year?! Terence Crawford, Devin Haney, or Naoya Inoue?
2023年12月29日

※スポーツ・イラストレイテッドの予想動画:スポイラとYahoo! Sportsのシニアライターを務めたクリス・マニックスと、同じくスポイラのシニアライターとして活動するグレッグ・ビショップによる討論


昨年末、ESPNが一足早く井上の年間MVPを決定済みだが、周知の通り、米本土における共同プロモートを担うトップランクの中継を行っているのがESPNで、井上の試合もスポーツ専門チャンネルの「ESPN+」で全米に配信されている。

ウェルター級の中心選手をごっそり抱えるアル・ヘイモン(PBC:Premier Boxing Champions)一派と、デラ・ホーヤ&アラム連合軍の根深い対立が原因で、長らくビッグファイトを待たされ続けたクロフォードは、エロール・スペンスとの統一戦を何としても実現するべく、トップランクとの関係を清算した。

その後勃発した法廷闘争は、王国アメリカでは既定の路線であり日常茶飯事。関係が破綻した興行会社とボクサーの、金にまつわる訴訟沙汰は枚挙に暇がない。「坊主憎けりゃ・・・」の使い古された諺を持ち出すまでもなく、政治的な背景が透けて見えてしまう。


国際的なスケールで波及効果を持つボクシングの年間表彰は、歴史的な評価という観点からもリング誌のそれが決定版と表して良く、1938年から同様の表彰を行っているBWAA(Boxing Writers Association of America)の判断(重複する選考委員が少なくない)にも自ずと影響する。

ノミネートの一覧を公表したBWAAも、同じ結果になる確率が極めて高い。選ばれずにおかんむり(?)のP4Pキング,テレンス・クロフォードに与えてバランスを取る選択肢もあるが、パウンド・フォー・パウンドのトップを奪われてはいないので、それでご納得していただけないものかと率直にそう思う。


◎Terence Crawford BREAKS DOWN After Naoya Inoue SLAMMED Him As Fighter Of The Year



◎BWAAのノミネート:シュガー・レイ・ロビンソン・アワード(ファイター・オブ・ジ・イヤー)
デヴィッド・ベナビデス
テレンス・クロフォード
ジャーボンティ・ディヴィス
デヴィン・ヘイニー
井上尚弥

◎関連記事
<1>NAOYA INOUE IS THE RING’S 2023 FIGHTER OF THE YEAR
2024年1月5日/THE RING
https://www.ringtv.com/662824-naoya-inoue-is-the-rings-2023-fighter-of-the-year/

<2>Boxing's best of 2023: Fighters of the year, best fights, KO and more
2023年12月29日/Mike Coppinger, ESPN
https://www.espn.com/boxing/story/_/id/39197618/boxing-best-2023-fighters-year-best-fights-ko-more

<3>2023 Fighter of year: Naoya Inoue
Plus the 6 honorable mentions in order; past winners year-by-year
2023年12月28日/Dan Rafael
https://danrafael.substack.com/p/2023-fighter-of-year-naoya-inoue

<4>The BWAA Announces Its 2023 Annual Award Nominees
2024年1月
https://www.bwaa.org/single-post/the-bwaa-announces-its-2023-annual-award-nominees

<5>BWAA 2023 Writing Contest Rules, Categories And Deadline
2024年1月
https://www.bwaa.org/single-post/bwaa-2023-writing-contest-rules-categories-and-deadline


Part 2 へ


正真正銘の復活を駆けて・・・中量級の大本命登場 - V・オルティズ vs F・ローソン プレビュー II -

カテゴリ:
■1月6日/ヴァージン・ホテルズ・ラスベガス/S・ウェルター級12回戦
ヴァージル・オルティズ(米) vs フレデリック・ローソン(米)





◎ファイナル・プレス・カンファレンス:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=jQVjTHZvkb0


180センチ近いタッパに優れた手足&身体全体のスピードに恵まれ、左右どちらのパンチも抜群の切れ味と破壊力を併せ持つ。主にジュニアにはなるものの、アマチュアでの大活躍を経てゴールデン・ボーイ・プロモーションズと契約。

