充実の拳四朗に歴戦の元王者がアタック - 拳四朗 vs バドラー 直前プレビュー -

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■9月18日/有明アリーナ/WBA・WBC統一世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 寺地拳四朗(B.M.B) vs 元WBAスーパー王者/WBC1位 ヘッキー・バドラー(南ア)





※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=J-FZ7QUMWII


傷つき疲弊した田口良一(ワタナベ)からベルトを奪い去った2018年5月。自前の興行で世界戦の招致が可能だったワタナベジムが、常打ち小屋にしていた大田区総合体育館で、108ポンドのベルト奪還に成功した南アフリカを代表する軽量級のアイドルは、一目も憚らずに歓喜の涙を流した。

そして同じ年の大晦日。マカオまで遠征して京口紘人(ワタナベ)に11回TKOの完敗。あれからもう5年も経つ。

105ポンド時代の減量苦による消耗に加えて、打ち合いを好むスタイルが災いして、肉体的なダメージが顕著になったバドラーはその後実戦から遠ざかる。同胞のファンの間でも限界説が取り沙汰された。

がしかし、敢然と引退を拒否したバドラーは長い休暇を終えてジムへ戻り、本格的なトレーニングを再開。復帰に向けて動き出したところへ、予期せぬパンデミックが襲来。


同国で発見された変異株(ベータ:N501Y系統)が猛威を振るい、カムバックは大幅な遅れを余儀なくされ、ようやく実戦のリングに登ったのは2021年5月。ヨハネスブルグに無名のフィリピン人を呼び、大差の12回判定勝ち。WBCのシルバー王座を得て、世界ランキングに再び名を連ねる。

海外の元トップスターにありがちな、お約束通りの復帰戦と言ってしまえばそれまでだが、2年半近くに及んだブランクと年齢(33歳)を考慮すれば、108ポンドのL・フライ級リミットを作り(南アの計量には不正が少なくない)、12ラウンズを戦い切っただけでも上首尾と言えた。

しかし、次々と変異を続けるCovid-19の脅威は容易に収束の気配を見せず、さらに丸1年の待機を経て、昨年6月メキシコまで飛んで遅ればせの再起第2戦。

WBOのベルトを巻いて大成を期待されながら、マイキー・ガルシアのアンダーカードでジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)に1-2の判定で敗れたエルウィン・ソトと対戦。

有体に言うなら、復活に賭ける若きスター候補のステップボードとして、遥々南アフリカから呼ばれた元王者。これもまた、世界中で日々繰り返される見慣れた光景ではある。


ところが・・・。ソトのKO勝ちに期待を寄せる地元ファンのブーイングにもめげず、南アの元アイドル,いや古豪がしぶとく食い下がった。

小柄なソトよりもさらに小さな体をコンパクトなガードでまとめ、ステップ&ボディワークを絶やさず、キレのある動きで的を絞らせない。手数を抑えてスタミナをやりくりしながら、とにかく打たれ(せ)ないことに注力。

互いに目立ったヒットもパンチの応酬もなく、駆け引きに終始した前半の5ラウンズ。中継を行うESPN(スペイン語)のアンオフィシャル・スコアは、フルマークでソトを支持していた。


第6ラウンドから圧力を強めるバドラー。全盛期の迫力は望むべくもないが、細かな出はいりをキープしつつ、手数を増やして積極性をアピール。一方のソトは、バドラーのステップを追い切れず、徐々に息が上がり出す。

ベテランの元王者をナメていた訳ではないだろうが、調整不足が垣間見える。ソトのペースダウンが明確になった第7ラウンド、ESPNのアンオフィシャル・ジャッジが初めてバドラーにポイントを与えた。

ラウンドが進むにつれ、顕著なスローダウンへとさらなる下降が続くソト。しかし、バドラーは足を止めることなく、代名詞だった全力のフル・スウィングも封じ込め、慎重な出はいりを堅持。最終ラウンド、疲労と焦りで隙が増えたソトを、バドラーの右カウンターが捉える。

腰から落ちてエイト・カウントのダウン。致命的なダメージこそないが、完全にダメを押した格好となり、ESPNのアンオフィシャル・スコアも、7ラウンド以降はすべてバドラーに振るしかなかった。

3名のオフィシャル・ジャッジが、113-114の1ポイント差ながらも全員一致でアウェイの古豪に軍配を上げる(ESPNのスコアも同じく113-114)。


率直に申し上げて、バドラーのコンディションの良さに驚いた。歴戦のダメージと消耗が目立つベテランが長い休みを取り、一次的にせよ疲れが抜けて鋭気を取り戻すことがある。

「問題なく勝てる」と踏んだソトの油断に助けられたのも事実ではあるが、12ラウンズの長丁場をフルに動き続け、後半勝負の作戦を見事にまとめ切ったバドラーとコリン・ネイサン(チーフ・トレーナー)を賞賛するしかない。


奇跡的なアップセット(?)により世界の第一戦に舞い戻ったバドラーだが、再び丸々1年のレイ・オフ。今年5月にヨハネスブルグでセットされたチューンナップは、109ポンド契約の10回戦で、対戦相手は無名のタイ人。

ソト戦に比して明らかに重く見える足取りに一瞬不安を覚えたものの、開始間もなく放ったボディから上に返す左フックの連射で、タイ人は遭えなく腰から沈没。エイト・カウントで立ち上がった後、レフェリーがそのまま試合を止めた。

力の差が有り過ぎて、調子と状態を正確に測ることが難しい即決KO。ソト戦に続く綺麗なノックアウトのお陰で(?)、思いのほか賭け率は接近している。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
拳四朗:-600(約1.17倍)
バドラー:+450(5.5倍)

<2>betway
拳四朗:-1000(1.1倍)
バドラー:+650(7.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
拳四朗:1/10(1.1倍)
バドラー:11/2(6.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
拳四朗:1/12(約1.08倍)
バドラー:8/1(9倍)
ドロー:20/1(21倍)


直近の防衛戦(4月8日/有明アリーナ)で、ルディ・エルナンデスの秘蔵っ子,トニー・オラスクアガ(2戦続けての来日/アンダーカードの8回戦に登場予定)に強いられた苦闘も、オッズに少なからず影響しているのかもしれない。

個人的にはSky Betの1-9を支持したいし、額面通り拳四朗のKO防衛は堅い筈。アウトボクシングに活路を見い出すしかないバドラーに取って、一段と威力を増した拳四朗の左ジャブは、明白なサイズの違いも併せて大きな壁となって立ちはだかるだろう。

唯一最大の不安要素は、矢吹正道(緑)との再戦,京口紘人との統一戦の快勝で、打ち合いに開眼したかのごとく積極性を増したスタイルの変貌。


オラスクアガのポテンシャルと将来性は、間違いなくS級の評価が与えられて然るべき。それでもなお、プロキャリア僅か5戦の24歳に追い詰められた前戦の出来を、遠来のバドラーとネイサンが大きな攻略の糸口と捉えても無理はない。

5月のチューンナップとは別人のバドラーを、完全アウェイのメキシコでソトをコントロールしたバドラーを、拳四朗と寺地会長は想定する必要がある。

スタートから一気に距離を詰めて、強引なプレスでバドラーの足を止めにかかるのか。それとも以前のように、滑らかなフットワークで対抗するのか。


どちらにしても、バドラーは煩く出はいりしながら、低い姿勢とボディワークで拳四朗のジャブを外し、ディフェンスを軸に据えた駆け引きでリズムとテンポを崩しにかかる。ソト戦同様、前半戦のポイントをすべて捨ててでも、拳四朗のペースを乱すことに腐心するに違いない。

正面から打ち合い勝負に出た拳四朗が、バドラーを捉え切れずに空転する可能性を全否定し切れない恐れを、ソト戦のバドラーが感じさせるのも確か。

曲者ガニガン・ロペスを1発でし止めた右のボディ・ストレート(2018年5月のリマッチ)が、生命線のジャブ,レバーを抉る左ボディとともに、大きなカギを握るかも・・・。


