柔と剛 重岡兄弟が揃って105ポンドの暫定王座戦 Part1 - 優大 vs メンデス プレビュー -
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■4月16日/国立代々木競技場第二体育館/WBC世界ストロー級暫定王座決定12回戦
WBC2位 重岡優大(日/ワタナベ) VS 元WBO王者/WBC7位 ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)
WBC2位 重岡優大(日/ワタナベ) VS 元WBO王者/WBC7位 ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)
柔と剛。
強靭なフィジカルとパンチング・パワーを武器に、積極的に倒しにかかる好戦的な弟銀次郎。誤解を恐れずに言えば、直線的で速攻型のボクシング。
一方兄の優大は、上体を柔らかく使うボディワークと丁寧なステップワークを軸に、巧さで勝負する技巧派。アマ時代に全日本選手権を制覇した実績は伊達ではない。その優大が、プロ7戦目での世界初挑戦に挑む。
本番12日前の今月4日、挑戦を受ける筈だったWBC王者ペッチマニー・CP・フレッシュマート(ゴーキャットジム/パンヤ・プラダブスリ/プラダシー)が、インフルエンザの罹患と入院を理由にドタキャン。
中止も止む無しと報じられる事態に陥ったが、一昨(2021)年の暮れ、同門の谷口将隆に敗れてWBO同級王座を失ったメンデスが急浮上。WBCも暫定王座を大盤振る舞いしてくれた。
◎過去記事:メンデス vs 谷口戦を含むプレビュー
リアル・モンスターが幕を開ける国内PPVの成否やいかに? - 井上尚弥 VS A・ディパエン 直前プレビュー -
2021年12月14日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/b4d40fc44a98dde197645a91867fa7aa
「体重オーバーで居直るつもりなんじゃ・・・?」
「ただのギャラ泥棒だろう?」
なにしろ最軽量のミニマム級だけに、2週間を切ったタイミングで本当にウェイトとコンディションを作ることができるのか、「結局試合が成立しないんじゃないか」と懸念する声が聞こえて来なかった訳ではないが、予備検診と計量を無事に通過して一安心。
郷里熊本の開新高校で本格的な競技生活に入った兄弟だが、高校でアマ・キャリアを終えた銀次郎に対して、拓大へ進んだ優大は東京五輪のメダルを目標に据えていた。
しかし、女子の階級増(3→5)に伴い男子の階級を見直す(10→8)ことが決定。優大が主戦場にしていたL・フライ級とL・ウェルター級の2つが削減の対象となり、「今からフライ級へ上げるのは厳しい」と判断。
銀次郎に遅れること1年、2019年10月に同じワタナベジムからプロデビュー(B級ライセンス:6回戦)。初陣で相対したのは無名のタイ人で、難なく2回KOでし止めると、2戦目は世界タイトルへの挑戦経験を持つベテラン,リト・ダンテ(比/元OPBF王者)に危なげのない判定勝ち。
順調なスタートを切ったところで、パンデミックが襲来。2020年を丸々1年休み、休養明けの復帰戦がプロ初のタイトルマッチ。三迫ジムの堀川龍を5回TKOに退け、3戦目で日本ユース王座を獲得(2021年2月)。
続く4戦目は、銀次郎が返上したWBOアジア・パシフィックのベルトを懸け、元OPBF王者の小浦翼(E&Jカシアス)と激突(2021年2月)。リト・ダンテに敗れて3度防衛したOPBF王座を失っていたことから、明白な勝利を期待された優大だが前半出遅れる。
プロキャリアに優る小浦にペースを握られ、クリンチからの揉み合いにバッティングも発生。互いに決定打を欠く苦しい展開が続いたが、単発ながらも後半から終盤にかけて右フックと左ストレートを好打した優大の手が挙がった。