総帥デラ・ホーヤが骨の髄から惚れ込み、三顧の礼を持って迎えた逸材に相応しく、2016年7月のデビュー以来、2019年1月までに破竹の12連続KO勝ち。最盛期(1950~70年代)の勢いを失って久しいとは言え、まだまだ選手層の厚い王国アメリカの135~140ポンドにおいても、アベレージのローカル・トップでは勝負にならない。


10戦目の相手は、”あの”ファン・カルロス・サルガド。130ポンドの初防衛戦(2009年10月)に臨むホルへ・リナレスを地獄へ叩き落し、翌2010年1月の再来日で内山高志にその座を譲った後、IBFで復活を遂げて3度の防衛に成功。

V4戦でドミニカのアルヘニス・メンデスに敗れると、ライト級に上げて復帰を目指すも5連敗(粟生隆寛戦を含む:10回判定負け/通算6連敗)。白星配給を生業にするアンダードッグ路線へと突入していた。

体格差もさることながら、若く野心に燃えるオルティズ(二十歳)は荷が重過ぎて、3ラウンドでし止められる。


S・ライト級での載冠にこだわらず、早々とウェルター級への参戦を表明したのは、WBCとWBOの2団体を獲ったホセ・カルロス・ラミレスがステーブル・メイトだった為で、WBAとIBFの2冠王ジョシュ・テーラーを狙う段取りになっていたが、「140に残れば、遅かれ早かれホセとの試合が組まれてしまう。(親しくなり過ぎて)彼との潰し合いだけは御免だ。絶対に無理」だと語った。

147ポンドに照準を合わせると、世界を見据えたテストマッチが口火を切る。一度はWBAのS・ライト級暫定王座に就き、ダニー・ガルシアやホセ・ベナビデス・Jr.、ヘスス・ソト・カラスらと熱戦を繰り広げたマウリシオ・ヘレラと、ラスベガスで激突(2019年5月/カネロ vs D・ジェイコブスのアンダー)。

それなりに手を焼くだろうと注視したが、タフで勇敢なヘレラを圧倒。2度のダウンを奪い、僅か3ラウンドで決着。開花を待つ埋蔵量の桁が違うことを、あらためて実感させてくれる。


ここからの連勝がまた見事だった。3ヶ月後の2019年8月、サンディエゴ在住のメキシカン・ホープ,アントニオ・オロスコを6回に3度倒してストップ(公式記録はKO)。何かと批判の多かったWBAゴールド王座を獲得。ヘレラとオロスコは、この敗北の後リングに上がっていない。

さらに年末の12月には、ジョージア州を拠点に世界を目指す黒人プロスペクト、ブラッド・ソロモンを5ラウンドで撃破。カリフォルニアのインディアン・カジノに集まったメキシコ系のファンを大いに喜ばせた。

そしてニューヨークで爆発的な感染(2020年5月)が国際的に大きなニュースとなり、米大陸でも武漢ウィルスが牙を剥いて猛威を振るい始める2020年7月、コロンビアの下位ランカー,サミュエル・バルガスを7回KOに下して、WBAゴールド王座のV2。


この後パンデミックによる小休止を挟み、2021年3月にはモーリス・フッカー(140ポンドの元WBO王者/J・C・ラミレスとの統一戦に敗れて階級アップ)にも7回KO勝ち。WBOのインターナショナル王座を奪取する。

ABC(Association of Boxing Commissions:全米各州コミッションの上部機関/米国統一ルールを所管)の強硬な抗議を受け、WBAが遂に暫定王座の常設廃止を決定し、併せてゴールド王座の承認も止めることを発表。オルティズのベルトも当然消滅した。

WBAが重過ぎる腰を上げて、嫌々ながらもチャンピオンベルトの集約に動き出した2021年8月、キャリア最大の強敵を迎える。


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リトアニア出身のタフ・ガイ,エギディウス・カヴァリアスカスは、2011年世界選手権の銅メダリストで、2大会連続(北京とロンドン)で五輪出場を成し遂げた欧州のトップ・エリート。トップランクと契約して渡米し、2013年3月にプロデビュー。

12連続KO勝ちで注目を集めた後、2019年12月にテレンス・クロフォードのWBOウェルター級王座にアタックして9回TKO負け。

パンデミックの影響も重なり、2020年9月の再起戦では、カナダから招聘したミカエル・ゼウスキ(アマ138勝29敗/2009年世界選手権代表)を8回TKOに退けたが、流行を繰り返す武漢ウィルスに行く手を阻まれ1年近いレイ・オフ。ようやく陽の目を見た実戦復帰という流れ。