◎拳四朗(31歳)/前日計量:107ポンド(48.6キロ)
現WBC(通算V10/連続V8)・WBA(V1)統一L・フライ級王者
元日本L・フライ級(V2/返上),OPBF L・フライ級(V1/返上),元WBCユースL・フライ級(V0/返上)王者
戦績:22戦21勝(13KO)1敗
世界戦通算:13戦12勝(8KO)1敗
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.5センチ,リーチ:163センチ
※矢吹正道第2戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎バドラー(35歳)/前日計量:107.6ポンド(48.8キロ)
元WBA世界ミニマム級王者(V5)
※V6戦前にスーパー王者昇格,バイロン・ロハス(ニカラグァ)に敗れて王座転落
戦績:39戦35勝(11KO)4敗
身長:159.5センチ,リーチ:166.5センチ
※田口良一戦の予備検診データ
好戦的な右ボクサーファイター





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■オフィシャル

主審:グァダルーペ・ガルシア(メキシコ)

副審:
ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
ホセ・マンスール(メキシコ)
ジョエル・スコービー(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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■キック・オフ・カンファレンス



◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=SmFNfNLCS-4


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国際式2戦目に臨む那須川天心(帝拳)は、対戦相手の変更がどう響くのか。初陣で与那覇勇気(真正)を完封しながら、一部のファンから判定決着に関する不満の声が漏れていた。

「日本キック史上最高」と称される存在故に、期待のハードルが高くなるのは致し方のないところではあるものの、ノックアウトにこだわり過ぎず、自ら信ずるボクシングを追及し続けて欲しい。

拳四朗への大善戦で、敗れたとは言え高い評価に確信を得た”ルディの秘蔵っ子”トニー・オラスクアガ(米)も、フライ級契約の8回戦で連続参戦。

中谷潤人と空位のWBOフライ級王座を争ったジーメル・マグラモ(比)は、前日計量で40グラムのオーバー。全裸になって秤に乗ったが、契約ウェイトをクリアできず。50.9キロでパスしたオラスクアガが、そのまま了承したと思われる。

桑原拓(大橋)とのOPBF王座戦でも、マグラモは900グラムオーバーしていた前科があり、40グラムまでおっつけただけでも良しとすべき・・・?。

戦慄の左ストレートは火を噴くか? - 中谷潤人 vs A・コルテス 直前ショート・プレビュー -

カテゴリ:
■9月18日/有明アリーナ/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 中谷潤人(M.T) vs WBO6位 アルヒ・コルテス(メキシコ)



アンドリュー・モロニー(豪)を完全に気絶させた凄絶な左ストレートで、MGMグランドのメイン・アリーナを震撼させてから4ヶ月。2階級を制した中谷が、115ポンドにおける初防衛戦を迎えた。



※フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=J-FZ7QUMWII


チャレンジャーのメキシカン,コルテスは、発表時点(7月19日)で11位だったランキングが大幅にアップ。世界挑戦が決まったランカーのかさ上げはプロボクシングの常なれど、ご祝儀相場にしても程がある・・・?。

デビュー当時から名匠ナチョ・ベリスタイン(2011年殿堂入り)の薫陶を受けていただけあり、攻防の基本的な技術に不足はなく、疲れを知らない前進を繰り返しつつ、上下のコンビネーションを間断の無い手数で少しづつ相手を削って行く。

遠めの距離からやや遅れて届く、フォロースルーの良く利いたメキシカン特有のロング・フックとアッパーは勿論のこと、ナチョの教え子たちに共通する後退のステップも過不足なくこなす。


好戦的でありながら無駄に打たせない防衛ラインを築き、バチバチに打ち合いながらも、大きなカットや腫れはほぼ無し。出世試合と言っていいファン・F・エストラーダへの初挑戦(2022年9月/メキシコ国内)でも、激しく強打を応酬していたが、エル・ガーヨ(雄鶏:エストラーダのニックネーム)ともども、試合後の顔は綺麗だった。

アマチュア経験の有無も含めて情報は少なく、プロデビュー直後に2連敗(3~4戦目)を経験した他、2度の引き分けも6~8回戦の修行時代。初の10回戦が19戦目(2019年9月)だから、”叩き上げ”と称すべきキャリアの典型。

武漢ウィルス禍の間も長い間隔を開けずに戦い続け、初の10回戦から9戦をこなしてエストラーダ戦のチャンスを得ている。


メキシコの国内トップレベルに相応しい、良くまとまった好選手であることは間違いない。持病を抱える心臓が悲鳴を上げ、一度ならず現場復帰を絶望視されたナチョが、高齢を押してコーナーに入り続けているのも理解できる。だが、戦績が示し自らも認めている通り、1発のパワーに欠ける点が珠にキズ。

身長自体はこのクラスとしては標準的だが、映像や写真で確認する限り(正確な数値は不明)リーチは長くは見えない。計量後のリバウンドもどちらかと言えば控え目で、エストラーダとは上半身の厚みが結構違っていた。

最軽量ゾーンでは規格外のサイズと表すべき中谷とは、体格差がより鮮明に際立つだろう。


昨年11月と今年3月にローカル・ファイトを2試合やって、いずれも判定勝ち(10回戦:相手は無名選手)。そして、エストラーダ戦から丁度1年で実現した再挑戦は、自身初となるメキシコ国外への遠征(渡米経験も無い)。

今年の7月で84歳になったナチョの来日は流石に難しかったらしく、エリック・ロペスというトレーナーがヘッドとして帯同。ナチョの顔を描いたTシャツをお揃いで着用し、チームの結束とバリューアップに余念がない。


米本土で2度世界戦のリングに立ち、印象的なKO(TKO)で認知度を上げた中谷。2階級制覇+無敗の実績も加味され、在米マニアと関係者の評価も好感触。対するコルテスは、エストラーダ以外に名のある選手とのマッチアップがなく、スポーツブックのオッズは大差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
中谷:-1200(約1.08倍)
コルテス:+700(8倍)

<2>betway
中谷:-1587(約1.06倍)
コルテス:+1000(11倍)

<3>ウィリアム・ヒル
中谷:1/16(約1.06倍)
コルテス:8/1(9倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
中谷:1/20(1.05倍)
コルテス:10/1(11倍)
ドロー:20/1(21倍)


「(KOへの自信を問われて)丁寧に戦う。」

ファイナル・プレッサーで揺るがぬ自信を見せつつ、慎重な言葉を選んだ中谷、コルテスを軽く見ていない様子が伺える。もう1つ別な心配もあるが、常識的にはKO防衛の予想を立てざるを得ない。

磐石に見える若き2冠王にまったく懸念材料が無い訳ではないし(別な心配=後述)、タフで上手さも併せ持つコルテスに粘られる展開も充分に想定の範囲内ではある。


◎中谷(25歳)/前日計量:114.6ポンド(52.0キロ)
現WBO J・バンタム級王者(V0),前WBOフライ級(V2/返上),元日本フライ級(V0/返上),元日本フライ級ユース(V0/返上)王者
2016年度全日本新人王(フライ級/東日本新人王・MVP)
戦績:25戦全勝(19KO)
アマ戦績:14勝2敗
身長:172センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーパンチャー


◎コルテス(28歳)/前日計量:114.4ポンド(51.9キロ)
戦績:30戦25勝(10KO)3敗2分け
身長:163センチ
右ボクサーファイター




上にご紹介した最終会見で気になったのが、中谷の消耗ぶり。タッパを考えれば減量がキツいのは当たり前で、げっそり殺げた頬もいつものことではあるのだが、顔色が悪く精気が感じられない。

前日計量でも疲れ切ったかのような表情に変わりはなく、1発クリアに安堵はしたものの、たっぷりの水分補給と食事で一晩ぐっすり眠れたとしても、十全な回復を図れるのかどうか。

よもやの大番狂わせを献上することはないと信じるけれど、いつものスピード&シャープネスが発揮できない場合、コルテスに相当押し込まれる覚悟が必要になる。

興味が半減した(?)井岡一翔との統一戦や、井岡との争奪戦に拍車が掛かるエストラーダとの激突ではなく、さらなる階級アップ(バンタム級進出)を検討した方が良いのでは・・・。


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■オフィシャル

主審:スティーブ・ウィリス(米/ニューヨーク州)

副審:
エフレン・レブロン(米/ニュージャージー州)
リン・カーター(米/ペンシルベニア州)
ルイス・ルイス(プエルトリコ)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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■キック・オフ・カンファレンス