どちらに流れてもおかしくないラウンドが多く、スコアは接近していた(115-113×2名,114-114×1名=マジョリティ・ディシジョン)。
昨年7月に組まれたWBOアジアパシフィック王座の初防衛戦は、故郷熊本での凱旋興行。フィリピンの中堅選手クリス・ガノーサが呼ばれた。来日経験がなく、入手可能な映像も限られて、どんな選手なのかよくわからない。。
どうなることかと思っていたら、何のことはない、ごくごく平均的なアンダードッグだった。左のボディストレート1発で即決(3回TKO)。足踏みを回避する意味もあったのだろうが、もう少し歯応えのある選手を連れて来て欲しかった。
事実上興行の看板を任された銀次郎も、ランク1位の春口直也(橋口)を4ラウンドでレフェリー・ストップ。アウェイの沖縄で、仲島辰郎(平仲)を破って得た日本タイトルのV1に成功。
この直後、世界戦の交渉が具体化した銀次郎は日本タイトルを返上。そして昨年11月、空位のベルトを優大と仲島が争う。
銀次郎と10ラウンズを渡り合った仲島は、手頃なアンダードッグとの再起戦を挟むことなく、立て続けのタイトルマッチ。さらに言うと、銀次郎に敗れる8ヶ月前(2021年6月)、当時日本王者だった谷口将隆に挑戦して5回TKO負けを喫していた。
日本タイトルを2試合続けて落とした連敗中の仲島が、復帰戦をすっ飛ばして決定戦に出て来ること自体、105ポンドの深刻な空洞化(人材の枯渇)を如実に物語る。
仲島を間に入れた銀次郎との比較も含めて、優大のパフォーマンスに注目が集まったが、序盤から快調に飛ばした優大が、第3ラウンドに強烈な右フックを2発決めて仲島を撃沈。銀次郎のお株を奪う強打者ぶりを見せつけた。
プロ入りが1年遅れた為に仕方のない面はあるものの、「弟からの禅譲」と見られてしまうのは否めない。本人も当然意識はしていて、本来の持ち味ではないインファイトへの志向が増す原因ではないかと、そんな気がしなくもない。
緊急スクランブル発進に応じたメンデスは、谷口に敗れて無冠となった後、昨年は4月(L・フライ級契約6回戦/106ポンド1/4で調整)と11月(105ポンドのWBO地域王座戦)に2試合をこなしており、いずれも判定勝ち。数は多いとは言えないながらも、試合枯れはしていない。
ボクサーを志した最大の理由はハングリネス。極貧の少年時代を過ごしたメンデスは、宿願の世界王座を獲得(2019年8月)すると、2ヶ月後の10月に初防衛戦を敢行。さらに4ヶ月後の2020年2月にV2戦をこなしている。
「一番軽い階級(lower weight class)だから、例え世界戦でも1試合で大きくは稼げない。間隔を開けずに防衛を続けて、一刻も早く貧乏から抜け出したかった。」
だがしかし、武漢ウィルスの猛威がメンデスの前に立ちはだかる。ブランクは1年半をゆうに超えて、防衛戦がまとまる気配は無し。
「蓄えも底をつきかけて、何とか試合をやらなければと八方手を尽くしていた。そこへ日本行きのオファーが届いた。断る選択肢は無かった。」
貧困からの脱出をモチベーションにする海外のボクサー(白人以外のマイノリティ)は、オフの時期でも一定の体重をキープし続けて、急なプロポーザルに応えられるよう、常に準備を怠らない選手が少なくない。
もともと5月に来日の誘いを受けていて、本格的なトレーニングを開始していたというが、世界のベルトを一度は巻いたメンデスも、経済的な成功に飢えた若者の1人であり続けている。
谷口に王座を譲った初来日時は、入国直後の外出規制(自主隔離)の影響をまともに受けてしまい、「ホテルから1歩も出られず、満足な練習が出来なかった。」と語る。
「確かに準備期間は十分とは言えないが、ジムワークができるだけ前回よりはマシ。シゲオカの分析?。もともと対戦相手のビデオをじっくり見るタイプではないし、実際にリングに立ってみないと本当のところはわからない。」