”Mean Machine(ヤバいヤツ)”のニックネーム通り、カヴァリアスカスは歴戦の兵(つわもの)ぶりを発揮。第2ラウンド2分過ぎ、右ショート・アッパーのカウンターを効かせて、オルティズをダウン寸前まで追い込む。

ヨロめきながらもクリンチ&ホールドで凌ぎ、圧力を強めて前に出てくるリトアニア人を押し返そうと、強引に振り回すテキサスの寵児。焦りも手伝って振りが荒くなる。左フックを思い切りスウィングし過ぎて、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

すぐに立ち上がって右の拳を左右に振り、懸命にスリップをアピール。左フックを振るう直前、カヴァリアスカスの右がクロス気味に着弾(クリーンヒットではない)していた為、ダウンカウントを取られても文句を言いづらい場面だったが、主審のローレンス・コールはお構いなし。

この時主審コールはカヴァリアスカスの背後に回り、適切なポジショニングでしっかり見えていた(ヒッティング or オフ・バランス)ということなのだが、カウントを取るか否かは主審の胸先三寸。開催地が地元テキサス(フリスコ:居住するダラスから車で30分程度の距離)で助かったとも言える。


残り時間の少なさにも救われ、過去最大の窮地を逃れたオルティズ。続く第3ラウンド、特徴の1つである高いガードを作り直し、ジャブ&ワンツーのベーシックで建て直しを図る若きテキサン。

ジャブが機能し出すと、リトアニアの戦士も簡単に懐に入ることができない。それならばと無闇に突っかけたりせず、じっくり機を伺う。ラウンドも残り30秒を切った辺り、オルティズの左リードを待って強烈な右のオーバーハンドを合わせるカヴァリアスカス。ニューヒーローはあっという間にロープを背負う。

ベテランの上手さがキラリと光る攻撃。波乱の展開が偶然ではないと悟り、騒然となる場内。しかし、テキサスの寵児がここで底力を見せる。大柄な体躯がウソのようにスムーズなムーヴで、右サイドへスルリと回り込むようにロープから離れると、腰の入ったリトアニア人の追撃の右に強めの左を合わせると同時に小さくステップバック。

追撃の右が左頬をかすめたオルティズは再びロープを背にする格好になったが、相打ちの左クロスを危うく食いそうになったカヴァリアスカスも半歩下がり、両雄の間に十分な距離が出来る。


この機を逃してなるものかと、オルティズが先に前に出た。そしてジャブ。カヴァリアスカスもすかさず右のオーバーハンド。がしかし、二匹目のドジョウはいなかった。

これを読んでいたオルティズは素早いダッキングでかわすと、起き上がりざまに上から右フックを振り下ろす。ボディワークで対応するリトアニアン。オルティズは空振りになると同時にステップバック。そこを左フックで襲うカヴァリアスカス。だが深追いはしない。

再び間合いを取ったと思いきや、すぐに1歩出てショートジャブを放つオルティズ。これに反応して右のパリングで払うカヴァリアスカス。ガードが開く僅かなタイミングを縫うように軽めのジャブを突き、瞬時に右ストレートをつなぐと、さらに得意の左フックを一閃!。


高い技術と経験値に心身のタフネスを誇るリトアニアの戦士も、これだけ速くて強い、完成度の高いコンビネーションはかわせない。右の顎を痛打されて腰からストンと落ちた。効いてはいたが、時間帯も早く決定的なダメージまでは負っていない。

カウント5で立ち上がると、瞳に動揺を露にしながらもなお、自らを落ち着かせるようにエイト・カウントを待つベテラン。主審コールの再開と同時に終了ゴングが鳴った。

絵に描いたような逆転劇に、会場を埋めた地元ファンのボルテージは否が応でも上がる。ヒリヒリするような緊迫と緊張の中、流れるように美しい4連打を決めるオルティズの姿に釘付けとなり、2人のファイターがそれぞれのコーナーに戻ると、こちらもホっと力が抜けて深呼吸。