◎フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=SmFNfNLCS-4

ヘビー級3冠王が1年ぶりのリング復帰 /P4P月間を制すのは・・・? - ウシク vs デュボア ショートプレビュー -

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■8月26日/ヴロツワフ市立スタジアム,ポーランド/WBA・IBF・WBO3団体統一世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦
王者 オレクサンドル・ウシク(ウクライナ) vs WBA正規王者 ダニエル・デュボア(英)





パウンド・フォー・パウンド・ランキングのトップを争う日米2強が揃い踏みしただけでなく、前評判を遥かに凌駕する圧巻のパフォーマンスで観る者の”度肝を抜いた”衝撃の1週間から、早くも1ヶ月が経とうとしている。

我らが井上尚弥の快勝に快哉を叫んでから僅か4日後、最激戦区と称すべき147ポンドの3団体を統一したエロール・スペンスをまったく問題にせず、圧勝という2文字では全然足りない、とんでもない力量の差をこれでもかと見せ付けたテレンス・クロフォードが、男子史上初となる「2階級+4団体統一」を成し遂げた。


そして今月末、P4Pトップ・トライアングルの一角を占める最重量級の3冠王が、アンソニー・ジョシュア(英)との再戦から丸々1年を開けて登場する。

さらに来月末になると、ドミトリー・ビヴォル戦の完敗(内容=負け方も悪かった)でP4Pトップ戦線から数歩後退の感が否めないカネロが、メキシコの独立記念日(1821年9月27日)に合わせて、5月のシンコ・デ・マヨ(仏軍に対する戦勝記念日:1862年5月5日)に続く4団体統一S・ミドル級王座の防衛戦。

2階級下のS・ウェルター級で4団体を統一したジャーメル・チャーロの挑戦が大きな話題となっているが、リング誌P4Pランクの十傑に一度は並んだものの、現在はランク外となっている評価に不満を募らせ、クロフォードに続く「2階級+4団体統一」に並々ならぬ意欲を燃やす。


WBSS(World Boxing Super Series)の1stシーズンでクルーザー級の4団体を統一した後、ヘビー級に転じてジョシュアに挑み、3団体(WBA・IBF・WBO)を一気に掌握したウシクも、当然のことながら4つすべての頂きを目指している。

練習中の怪我(右上腕)と度重なる対戦相手の変更により、2019年5月に予定していたヘビー級の初戦が延期。同年10月、チャズ・ウィザスプーンに7回終了TKO勝ちを収めたが、武漢ウィルス禍の影響を受けて1年の休養を余儀なくされた。

ジョシュアがアンディ・ルイスに超特大の番狂わせ(2019年4月/7回TKO負け)を献上した直後、ウシク陣営はWBOからヘビー級の指名挑戦権を正式に認められていたが、相次ぐ変異株の確認と流行を繰り返す感染症の猛威は収まる気配がなく、3冠王ジョシュアの予期せぬ落城と奪還(同年12月の再戦で大差の3-0判定勝ち)が状況を難しくする。


2020年10月、何とか陽の目を見たデレク・チソラとの転級第2戦で12回3-0判定勝ち。タフで鳴らす問題児チソラに手を焼きながら、無事に転級級第2戦を白星で飾るも、タイトルマッチの実現までさらに1年を要してしまう。

ジョシュアへの挑戦交渉が長引く中、WBC王者ディオンティ・ワイルダーとの契約に応じた筈のタイソン・フューリーが、ジョシュアを擁するエディ・ハーンに接近。しかたなくチームはWBOの暫定王座決定戦(対戦候補:ジョー・ジョイス)を模索するが、ジョシュア vs フューリーの契約は成立に至らず、WBOが改めてウシクとの指名戦履行と興行権の入札実施を指示するに及び、エディ・ハーンとジョシュアも腹を決める。

2021年9月25日、オープンして間もない(2019年4月こけら落とし)トッテナムの新スタジアムを埋め尽くした6万人超の大観衆を前に、「超大型ヘビー級の完成形」を期待されたジョシュア(198センチ,240ポンド)に対して、クルーザー級上がりの小~中型ヘビー級のウシク(190センチ,220ポンド)が、持ち味のフットワークとシャープなパンチでペースを握り、そのままゴールテープを切って3-0の判定勝ち。


オフィシャルのスコアは僅少~中差の間で割れた(117-112,116-112,115-113)ものの、多くのファンと関係者の眼には「ウシクの完勝」と映った。イヴェンダー・ホリフィールドとデヴィッド・ヘイの後に続き、「ヘビー級を獲った3人目のクルーザー級王者」となったったウシクに、ハーンとジョシュアは再戦条項の権利行使を通告した。


「2022年4月サウジアラビア開催」が規定の路線となったが、運命の2月24日、遂にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始。3月3日、ウシクは「ウクライナ領土防衛大隊(Ukrainian territorial defence battalions)」への入隊を明らかにする。

ドネツィク,ルハンシクの2州に攻め込んだロシアの民兵組織「ノヴォロシヤ連合軍(ウクライナ政府はテロ集団に指定)」への抗戦を主な任務にすると報じられ、2月27日に生まれ故郷の南部オデッサ近郊の義勇軍に入隊したロマチェンコ同様、リング復帰が危ぶまれかねない逼迫した状況に絶句するしかなかった。

◎関連した過去記事
<1>祖国・領土(最愛の人々)を守る為に・・・ /独裁国家の狂気に身を挺して抗戦するアスリート - ロマチェンコ VS J・オルティズ プレビュー II -
2022年10月29
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/afbcc54edadf065cb9c2ba90876a504d

<2>絶対王者が絶対である為に・・・ /戦場に身を投じた王者がリング復帰 - ロマチェンコ VS J・オルティズ プレビュー I -
2022年10月26日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/89a1fd8217042bd415d50401ad75bded


しかし、3月23日にはポーランドへの入国が明らかとなり、「ワジム・フトツァイト大臣(スポーツ相)の許可を得て出国」と伝えられ、ジョシュアとの再戦に向けトレーニング・キャンプを開始したことが判明。

ウクライナ政府が2人の英雄について公式に出国の許可を認めたのは、おそらく5月の半ば過ぎだったと記憶するが、いずれにしても昨年8月20日、サウジアラビア第二の都市ジェッダ(ジッダ)にある、3万5千人収容の屋内施設(ジェッダ・スーパードーム)でウシクはジョシュアと再び相まみえ、僅少差のスプリット・ディシジョン(116-112,115-113,113-115)で辛くも初防衛を果たす。

第1戦(221.25ポンド)とほとんど変わらない221.6ポンドで計量したウシクだったが、本番のリング上では上半身の厚みが増していて、フットワークとパンチに冴えを欠いた。


困難を極める祖国の現状と繰り返される長期ブランクが、年齢的な衰え(30代の半ば)を加速させたとしても致し方のないことではあるし、良好な状態でのリングインを望む方に無理がある。ただ、そうしたディスアドバンテージに配慮を加えたとしても、ベスト・シェイプに程遠かったのは間違いない。

足が完全に止まらずとも、スピード&アジリティの鈍化はウシクにとって致命的なウィークネスに成り得る。2メートル級の圧力をまともに受ける場面が増えて、コンディションが万全なら回避できたであろうボディアタックを避け切れず、以前なら印象点を稼いでいた筈の数ラウンドを失った。

どれだけ気にしてもせんないことではあるが、今回もまた、王者のコンディションが最大の焦点であり、かつ不安要素ということになる。



◎フル映像:ファイナル・プレス・カンファレンス
https://www.youtube.com/watch?v=vJfx9YAUWPw

◎公開練習
https://www.youtube.com/watch?v=Vx7aGkIxx68


WBAのレギュラー王座を保持するデュボアも、アマチュアで活躍したエリートクラス(主にジュニア&ユース)。代表チームに呼ばれて海外遠征も経験しており、ジョー・ジョイス(リオ五輪S・ヘビー級銀メダル)の後継者を自他ともに認め、東京五輪でのメダル獲得を目指していた。