「いつも相手の出方を見ながら、ラウンドの展開を考えてどう戦うかを決めて行く。ビデオを見なくても問題はない。」
「110ポンド(リミット+2ポンド)での再来日」を公称していたメンデスの言葉に、どうやらウソは無かった模様。
戦績が示す通り、メンデスは細かく煩い駆け引きを軸にした神経戦に本領を発揮する。クリンチワークでグダグダの様相に持ち込み時間を潰すだけでなく、必要に応じてラフ&ダーティへの対応にも抜かりはない。
と言うと、中南米伝統のやりづらさ満載かつ熟練した業師を思い浮かべてしまうが、そこまでの高水準に達してはおらず、攻防のそこかしこにキメの粗さが覗く。
谷口には、組み付いた状態の離れ際を狙われた。第2ラウンドに左ストレートの直撃を食らい、早くもダウン。一気に勝負をかけず、一旦様子を見た谷口に半ば救われる格好で持ち直し、中盤から接近戦を仕掛けるも、しつこいホールドをチェックされて減点。
消耗戦の気配が漂う中、大振りとオフ・バランスが目立って行くメンデス。迎えた11ラウンド、谷口は右アッパーのカウンターから集中打をまとめてストップを呼び込んだ。
プロの乱戦に十分慣れていない優大にとって、メンデスの抱きつき戦術が一番怖い。絡め取られたまま戦況を打開できず、ラウンドを重ねる流れだけは避けたいところ。時として露になる、銀次郎以上の気の強さがマイナスに働きかねない。
どこまでも冷静に自分自身を俯瞰しながら、徹底した出はいりと精度の高いショートでメンデスを空転させ続けるのがベスト。
直前のオッズは、現時点における力量の違いをまずまず正確に言い当てている。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
メンデス:+400(5倍)
優大:-500(1.2倍)
<2>betway
メンデス:+400(5倍)
優大:-599(約1.03倍)
<3>Bet365
メンデス:+400(5倍)
優大:-704(約1.14倍)
<4>ウィリアム・ヒル
メンデス:7/2(4.5倍)
優大:1/6(約1.17倍)
ドロー:16/1(17倍)
順当なら、中差程度の3-0判定で優大。乱戦に巻き込まれて、バッティングによる出血などのアクシデントさえ無ければ、問題なく載冠してくれるだろう。
インフルエンザにやられた正規王者ペッチマニーは、早期に回復する筈。夏から秋にかけて、WBC内の統一戦が実現してくれたら言うことはない。
◎優大(25歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
前日本ミニマム級(V0),前WBOアジア・パシフィックM・フライ級(V1),前日本ユースミニマム級(V0)王者
戦績:6戦全勝(4KO)
アマ通算:91戦81勝(21RSC・KO)10敗
2018年度全日本選手権優勝(L・フライ級)
2015年度高校選抜優勝
2015年度インターハイ優勝
2015年度第70回回国体少年の部優勝
2014年度インターハイ優勝
階級:ピン級
熊本開新高校→拓殖大学
身長:160.8センチ
リーチ:158.7センチ
首周:36センチ
胸囲:86.5センチ
拳囲:左23.5/右25.3センチ
視力:左1.2/右0.8
左ボクサーファイター
◎メンデス(26歳)/前日計量:105ポンド(47.6キロ)
戦績:20戦18勝(6KO)2敗
アマ通算:約180戦(詳細不明)
身長:164.1センチ
リーチ:163センチ
首周:33.5センチ
胸囲:79センチ
拳囲:左26.0/右26.5センチ
視力:左右とも1.2
左ボクサーファイター
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■オフィシャル
主審:中村勝彦(日/JBC)
副審:
染谷路朗(日/JBC)
カール・ザッピア(豪)
グレッグ・オルテガ(比)
立会人(スーパーバイザー):未発表