残り30秒の攻防を凝視している間、息を止めていたことにようやく気付く。


鮮やかなダウンでペースを握り返したオルティズは、ジャブで距離をキープしながらリトアニアのベテランをコントロール。逆襲の隙を与えないよう注意を払い、時折ヒヤリとする攻勢を受けても直ちに流れを絶ち、左と強烈な右で優勢を保持。

そして第8ラウンド、オルティズの方から接近戦を挑み、青コーナーに後退するカヴァリアスカスに身震いするような左ボディをグサリ。がっくりと片膝を着いた後、顔を上げてカウントを聞く。

表情には半ば諦めの色が浮かぶも、立ち上がってリスタート。もはや形勢を盛り返す余力は残っておらず、すぐにロープを背負わされると、今度は左フックを顔面に貰ってまたダウン。


直ちに起き上がって自らニュートラルコーナーに歩き、ゆっくりエイト・カウントを聞き、ギブアップすることなく再開に応じるも、近づいて左右を連射するオルティズ。何発目かの左で当たってガクンと膝から落ちたが、何とか踏ん張って倒れずまたエイト・カウント。

このラウンドだけで3度目のダウン。カヴァリアスカスの瞳は完全に戦意を喪失。止めるかと思ったが、主審コールは継続を指示。残り10秒を知らせる金属的な打音が同時に響き、オルティズは右もろとも駆け足で接近。ロープ伝いに逃げるカヴァリアスカスを追いかけ、赤コーナーのすぐ横に追い込み左右を連射。

たまらず座り込むように4度目のダウン。傍観者のごとく振舞う主審コールも、間髪入れずにストップを宣告した。


◎直近の試合映像
<1>マッキンソン戦/9回TKO勝ち(発症後の再起第1戦)
2022年8月6日/ディッキーズ・アリーナ,テキサス州フォートワース


<2>カヴァリアスカス戦/8回TKO勝ち(発症前の最後の試合)
2021年8月14日/フォードセンター,テキサス州フリスコ
WBOインターナショナルウェルター級TM12回戦


<3>モーリス・フッカー戦/7回KO勝ち
2021年3月20日/ディッキーズ・アリーナ,テキサス州フォートワース
WBOインターナショナルウェルター級TM12回戦(決定戦)



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終わってみれば、5回ものノック・ダウンを数える完勝。7ラウンドまでのオフィシャル・スコアも、文句無しのユナニマウス・ディシジョン( 69-63×2,68-64×1)。

ダウン寸前の大ピンチを切り抜けただけでなく、次のラウンドで勝負の行方を決める決定機を創出した手際は、世界タイトルへの挑戦資格に相応しいものと言えた。がしかし、ヴァージル・シニアは磐石と思われたチームを一新する。

ヘッド格としてシニアとともにチームを支えてきたロベルト・ガルシア(南カリフォルニアのオックスナード在住)を更迭し、チーム・カネロへの合流を模索。何だかんだありながらも、コーチとしてのエディ・レイノソ(カネロを少年時代から指導するチーフ兼カネロ・プロモーションズ代表)は、メキシコ系アメリカ人の有力選手には魅力的に見えるらしい。

何度か交渉のテーブルには着いたようだが、レイノソもプロモーターとの兼業で多忙を極めているらしく、妥結には至らなかった。そこで陣営は、ガルシアと同じカリフォルニア(L.A.近郊)にジムを持つベテラン、マニー・ロブレスの招聘を決定。


幼い頃から手解きを受けた実父ヴァージル・シニアとの親子鷹に、信頼厚い協力者で今もカットマンとしてコーナーに入るエクトル・ベルトランと、2人の兄弟を加えたファミリー・ビジネスは、欧米では良く見られる形態なのだが、プロ入りに際して、ティム・ブラッドリーを長く支えたジョエル・ディアス(南カリフォルニアのコーチェラで活動)を共同チーフに招いている。

ディアスとはプロ9戦目まで一緒に戦ったが、上述したサルガド戦を前に、ロベルト・ガルシアとの体制に変更。関係は円満良好で、解消がリリースされた時にはいささか驚いた。

直接的な理由は、カヴァリアスカス戦のコーナーにガルシアが入らなかったこと。まったく同じ日に、ガルシアが預かるジョシュア・フランコの防衛戦(WBA S・フライ級)があり、アンドリュー・モロニー(豪)との因縁に決着を着ける3戦目だったことから、ガルシアはフランコを優先した。