その東京五輪にライト級の代表として出場(ベスト8敗退)した妹のキャロライン(22歳/2018年ユース五輪金メダル/昨年2月プロデビュー/7戦全勝5KO)だけでなく、7歳年少の弟プリンスもプロで3戦(2勝1敗)したS・ウェルター級。2019年4月に初黒星を喫した後、パンデミックに見舞われそのまま実戦から遠ざかっている。

方針を転換した本当の理由はよくわからないが、2017年1月上旬、英国を代表するプロモーター,フランク・ウォーレン率いるクィーンズベリー・プロモーションズとの契約を発表すると、3ヶ月後の4月8日に4回戦でデビュー。

翌年6月までの1年余りで8連続KO勝ちを記録し、イングランドの地域王座(BBBofC English)を獲得。続く9戦目で、ヴィタリ・クリチコへの挑戦経験を持つ大ベテラン,ケヴィン・ジョンソンをアメリカから呼び、ワンサイドの10回判定勝ち。


2019年の暮れには、K-1から転向して話題になっていた藤本京太郎(角海老/引退してキックに出戻り)を問題にせず2回KO勝ち。どうにも埋めようがない国際基準との違い、大き過ぎる格差を日本の格闘技ファンに知らしめてくれた。

連続KOは途切れたものの、WBOの下部タイトルと英国王座(BBBofC British)を奪取して、13戦目には伝統の英連邦王座も吸収。さらにWBCシルバー王座にも就き、連勝記録を15(14KO)に伸ばしたデュボアに、プロモーターのウォーレンが文字通り試金石のタイトルマッチを用意する。


2020年11月28日、なんとウェストミンスター寺院の敷地内にリングを設営した特設会場で、ジョー・ジョイスとぶつかったのだが、言うまでもなく無観客(武漢ウィルス禍の影響)。年齢は一回り以上ジョイスが上だが、英国と英連邦の2冠を保持するデュボアが形式上は挑戦を受けて立つ格好。

空位の欧州(EBU)王座も懸けられる運びとなり、英国では「世界挑戦への資格」として永く継承されてきた3つのベルトが揃う。

2019年春にジョイスを獲得していたウォーレンは「2020年4月・O2アリーナ」開催を目論み、BT SportsのPPVも決まっていたが、新たな感染症の脅威により複数回の仕切り直しを余儀なくされ、「10月開催でフィックス」と報じられた直後、さらなる延期と無観客での決行に追い込まれた。


ジョイスが仕掛ける中間距離での駆け引きに応じたデュボアは、あっさり「自慢の右」を封じられてしまい、迎えた第10ラウンド開始直後、完全に潰された左眼に相打ちのジャブを直撃されると、ディレイド・アクションでデュボアがリングに膝を着きそのままカウントアウト。

30代半ばを過ぎたジョイス(プロデビューはデュボアより半年遅い)にいいところなく敗れたデュボアは、アマチュア時代からの恩師マーティン・バウアース(マネージャー兼トレーナー)とのコンビを解消し、シェーン・マクギガンを新たなチーフに据える。

翌2021年6月、ルーマニアの元トップ・アマ,ボクダン・ディヌ(対戦時35歳)を2回KOで瞬殺して再起に成功。新体制の船出は順調な浸水となった。

2ヶ月後の8月29日には、プロ転向後初渡米が実現。”女パッキャオ”ことアマンダ・セラノのアンダーで無名の中堅アメリカ人(ヒスパニック系の白人)を初回2分余りで粉砕。ローカル・クラスを相手にした時には、無類の強さを発揮する。


そして昨年6月11日、2度目のアメリカで22連勝(15KO)中の黒人ヘビー級,トレヴァー・ブライアン(ニューヨーク出身/ゴールデン・グローブスで活躍したエリートアマだが既に30代)を4回KOで破り、WBAレギュラー王座を獲得。

ようやくパンデミックも落ち着き、年末の12月3日には、トッテナムの本拠地(6万人収容のスタジアム)に南アフリカのサウスポー,ケヴィン・レレナを招聘しての初防衛戦。

圧倒的な勝利への期待を背に、自信満々で前に出たところへ左フックを浴びていきなりノックダウン。エイト・カウントの再開後、距離を詰められると自ら膝を付いてしまい、ラウンド終了間際にも同じような流れから膝を折り3度目のダウン。挑戦者は左アッパーを2発放ってはいたが、自分から倒れたに等しい。

大波乱のスタートは、ジョイス戦を遥かに越える壊滅的なピンチと表して良く、大番狂わせの即決KOを予感させる中、第3ラウンドに起死回生の右カウンターで逆転のダウンを奪うと、そのままロープに追い詰めて連打を集め、レフェリーストップを呼び込んだ。


20世紀に比して、階級を問わず世界的に左構えが増えた。マイケル・モーラーとクリス・バードの2人が、「サウスポー不毛」と呼ぶに相応しいヘビー級で先駆者となった90年代、時を同じくして旧ソ連・東欧からステートアマの流入が拡大加速。

スルタン・イブラギモフ(ロシア),ルスラン・チャガエフ(ウズベキスタン)の2王者が生まれ、若きウラディーミル・クリチコをショッキングな2回TKOに屠ったコリー・サンダース(南ア)、複数回のドーピング違反で大きなミソを付けたが、ジョシュアに最初のベルト(IBF)を譲ったチャールズ・マーティン、”キューバン・キング・コング”ことルイス・オルティスも数少ないレフティ。

すなわち、ヘビー級のトップクラスに関する限り、サウスポーの頭数は限定的でまだまだ珍しい。国際的に顔と名前の知れていないレレナに、警戒心が不足していたのも確かだと思うけれど、それにしても左対策は無きに等しく、ポジショニングも反応も酷いものだった。


文字通りの1発逆転となった右カウンターも、「狙い澄ました」とは口が裂けても言えない。止めを刺そうと打ち気に逸るレレナのディフェンスも甘かった。「いや、あの右が咄嗟に出るんだから、やっぱりセンスはある。」とのご意見もあるだろうが、果たしてどうだろうか。

巨大化の代償としてスピード&クィックネスを喪失し、運動量と鋭いジャブを基本にした手数までも失った現代のヘビー級を、プライム・タイムのモハメッド・アリとほぼ同サイズのウシクが、機能的なステップワークを武器に席巻する。

手足と身体全体のスピードはアリの域には届かず、高い評価を受ける右のリードも、凄まじい切れ味と威力を誇ったアリ(とラリー・ホームズ)の左ジャブには及ばない。それでもなお、「数少ないサウスポー」の利点を活かしたウシクのボクシングは、今のデュボアには敷居が高い。


この大一番に備えて、デュボアのトレーナー交代も波紋を呼んでいる。アイリッシュの大スター,マクギガン親子とも別れたデュボアは、デレク・チソラを発見育成した黒人コーチ,ドン・チャールズとの契約を発表。

という訳で、スポーツブックのオッズは大差でウシクを支持。最大10倍を付けるブックメイカーもあり、ウシクのKO勝ちを予測する声も少なくない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ウシク:-1000(1.1倍)
デュボア:+600(7倍)

<2>betway
ウシク:-1000(1.1倍)
デュボア:+750(8.5倍)

<3>Bet365
ウシク:-901(約1.11倍)
デュボア:+550(6.5倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ウシク:1/10(1.1倍)
デュボア:6/1(7倍)
ドロー:20/1(21倍)

<5>Sky Sports
ウシク:1/10(1.1倍)
デュボア:6/1(7倍)
ドロー:25/1(26倍)


レレナ戦でまたもや露になったデュボアの精神的な脆さは、ウシクとの技術やスピード&スキルの違い以上に、ボクサーとしての根本的な資質への不安を健在化させる。

ジョイス戦を見ていて痛感した「遅さ」と身体の硬さは、デュボアのサイズ(公称196センチ,240ポンド超)を考慮したとしても、現代ヘビー級のレベルダウンを如実に示すものと言わざるを得ず、「遅い」というよりは「鈍い」と表すべきだろう。

1発に対する注意、一定水準の集中の維持は必須になるが、それもまたL・ヘビー級以上の最重量級では当然の前提条件に過ぎない。ウシクが8割方仕上がってさえいれば、ウクライナが誇る3冠王の勝利は揺るがない。怖いのは、「普通にやっていれば問題ない。」との自信が油断に変わる瞬間だけ。