ガルシアは名代として父のエデュアルドと息子のロバート・ジュニアを送り込んだが、ステージ・パパのヴァージル・シニアはお気に召さなかったという次第。ガルシアだけでなく、例えばフレディ・ローチもそうだが、多くの有力選手を抱える売れっ子トレーナーになると、大事な選手の試合日程が重なるのは珍しいことではない。

当然事前に話し合いが行われ、双方納得づくで陣容が決まる(筈)。ただし、外れた方はすっきりしない思いがどうしても残る。「(稼げる中量級の)俺たちより、(比較すれば稼ぎの良くない)軽量級を選ぶのか・・・」という訳で、ヴァージル親子は別れを告げる為にオックスナードを訪問。

この動きを最も早く察知したマイク・コッピンガーがツィートすると、オルティズは否定のリツィートをアップしたが、すぐにガルシアが事実を公表。こうして1年ぶりの復帰戦を、ガルシアではなくマニー・ロブレスと戦うことになった。


既に述べたように、オルティズの出来そのものは十分なものではあったが、1つ気になったのがガードの位置と構え。右の拳をコメカミ付近まで上げて、左の自由度を増していたが、右の位置が高過ぎてバランスが悪く感じた。

また左を少し楽に構えることで、ジャブの出をスムーズにしたかったのではないかと推察するが、これも指摘済みの通り今1歩冴えを欠く。

おそらくロブレスの指示だと思われるが、陣営も違和感を覚えたのか、はたまたまったく別の理由なのか、真相ははっきりとしないが、マッキンソン戦から1年半を経た今回の試合に備えて、何とガルシアとの復縁を選択。

いずれにしても、メキシコにルーツを持つヴァージル親子にとって、メキシカン・スタイルを肌で理解するコーチとの縁組は必須のようで、これまでと変わらない一貫したポリシーと想像する。


シカゴから呼ばれたアンダードッグのローソンは、2011年デビューの10年選手。2014年に初渡米を実現した後、東の要所に活動拠点を移した。戦績が示す通り好戦的なパンチャーで、右のオーバーハンドはそれなりに怖い。

ただしスピードには結構な差がある。オルティズが正面に留まり続けて、真っ正直に打ち合う愚を冒し続けるとわからないけれど、普通の状態で普通にやればまず問題はないと思う。

オッズもワイド・マージンになっている。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
V・オルティズ:-3000(約1.03倍)
ローソン:+1200(13倍)

<2>betway
V・オルティズ:-3333(約1.03倍)
ローソン:+1100(12倍)

<3>ウィリアム・ヒル
V・オルティズ:1/33(約1.03倍)
ローソン:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
V・オルティズ:1/33(約1.03倍)
ローソン:16/1(17倍)
ドロー:25/1(26倍)


前日計量でオルティズがS・ウェルター級リミットを2ポンド上回ったが、ノーペナルティで試合は行われる模様。もともと156ポンド契約だったのかもしれないが、どうにも釈然としないものが残る。

どれだけのハンディを押し付けられても、ローソンには試合を受ける一択あるのみ。千載一遇のビッグ・チャンスを逃す選択肢は無い。

お腹周りがダブついてやしないかと余計な心配もしたが、杞憂に終わってその点だけは何より。長い休養の間も、出来る限りのトレーニングを継続していたのは間違いない。

果たして、どこまで回復できているのか。計量時点で10ポンド近い増量も、気にならないと言えばウソになる・・・。


◎オルティズ(22歳)/前日計量:156ポンド
元WBAウェルター級ゴールド(V2),元WBOインターナショナルウェルター級(V2),元NABF(北米)S・ライト級(V0)王者
戦績:19戦全勝(19KO)
アマ通算:140勝20敗
2016年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝(L・ウェルター級)
2014年ジュニア(U17)全米選手権2位(119ポンド/54キロ)
2013年ジュニア(U17)全米選手権優勝(110ポンド/50キロ)
※ジュニア・オリンピックを兼ねる
2013年ナショナル・シルバー・グローブス(14~15歳)優勝(106ポンド/48キロ)
2012年ナショナル・シルバー・グローブス(12~13歳)優勝(90ポンド/40.8キロ)
身長,リーチとも178センチ
右ボクサーファイター