緑のベルトを保持するタイソン・フューリーとの4団体統一戦の交渉は、ウシク陣営が要求する再戦条項と興収の配分を巡り紛糾。あえなく頓挫してしまった。

本来ならば我らが井上尚弥よりも早く、クロフォードと男子第1号の栄誉を争って然るべき存在であるにもかかわらず、パンデミックによるブランクが開け切らないまま、美しき故郷を襲った破壊と殺戮の悪夢が行く手を阻む。

狂気に駆られた独裁者プーチンの命に抗うことができず、遂に蛮行に及んだロシア軍とワグネルを始めとする民兵組織から最愛の家族と祖国を守る為、クリチコ兄弟やロマチェンコらとともに従軍したウシクは、「何時でも戦場に戻る。その覚悟と準備は出来ている。」と躊躇なく語る。


祖国ウクライナと国境を接するポーランド(ドイツと旧ソ連の長い占領に苦しんだ)での開催は、余りにも重く切ない。

戦乱が続く祖国に、鮮やかな勝利を届けてムーヴアップできるかどうか。ウシクの状態に否が応でも注目が集まる。



◎ウシク(36歳)/前日計量:220.9ポンド
WBA(V1),IBF(V1),WBO(V1)3団体統一王者
クルーザー級4団体統一王者
元WBO(V6),WBCクルーザー級(V2/前王者),WBAクルーザー級スーパー(V1/前王者),元IBFクルーザー級(V1)
戦績:20戦全勝(13KO)
アマ通算:335勝15敗
2012年ロンドン五輪金メダル
2008年北京五輪代表(2回戦敗退)
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル
2009年世界選手権(ミラノ)銅メダル
2008年ワールドカップ(モスクワ)銀メダル
2008年欧州選手権(リヴァプール)優勝
2008年クリチコ兄弟杯(ウクライナ国内)優勝
※階級:ヘビー級
※2005年以降,ジュニア時代からウクライナ国内の大会で優勝多数(ミドル~L・ヘビー級)
身長:191センチ,リーチ:198センチ
左ボクサーファイター


◎デュボア(25歳)/前日計量:233.2ポンド
WBA正規王者(V2)
戦績:20戦19勝(18KO)1敗
アマ通算:75戦69勝6敗
2016年タンペレ国際トーナメント金メダル
※1977年からフィンランドの主要都市タンペレで行われている国際規模のトーナメント
2015年ユース欧州選手権(アンダー19/コウォブジェク/ポーランド)ベスト8
2015年ブランデンブルクユースカップ(フランクフルト/独)銀メダル
2015年イングランドユース選手権(アンダー19/フェリーヒル)優勝
2014年ユース欧州選手権(アンダー19/ザグレブ/クロアチア)ベスト8
※階級:S・ヘビー級
身長:196センチ,リーチ:198センチ
右ボクサーファイター




◎フル映像:前日計量
https://www.youtube.com/watch?v=xpVQSnn2Dmc


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■オフィシャル

主審:ルイス・パボン(プエルトリコ)

副審:
スタンリー・クリストドロー(南ア)
パウロ・カルディナ(ポーランド)
レシェック・ヤンコヴィアック(ポーランド)

立会人(スーパーバイザー):未発表


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■キック・オフ・カンファレンス

<1>7月10日/ヴロツワフ(開催地:ポーランド)



<2>7月13日/ロンドン


※フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=mxZJpHIsDPs

遂に実現した147ポンド最強決定戦 /男子初の2階級4団体統一は成るか? - スペンス vs クロフォード ショートプレビュー -

カテゴリ:
■7月29日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBA・WBC・IBF・WBO世界ウェルター級王座4団体統一12回戦
WBA・WBC・IBF統一王者 エロール・スペンス・Jr.(米) vs WBO王者 テレンス・クロフォード(米)





※ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=At471MTxemE


リアル・モンスター,井上尚弥の快勝に沸き返る我が国では、「史上初の2階級4団体統一」が大きくクローズアップされている。

リングサイドで観戦していた対抗馬のマーロン・タパレス(WBA・IBF2団体統一王者)が試合直後のリング上に姿を現し、4団体統一戦の実現を公言してさらに盛り上がっている訳だが、一足先にラスベガスで偉業を達成しそうな男が居ることを忘れてはいけない。

リング誌P4Pランキングの常連として、カネロ,ロマチェンコ,ウシク,我らが井上らとトップを争うテレンス・クロフォードである。


もっとも、2階級に渡る4団体の完全制覇は、クロフォードにしても井上にしても、実は「史上初」ではない。女子重量級の雄,クラレッサ・シールズが既にこの快挙を成し遂げており、「史上初」の冠には「男子」の2文字を付けなくてはならない。

女子ボクシングが初めて正式競技として行われた2012年ロンドンと、それに続く2016年リオのミドル級を2連覇したクラレッサは、ブラジルから帰国した直後の2016年11月にプロ・デビュー。

僅か3戦目でWBCのS・ミドル級王座に就く(センサク・ムアンスリン,ロマチェンコに続く最短奪取)と、5戦目でIBF王座を吸収(V2)。続く6戦目に階級を1つ下のミドルに落とし、実力者ハナ・ガブエリエル(コスタリカ)からIBFとWBAの統一王座を奪い、7戦目でフェムケ・ハーマンズ(ベルギー)が保持するWBAレギュラーを獲り、8戦目でWBCとWBOの2冠王クリティーナ・ハマー(独)を完封して4つのベルトを確保(2019年4月/アトランティックシティ)。

パンデミックによる休止を挟み、S・ウェルター級まで絞ってまずはWBCとWBOを獲得。転級2戦目(2021年3月地元のミシガン州フリント)で4本のベルトを総ざらいして、4団体から保持を認められたミドル級に舞い戻り、アマ時代からのライバル,サヴァンナ・マーシャル(英)を敵地ロンドンで撃破。

2大会連続のオリンピック金メダルも凄いが、プロでも最短での世界王座奪取と、2階級の完全制覇を含む3階級制覇をやってのけ、無傷の14連勝(2KO)を継続更新中。「無敵の女王」を豪語するだけのことはある。


女子には長らくP4Pキングの称号を誇ったセシリア・ブレークフス(ノルウェイ/出身はコロンビア)が居て、2014年にウェルター級の4団体を統一。2020年8月、伏兵ジェシカ・マカスキル(米)に敗れるまでその座にあった。

そしてご存知アイリッシュの女帝ケイティ・テーラー(ロンドン五輪ライト級金メダル)は、2019年6月にライト級の4団体を制圧。昨年4月には、7階級制覇の”女パッキャオ”ことアマンダ・セラノ(米)とのドリームマッチを実現。

ニューヨークの殿堂MSGのメイン・アリーナで史上初めて女子のタイトルマッチがオオトリを飾り、これもまた女子史上初となる100万ドルマッチを達成。


間のS・ライト級でも、英国イングランドの女傑シャンテル・キャメロンがIBFとWBCの2冠を獲って大活躍。クラレッサに続く2階級の4団体統一を目指し、ウェルター級の4冠王ジェシカが階級を下げ、空位のWBAとWBOから決定戦の承認を取り付けて激突(2022年11月)。

小差の3-0判定をモノにしたシャンテルが見事に4団体を統一すると、今年5月、やはり2階級・4団体統一を目論むケイティの挑戦を受け、完全アウェイのダブリンで僅小差のマジョリティ・ディシジョンを得たのは記憶に新しい。


また、実力女子No.1の呼び声高きアマンダは、地元ニューヨークでケイティをKO寸前まで追い込みながら、惜しい判定に涙を呑んだものの、昨年9月の再起戦でフェザー級の4団体王者となった。

さらに翌10月には、S・フェザー級のWBC王者アリシア・バウムガードナー(米)も、トップランクが強力にバックアップするスター候補,ミカエラ・メイヤー(IBF・WBOの2冠王)を僅差の2-1判定でかわし3団体を統一。今年2月にWBA王座も吸収して、4冠王の栄誉に輝いている。

予期せぬ怪我でケイティとのリマッチを棒に振ったアマンダには、未だケイティとの決着戦への期待が寄せられており、敵地ダブリンへの遠征実現に余地を残す。


クラレッサが去った後のS・ミドル級には、アマ時代の宿敵フランション・クルーズ・デズーン(プロ・デビュー戦でクラレッサに惜敗)が君臨。昨年4月に4本のベルトをまとめたが、1年3ヶ月のブランクを経て先月渡英。

クラレッサに敗れたサヴァンナ・マーシャルの挑戦を受け、0-2のマジョリティ・ディシジョンで統一王座を譲ったばかり。

S・ミドル,ミドル,S・ライト,ライト,S・フェザー,フェザーの6階級に4冠王が鎮座まします女子は、4団体の統一が当たり前と言っていい状況。

パンデミックにより完全に頓挫してしまったけれど、オレクサンドル・ウシクのクルーザー級完全制覇を実現に導き、ジョシュ・テーラーのS・ライト級制圧も強力に後押ししたWBSS(World Boxing Super Series)と、女子を席巻する統一路線の大きな渦は、今しばらくはボクシング界の潮流となって動き続ける。


そして2017年8月、IBFとWBAの2冠を保持するジュリアス・インドンゴ(ナミビア)をショッキングな3回KOに屠り、バーナード・ホプキンス(2004年9月/ミドル級の4団体を統一)以来途絶えていた4冠王となったテレンス・クロフォードこそ、「4団体統一時代」の幕を開けた功労者だと言えなくもない。

4つの王座を得たクロフォードは、昨年末の井上尚弥と同様、ウェルター級への参戦を正式に表明。転級初戦で同じトップランク傘下のジェフ・ホーンを圧倒。ワンサイドの9回TKOに退け、ライト級とS・ライト級に続く3階級制覇に成功した(2017年12月)。

あれから5年近くの歳月が流れて、多くのファンと関係者が実現を望むエロール・スペンスとのウェルター級最強決定戦は、対立関係にあるプロモーション同士の折り合いが付かず、痺れを切らしたクロフォードがとうとうトップランクとの関係を清算(2021年11月)。


ウェルター級のトップクラスを丸抱えするアル・ヘイモン一派への合流なくして、スペンス戦の実現もまた有り得ない。誰もが納得せざるを得ない決断ではあったのが、これで一気に話が進むと思いきや、交渉は相も変わらず遅々として進まず。

「クロフォードのピークアウトを完全に確認できるまで、スペンスはやらないつもりなんだろう。パッキャオ戦を引き伸ばし続けたメイウェザーと同じ・・・」

互いのピーク時に激しくぶつかり合うのが、ライバルの本来あるべき姿に違いない。実際に20世紀のプロボクシングは、再戦どころではなく、第3戦でも決着が着いたとはみなされず、4度・5度・6度と戦いを繰り返す本物のライバルが存在した。

しかし、プロボクサーが年間にこなす試合数の激減に、ネット配信も含めた中継の改革・変貌が加わり、かつては当たり前だったリマッチも限定的。ファン・M・マルケスと4度拳を合わせ、エリック・モラレスとも3度、マルコ・A・バレラと2度戦ったパッキャオは、超攻撃的なファイトスタイルと前代未聞の8階級制覇も含めて、存在そのものが異端なのだと考えるしかない。


在米マニアだけでなく、主要なボクシング・メディアもサジを投げかけていた今年4月、急転直下スペンス vs クロフォード戦の合意が報じられる。

繭にたっぷりとつけた固唾を呑んで、ただただ見守るしかなかった多くのファンも、6月中旬にキック・オフ・カンファレンス(L.A.とN.Y.)が行われるに至り、ようやく安堵の深いため息をつく。

◎L.A.キック・オフ・カンファレンス
2023年6月14日/ビバリーヒルズ・ホテル


◎L.A.キック・オフ・カンファレンス:フル映像(LIVE中継のアーカイブ)
※25分過ぎにスタートする
https://www.youtube.com/watch?v=vRQv0H2T2vM

◎N.Y.キック・オフ・カンファレンス:フル映像
2023年6月15日/タイムズ・スクウェア(Palladium Times Square)
https://www.youtube.com/watch?v=hW0noLv07x8


しっかりと裏の取れた情報ではないが、両雄には8桁の報酬(1千万ドル超)が約束されていると言われており、総額は2,500万ドルづつと記載した記事も出てはいる。
※最低保障:1千万ドル+PPVインセンティブ等々

中継は当然のことながら、ShowtimeのPPV。120万件を売り上げたとされるG・デイヴィス vs R・ガルシア戦には届きそうにないが、80万件超えに期待がかかる(50~60万件が一杯一杯との風聞も)。

いずれにしても、王国アメリカにおける2023年最大注目のマッチアップであることに変わりはない。スポーツブックのオッズは、対戦が公表されて以来、一貫してクロフォードを支持。マージンに大きな開きはないが、3階級で傑出した安定感を維持してきたネブラスカのヒーロー優位に傾く。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
スペンス:+138(2.38倍)
クロフォード:-150(約1.03倍)

<2>betway
スペンス:+130(2.3倍)
クロフォード:-154(約1.65倍)

<3>Bet365
スペンス:+125(2.25倍)
クロフォード:-165(約1.61倍)

<4>ウィリアム・ヒル
スペンス:13/10(2.3倍)
クロフォード:4/6(約1.67倍)
ドロー:14/1(15倍)

<5>Sky Sports
スペンス:5/4(2.25倍)
クロフォード:4/6(約1.67倍)
ドロー:16/1(17倍)


「オレの方が優れている。肉体的にも精神的にも、より完成されたファイターであることは火を見るより明らか。勝つのはオレだ。」

双方が同じ主張をして一切譲らない。それぞれのコーナーを守るチーフも、異口同音に勝利への堅く揺るぎない自信を述べ続ける。

「私の選手が勝つ。互いに優れた才能の持ち主で、経験も技術も申し分がない。難しい局面も訪れるだろうが、結局我々に凱歌が上がる。」

これもまた当然の光景ではあるものの、クロフォード有利とは言え拮抗した賭け率が示すように、明確な差を想定するのが困難な状況であることも確か。


3本のベルトを保有するスペンスは、ここまで28戦して全勝(22KO)。ドローもノーコンテストモ含まないパーフェクト・レコードを誇り、世界戦の数では敵わないものの、7度の世界戦中、世界タイトルを獲得していない相手は、3度目の防衛戦で初回KOに下したカルロス・オカンポ(メキシコ)ただ1人。

フェザー級から上げて来たマイキー・ガルシアに「階級の壁」をこれでもかと思い知らせた他、ショーン・ポーターとの激闘を生き残り、ダニー・ガルシアとヨルデニス・ウガス(キューバ)に明確な差を見せ付けている。


対するクロフォードも、39戦全勝(30KO)。ドローやNCを1つも含まない点も同様だが、スコットランドに渡って地元の人気者リッキー・バーンズを問題にせず、明白な12回3-0判定でライト級王座を奪ったのが2014年3月。

ユリオルキス・ガンボアを残酷なまでのワンサイドで打ち倒し、レイ・ベルトラン,ビクトル・ポストル,上述したインドンゴらを含む実力者たちからベルトを守り、3つ目となるウェルター級でも磐石の巧さに錆付きは見られない。


微妙な差を付けてクロフォードを推すオッズの直接的な要因と動機は、両雄に共通する対戦相手とその結果ではないか。

<1>ケル・ブルック(英)
スペンス:2017年5月27日/英国シェフィールドで11回KO勝ち
クロフォード:2020年11月14日/ラスベガスで4回TKO勝ち

<2>ショーン・ポーター(米)
スペンス:2019年9月28日/ロサンゼルスで12回2-1判定勝ち
クロフォード:2021年11月20日/ラスベガスで10回TKO勝ち

結果だけを見れば、クロフォードの方が強そうに見えてしまう。ただし、対戦した時期はいずれもスペンスの方が早い。

147ポンドのIBF王座を保持(V3に成功)していたブルックは、2016年9月、S・ウェルター級をすっ飛ばして何とゴロフキンに挑戦。こっぴどく打ち据えられて5回TKO負けを喫しただけでは済まず、左眼に眼窩底骨折の重症を負うなど、甚大なダメージを被った。8ヶ月に及ぶブランク明けに迎えたチャレンジャーがスペンスだっという次第。