◎ローソン(34歳)/前日計量:152.4ポンド
元WBCシルバーウェルター級王者(V0)
戦績:33戦30勝(22KO)3敗
身長:175センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=DeL8sL1lfZ8


正真正銘の復活を駆けて・・・中量級の大本命登場 - V・オルティズ vs F・ローソン プレビュー I -

カテゴリ:
■1月6日/ヴァージン・ホテルズ・ラスベガス/S・ウェルター級12回戦
ヴァージル・オルティズ(米) vs フレデリック・ローソン(米)





◎ファイナル・プレス・カンファレンス:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=jQVjTHZvkb0


エロール・スペンスとテレンス・クロフォードの2強を完黙させ、最激戦区の2023年から33年までの10年間(ディケイド)を大きくリードする真の才能。

140ポンドから154ポンドまでの3階級を席巻し、複数階級に及ぶ4団体統一を含む完全制覇を果たした後、160ポンドのミドル級を狙うことにおそらくなるだろう。

”ゴールデン・ボーイ”ことオスカー・デラ・ホーヤからメイウェザー&パッキャオへと継承され、今現在はカネロが担う”ボクシング界の顔(単なる稼ぎ頭を超えて)”に成り得る存在。


それこそが間違いなく”彼”だと、私はそう確信していた。

やがて147ポンドに参戦するに違いない、ライアン・ガルシアとジャーボンティ・ディヴィスではなく、シャクール・スティーブンソン,デヴィン・ヘイニーでもない。

クロフォードに続く140ポンドの4冠王ジョシュ・テーラーは勿論、”ハイテク”ロマチェンコを追い落とし、135ポンドをまとめたテオフィモ・ロペスも、”彼”と対峙した途端あっさり圏外へと追いやられる。


その”彼”、ヴァージル・オルティズ・Jr.を予期せぬ異変が襲ったのは、2022年初春のことだった。

3月19日にロサンゼルスのガレン・センター(南カリフォルニア大学が所有する多目的屋内アリーナ/収容人員:1万人超)で、前年にマッチルームと契約したイングランドのホープで、WBO5位にランクされるサウスポー,マイケル・マッキンソン(当時:22戦全勝2KO)との対戦を控えた本番4日前、突然の欠場が発表される。

興行を主催するゴールデン・ボーイ・プロモーションズは、受診した病院で「横紋筋融解症(おうもんきん・ゆうかいしょう/英名:Rhabdomyolysis)」と診断され、治療と静養が必要な状態を明らかにした。

日本国内でも「難病を発症」と報じられ、重度の腎機能障害(透析の必要性)や歩行困難など、深刻な合併症と後遺症の可能性への言及を含め、再起が危ぶまれる事態を想定せざるを得ない状況に言葉を失う。

◎関連記事
<1>Vergil Ortiz Jr. pulls out of Saturday bout vs. Michael McKinson due to rhabdomyolysis
2022年3月15日/ESPN Mike Coppinger
https://www.espn.com/boxing/story/_/id/33512169/vergil-ortiz-jr-pulls-march-19-bout-michael-mckinson

<2>Vergil Ortiz (Rhabdomyolysis) Hospitalized, Forced To Withdraw From March 19 DAZN Headliner
2022年3月15日/Boxing Scene Jake Donovan
https://www.boxingscene.com/vergil-ortiz-rhabdomyolysis-hospitalized-forced-withdraw-from-march-19-dazn-headliner--164792

<3>VERGIL ORTIZ JR. WITHDRAWS FROM MICHAEL MCKINSON FIGHT AFTER BEING DIAGNOSED WITH RHABDOMYOLYSIS
2022年3月16日/Ring Magazine Francisco Salazar
https://www.ringtv.com/636310-vergil-ortiz-jr-withdraws-from-michael-mckinson-fight-after-being-diagnosed-with-rhabdomyolysis/


医薬品の服用による重篤な副反応の他、激しい運動や熱中症(夏場のマラソンに代表される長距離走を含む)が原因となって発症するケースが報告されており、骨格筋の細胞が壊死・融解して、壊れた細胞内の成分が血中に流出。運動の最中だけでなく、静かに横になっていても筋肉痛や脱力感に襲われ、血尿のような赤褐色のおしっこが出ることもあるという。

放置を続けると、上述した通り、歩行困難や寝たきりに近い状況に陥るだけでは済まず、腎機能障害の併発が重なると、健常な生活の回復がさらに難しくなる。


試合に向けて本格的なジムワークに戻り、追い込みのキャンプに入るまでは順調だったらしい。キャンプの途中でこれまでにない疲労を覚えるようになったが、メニューの調整で解消すると考えていた模様。

練習と減量のペースを落として食事も改善したが、疲労感は日に日に増すばかり。本人も周囲も変だと気付いたものの、人間なら誰しもある体調不良の延長と捉えていた。ところが、キャンプを打ち上げ、ウェイト(ウェルター級リミット)の最終調整段階を迎えても、オルティズの状態は悪くなる一方。ようやくただ事ではないと悟り病院へ・・・。

オルティズの場合、当然のことながら継続的かつ慢性的なオーバーワークが疑われた。まずは静養に努め、点滴を主とした治療を根気良く続けるしかない。


最悪の事態(引退・要介護)が脳裏を過ぎり、暗澹とした思いにがっくり首を落とす。長期の戦線離脱も止む無し。ボクサーとしての復帰はともかく、1日も早く健康な日常を取り戻して欲しいと願っていたら、6月中旬にマッキンソン戦の再スケジュールが伝えられる。

◎Vergil Ortiz Jr. to face Michael McKinson in welterweight bout on Aug. 6 in Fort Worth, Texas
2022年6月16日/ESPN Mike Coppinger
https://www.espn.co.uk/boxing/story/_/id/34102333/vergil-ortiz-jr-face-michael-mckinson-aug-6-fort-worth-texas


場所を地元のテキサス州(フォートワース)に移し、8月6日に行うとのことだったが、「本当に大尿部なのか?」と不安だけが大きくなってしまう。

無事に療養が明けたとのことだが、寛解と言える段階にあるとは到底思えず、それでも戦前のオッズは大差でオルティズを支持する中、前(2021)年8月のエギディウス・カヴァリアスカス戦以来、丸々1年ぶりとなる実戦のリングに登る。


一応無敗同士の対決ではあったが、格の違いは明々白々。開始早々、オルティズの圧力を受けて腰が引けるイングランドのホープは、低い姿勢から左ストレートで突っかけ、そのまま抱きついてレスリング行為に及ぶ。余裕の無いこと夥しい。

荒れ模様を予感させる展開に、早速場内からブーイング。バタバタと落ち着かない流れに乗じてマッキンソンの左フックも1発当たったが、「オルティズ!オルティズ!」の大合唱に後押しされるように前進。強烈なワンツーでワイルドなイングランド人を弾き返す。

第2ラウンドに入っても攻防のキメは粗いままで、マッキンソンの頭がオルティズの左頭部に衝突。左の眉尻から出血してドクターチェック。ファンの心配が現実のものとなった。


一息入ったオルティズは高く構えたガードを保持したまま、ジャブと長い右ストレートでマッキンソンを突き放す。第3ラウンド以降、ジャブでペースを落ち着かせつつ、強烈な左の上下も交えて圧力を強めて行く。

防戦で手一杯のマッキンソンも、逃げの態勢から思い出したように手数を返し、揉み合う場面は減ったものの、適時抱きついて時間を使う。勝利への道筋がまったく見えないまま、それでも諦めずに粘るマッキンソン。

第8ラウンド終了間際、重量感に溢れた左フックを右のわき腹にねじ込むと、耐え切れずキャンバスに膝まづいて土下座状態。「やれやれ、やっと終わったか。」と水を飲もうとすると、カウントエイトで立ち上がり、渾身のステップでラウンドを逃げ切る。


「あと4ラウンズだ!」

発破をかけられコーナーを出たマッキンソン。だがしかし、もう限界を超えていた。触るような左ボディ1発で、ズルズルと下がりながらまた土下座。それでも起きて再開に応じたが、ステップでロープ伝いに逃げ出したところで英国のコーナーからタオルが入った。