英国内のローカルファイトで2連勝した後、武漢ウィルス禍による1年超の戦線離脱。2020年8月に復帰戦をやった後、クロフォードのWBO王座にアタックして完敗。再び1年を超える休養を挟み、アミル・カーンとの遅過ぎるライバル対決を6回TKOで制して引退に追い込んでいる。


170センチあるかないかの小兵をものともせず、類稀な馬力とフィジカル(バネ)の強さでウェルター級を賑わせたポーターは、ブルックにIBFのベルトを譲った張本人。

エイドリアン・ブローナーに勝ち、キース・サーマンに惜敗した後、ダニー・ガルシアとの接戦を制してWBC王座を獲得。大いに物議を醸したヨルデニス・ウガスとの初防衛戦(12回2-1判定)を経て、IBF王者だったスペンスとの統一戦に臨み、サーマン戦同様の惜敗。

パンデミックの影響で1年休んだ後再起し、変異株の流行を繰り返す中、また1年休んでクロフォードに敗れて引退を表明した。


優れたアマチュアのバックボーンもまた、スペンスとクロフォードの共通点。スペンスはクロフォードが逃した代表チームの常連となり、世界選手権とオリンピックに出場。メダルを持ち替えることは出来なかったが、実績はクロフォードを上回る。

しかしながら、ファイトスタイルを含めたボクシングの練度、巧さではクロフォードに軍配を上げなくてはならない。

サイズだけでなくスピードにも恵まれたスペンスは、ロング・ディスタンスを得意とするアウトボックスに適性を持つ筈なのだが、決まって打ちつ打たれつの白兵戦に雪崩れ込む。

強打の応酬になると簡単に退かない気の強さが災い(?)して、フィジカル勝負の消耗戦,潰し合いになってしまいがち。余計な被弾が目に付く。トレーナーのデリク・ジェームズも修正を試みたようだが、どうやら途中で諦めた模様(?)。


「久々に見る惚れ惚れするようなジャバー。」

ライト級で頭角を現し始めた頃のクロフォードは、オーソドックスのアップライトからシャープで伸びのいいジャブをビシビシと放つ、それはもう魅力的なジャブの名手だった。

チャンピオンになってからは、ガンボア戦で定着した左右のスイッチを頻繁に用いるようになり、最近はほとんどサウスポーで通している。ノニト・ドネアも器用に左右を使い分けるが、クロフォードは現代最高水準のスイッチヒッターと表していいと思う。

左で戦う時の右リードは、残念ながら右構えで操る左ジャブのキレとしなやかさには及ばない。それでも精度とタイミングは頭1つ抜きん出ているし、堅牢堅実なクロフォードのスタイルを支える重要な基盤と考えて差支えがない。


自分の距離と間合いをしっかり保ちつつ、着実なポイントメイクを第一に、けっして無理な打ち合いはせず、不用意な被弾(ケアレス・ミス)もほとんどなし。

「何も心配することがない。テレンスは全て自分の頭で考えて、自分で処理出来る。しかも判断と対処に誤りがないんだ。これほどのボクサーは、世界中のどこを探してもまずいないだろう。」

長年コンビを組むヘッド・コーチ,ブライアン・マッキンタイアは、「誰が相手でも問題はない。」と事も無げに語るのが常だ。


スペンスがどれだけ早くフィジカル勝負に持ち込むことができるかどうか。勝敗を分ける最大のポイントは、その一点に絞られる。

中間距離を細かく出はいりしながらのボクシング勝負になったら、錚々以上の差を付けてクロフォードの手が挙がりそう。

丁寧にジャブを突いてクロフォードに付け入る隙を与えない。そんなスペンスを見てみたい気もするが、「まあ無理だろうな・・・」とすぐに打ち消す自分がいる。ボクシングの質は、クロフォードの方がかなり上等・・・それが偽らざる実感。

「(男子)史上初の2階級・4団体統一」の快挙は、クロフォードが持って行きそうな気配が漂う。

前半戦の間にゴリゴリの体力勝負に持ち込めたら、スペンスがそのまま押し切る格好で終盤のTKOもあるけれど・・・。


◎スペンス(33歳)/前日計量:147ポンド
IBF(V6),WBC(V4),WBA(V0)統一王者
戦績:28戦全勝(22KO)
世界戦:7戦全勝(4KO)
アマ通算:135勝12敗
2012年ロンドン五輪代表(ベスト8敗退)
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)代表(3回戦敗退)
2009年世界選手権(ミラノ)初戦敗退
2011年ワールドカップ(スルグト/ロシア)
2011年ロンドン五輪米国最終予選優勝
2011年全米選手権優勝
2009年全米選手権優勝
2010年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2009年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2008年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)ベスト8敗退
2008年U-19全米選手権優勝
※階級:ウェルター級
身長:177センチ,リーチ:183センチ
左ボクサーファイター



◎クロフォード(35歳)/前日計量:146.75ポンド
戦績:39戦全勝(30KO)
アマ通算:58勝12敗
2007年全米選手権3位
2006年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝
2006年全米選手権3位
2006年ナショナルPAL優勝
※階級:ライト級

□世界戦通算:17戦全勝(13KO)
<1>WBOライト級王座:V2/2014年3月~11月(返上)
<2>WBO J・ウェルター級王座:V6/2015年4月~2018年*月(返上)
<3>WBC S・ライト級王座:V3/2016年7月~2018年*月(返上)
※2団体統一
<4>WBA・IBF王座:V0/2017年8月~2018年*月(IBF:2017年8月返上/WBO:2017年10月返上)
※4団体統一
<5>WBOウェルター級王座:V7/2018年6月~在位中
身長:173センチ,リーチ:188センチ
左右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎前日計量


※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=KzJOanXdPVk


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■リング・オフィシャル:未発表


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■All Access(Showtime)

<1>Full Episode 1
https://www.youtube.com/watch?v=w4JkMZtv8yA

<2>Full Episode 2
https://www.youtube.com/watch?v=YZraLPTMgoA


ドネアが3度目の載冠へ /小兵のメキシカンは叩き上げの兵(つわもの) - ドネア vs サンティアゴ ショートプレビュー -

カテゴリ:
■7月29日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/WBC世界バンタム級王座決定12回戦
元5階級制覇王者/WBC1位 ノニト・ドネア(比) vs WBC3位 アレクサンドロ・サンティアゴ(メキシコ)





不惑の閃光がバンタム級で3度目の載冠へ。

充分に想定されたこととは言え、リアル・モンスター,井上尚弥との再戦で凄絶なKO負けを喫した後、実戦から遠ざかっていたドネアがリングに戻って来る。

当初は今月15日に米国内で開催の運びとなる予定だったが、幾つかのアンダーカードがまとまらず、開催地が正式に決まる前に日程を変更せざるを得なくなった。

もはやドネアの顔と名前だけでは、興行が成り立たない。アンダーカードにそれなりの面子が揃っていないと、Showtimeもバックアップを躊躇し二の足を踏む。これが王国アメリカの現実なのだ。


やはり、井上とのリマッチで失ったものは大きい。勿論、年齢の問題もある。さいたまスーパー・アリーナで行われた第1戦でリアル・モンスターに大きな爪跡を残し、ナルディーヌ・ウバーリと同胞のレイマート・ガバーリョを立て続けに4ラウンドで殲滅。

健在ぶりを強力にアピールした”フィリピンの閃光”だったが、黄昏時を迎えたキャリアに、いつ釣瓶落としの終幕が訪れても不思議はない。断崖絶壁に立たされている自覚は、他の誰よりもドネア自身が実(痛)感している筈だ。

だとしても、いや、だからこそ、三度び緑のベルトを巻くことには意味がある。WBA王座を獲得して、史上初となる「兄弟4団体統一」を公言した井上拓真とのマッチアップが当面の話題にはなるけれど、来月12日にIBF王座への復活を懸け、ニカラグァのファイター,メルヴィン・ロペスと対峙するエマニュエル・ロドリゲス、5月13日に一足速くWBOの王座に就いたジェイソン・モロニーらとの統一戦が実現に向かう可能性も出て来る。