ジャブの切れ味と瞬間的な反応のスピード,集中力は今1つ。完全に戻り切ってはいなかったけれど、それ自体は想定の範囲内。

パンチング・パワーはブランク前とほとんど変わらず、一時にせよ再起不能への懸念が流布されたことを思えば、ウェルター級リミットを作った上で、後半まで落ちることがなかったスタミナを含めて、上々の仕上がり&出来映えに見えた。


「この調子ならイケる!」

GBPを率いる総帥オスカー・デラ・ホーヤは、マネージャー兼チーフ・トレーナーとして少年時代から息子のサポートを続けるヴァージル・シニアの了解を取り付け、WBAレギュラー王者エイマンタス・スタニオニス(リトアニア/2016年リオ五輪代表)との対戦をまとめる。

2023年3月18日、オルティズが生まれたダラスの近郊フォートワース(盲目の天才ピアニスト辻井伸行が優勝したヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの開催地としても有名)開催で合意も、スタニオニスが急性の盲腸炎にかかり延期。

同じテキサス州内のアーリントンに変更の上、4月29日に再セットされると、今度はオルティズの容態が悪化。「横紋筋融解症」の再発により、再延期が発表された。


それでも陣営は諦めることなく粘り腰の交渉を続け、7月8日サンアントニオでの仕切り直し(AT&Tセンター)をリリース。ところが、本番前日になってオルティズがまたもや緊急入院。

「やはり難病なんだな・・・」

◎「横紋筋融解症」に関する医療記事
<1>江戸川病院
運動誘発性横紋筋融解症

<2>国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」
横紋筋融解症による急性腎障害発症の新たなメカニズムを解明-発症予防の薬剤開発へつながる成果-

<3>昭和大学
学士会会誌 第75巻 第4号(PDF形式)
特集 医薬品による重篤副作用への対処法と救済精度「横紋筋融解症」

<4>厚生労働省
(1)横紋筋融解症(重篤副作用疾患別対応マニュアル/PDF形式)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c09.pdf

(2)【神経・筋骨格系】重篤副作用疾患別対応マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/tp1122-1c.html


デラ・ホーヤはあくまで「延期」を強調していたが、「まず無理」との意見が大勢を占める。そして事態は、大方の見立て通りに推移した。

スタニオニスへの挑戦は消滅。昨年11月初旬、S・ウェルター級での再起が正式に報じられる。ノンタイトルの12回戦で、シカゴに本拠を置くガーナ人,フレデリック・ローソンを抜擢。

◎ローソン戦関連記事
<1>THE UNDEFEATED VERGIL ORTIZ JR. TO MAKE DEBUT IN SUPER WELTERWEIGHT DIVISION AGAINST GHANA’S FREDRICK LAWSON
2023年11月2日/Golden Boy Promotions
https://www.goldenboypromotions.com/latest/the-undefeated-vergil-ortiz-jr-to-make-debut-in-super-welterweight-division-against-ghanas-fredrick-lawson/

<2>難病から復帰のヴァージル・オルティスJr 今年の抱負を語る | ボクシング
2024年1月6日/DAZN日本語版
https://www.dazn.com/ja-JP/news/%E3%83%9C%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0/2024-01-05-boxing-vergil-ortiz-jr-drick-lawson-ambitions/taxs62l6kujm1qw8lz6egx2bk


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◎オルティズ(22歳)/前日計量:ポンド
元WBAウェルター級ゴールド(V2),元WBOインターナショナルウェルター級(V2),元NABF(北米)S・ライト級(V0)王者
戦績:19戦全勝(19KO)
アマ通算:140勝20敗
2016年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝(L・ウェルター級)
2014年ジュニア(U17)全米選手権2位(119ポンド/54キロ)
2013年ジュニア(U17)全米選手権優勝(110ポンド/50キロ)
※ジュニア・オリンピックを兼ねる
2013年ナショナル・シルバー・グローブス(14~15歳)優勝(106ポンド/48キロ)
2012年ナショナル・シルバー・グローブス(12~13歳)優勝(90ポンド/40.8キロ)
身長,リーチとも178センチ
右ボクサーファイター


◎ローソン(34歳)/前日計量:ポンド
元WBCシルバーウェルター級王者(V0)
戦績:33戦30勝(22KO)3敗
身長:175センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター

◎前日計量


◎前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=DeL8sL1lfZ8


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