「モンスターに蹴散らされた連中の統一戦?」

そんな口さがないコメントが飛び出しそうでいささか怖くもあるが、ファンの関心を惹く興行はGO。テーマは何だって構わない。4団体統一がトレンドになっている今だからこそ、やっておく価値がある。

万が一(失礼!)にも、40歳のドネアが118ポンドを総ざらいした場合、不遇を囲い続けたリゴンドウとの”老いらくのリマッチ”が陽の目を見ないとも限らない。何が起こるかわからない、何が起きても結果オーライ。それが興行の常なのだから・・・。


◎CAMP KUMBATI: Nonito Donaire vs Alexandro Santiago | ep.1 | Full Episode



さて、肝心要のオポーネントである。WBC3位にランクされるサンティアゴは、公称159センチ(!)の小兵選手。ボクサーが高齢化した今日、27歳は十二分に若いと言える年齢だが、プロキャリアは既に11年。

14歳で初陣を戦ったカネロ・アルバレスの例を引くまでもなく、コミッションが脆弱なメキシコはライセンスの管理徹底が積年の課題とされていて、中学生の年代でプロになる選手が散見される。

サンティアゴがデビューしたのは2012年の暮れ。生まれ故郷ティファナ(カリフォルニア州と隣接するバハ・カリフォルニア州最大の都市)近郊のロサリトという海岸沿いの街にある小さな会場で、4回戦からスタートした正真正銘の叩き上げ。

3度の敗北と5つの引き分けを含む戦績に、一筋縄ではいかないこれまでの苦労が滲む。16歳のサンティアゴは、108ポンドのL・フライ級で初勝利を挙げると、2戦目で105ポンドのミニマム級に落とした後、3戦目から7戦目までの5試合を112ポンドのフライ級で戦い、17歳になった2013年の秋以降、主戦場と表するべき115ポンドに参戦した。


転級後も2度フライ級でリングに上がっているが、この2試合でプロ初黒星と2度目の敗北を喫している(6回戦/いずれも判定負け)。そこから3連勝(うち2つが8回戦/すべて判定)をマークして、井上尚弥に蹂躙される目前(1年前)、まだ無敗レコードを維持していたアントニオ・ニエヴェスの対戦相手に抜擢され初渡米(2016年8月/N.Y.州ロチェスター)。

自身初となる10回戦でニエヴェスに大善戦。10ラウンズをスプリット・ドローに持ち込み、キャリアを切り拓くきっかけを掴む。

ニエヴェス戦後に7戦して5勝(4KO)2分けの星を残し、ジェルウィン・アンカハス(比)への挑戦が実現(2018年9月/カリフォルニア州オークランド)するのだが、7戦の中にはバンタム級とS・バンタム級での調整が4試合含まれている。


求められれば戦う階級は厭わない。無理を承知で体重を増減させ、生活の糧を得ながら自らの商品価値を少しづつ上げて行く。膨大な数の無名選手たちが、いつお呼びがかかってもいいように準備をして、スクランブル発進の要請を待つ。

限られたチャンスを最大限に活かして、有力なマネージャーやプロモーターの目に止まる。それが出来て初めて、過酷な環境を生き残る資格を得る。

「男はタフでなければ生きて行けない。」

昭和に流れたコマーシャルの中にそんなセリフがあったと記憶するが、確かなディフェンステクニックを身に付け、若手のホープやトシを取った元王者たちに白星を配給しながら、休み無くリングに上がって、1つ1つは小さな金額でも、数をまとめて着実に稼ぎ続ける道もある。


どんなに急で無理を強いるオファーにも文句を言わず、タフで使い減りのしない中堅アンダードッグは、プロモーターとマッチメイカーにとって欠かすことのできない存在と言っていい。

そうした男たちの中から、下降線に入りかけたビッグネームに一泡吹かせて、一攫千金の大舞台に立つ猛者が現れたりする。それもまたボクシングの面白さであり、大きな魅力でもある。

アンカハスと12ラウンズを渡り合ったサンティアゴは、メキシコ国内のローカル・ファイトで7連勝(6KO)。パンデミックの渦中でも1年を越えるブランクを回避しつつ、バンタム級に定住。

元WBCフェザー級王者ゲイリー・ラッセル・Jr.の実弟で、118ポンドのプロスペクトとして注目を集めるゲイリー・アントニオ・ラッセル戦を射止めた(2021年11月)。


この試合でも白熱拮抗した好勝負に持ち込み、結果は僅差の0-2判定負け(95-95,94-96×2)だったが、サンティアゴを支持する声も少なからず聞こえるなど、評価を落とさずに済んでいる。


5ヶ月のスパンを開けてティファナで再起すると、昨年7月ドミニカまで遠征。ミゲル・コットとオスカー・デラ・ホーヤが一枚噛む興行で、日本のファンにもお馴染みのデヴィッド・カルモナと対戦(120ポンド契約)。

大差の3-0判定勝ちを収めてS・バンタム級のメキシコ国内王座を授与されると、10月にはアリゾナまで足を伸ばし、アントニオ・ニエヴェスとの6年越しの再戦(バンタム級契約)に7回終了TKO勝ち。

井上に敗れた後、イリノイの黒人ホープ,ジョシュア・グリーにも判定負けするなど、ニエヴェスもキャリアメイクに苦しむ中で応じたリマッチ。文字通り、双方にとって”負けられない戦い”となり、持ち前の突進力で待機型のニエヴェスを押し切り首尾良く雪辱。

これが直近の試合という訳で、我らが井上尚弥のS・バンタム進出の思わぬ余波(?)が、サンティアゴを再び世界戦の檜舞台へと押し上げる。


◎サンティアゴのインタビュー



拙ブログで繰り返し触れてきた通り、Boxrecの身体データはアテにならないことが多い。誤登録が日常茶飯なのだが、映像や写真で確認できるサンティアゴは、本当に159センチなのかどうかは別にして確かに小さい。

ただし、メキシカンには珍しくない、お腹周りが緩んだ水膨れ(失礼)の増量ではなく、上半身は筋肉質で厚みがあり、逞しく引き締まっている。フィジカルも生まれつき強そうだが、本当に良く鍛えこまれている。

そして、このサイズで118~120ポンドの行き来を可能にする源は、屈強なフィジカルに加えて、素早く鋭い踏み込みと秀逸なハンドスピードを活かした突進力。

頭突き&体当たり上等とばかり、闇雲に突っ掛けるラフ&タフではなく、遠めの距離から一瞬で飛び込む速さと思い切りの良さは、タイミングと間合いを読むセンスと駆け引きに裏付けされている。

真っ向勝負ではあるが、しっかりした攻防の技術とインサイドワークを兼ね備えていて、小気味がいいボクシング。あともう少しだけパンチング・パワーに恵まれていたら、アンカハスを攻略できていたのではないか。

唯一最大の気がかりは、言わずもがなのPED。メキシカンの増量(筋肉質で馬力のある豆タンク型は尚の事)と聞くと、ついつい牛肉を言い訳にしたステロイド使用を疑いたくなってしまう。サンティアゴがクリーンであることを願うのみ。


次は、お約束(?)のオッズ。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>betway
ドネア:-154(約1.65倍)
A・サンティアゴ:+130(2.3倍)

<2>Bet365
ドネア:-165(約1.61倍)
A・サンティアゴ:+125(2.25倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ドネア:8/13(約1.62倍)
A・サンティアゴ:13/10(2.3倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
ドネア:1/2(1.5倍)
A・サンティアゴ:6/4(2.5倍)
ドロー:14/1(15倍)

身銭を切って賭ける人たちは、やはり良く見ている。接近した数字は、そのまま「サンティアゴ侮るべからず」との警告を、ドネアに対して発していると見ていい。

ウバーリ&ガバーリョ戦と同じく、ドネアがいい意味で三度び裏切ってくれるのではないかと予見しつつ、無名の若者が問答無用の下克上で老雄を介錯する醍醐味も悪くないと、思わずそんな誘惑にもかられる。

これもまた、救いようのない哀れむべきマニアの性。これだから、ボクシング観戦は止められない。


◎ドネア(40歳)/前日計量:117.25ポンド
5階級制覇王者/戦績:47戦42勝(28KO)7敗
現WBCバンタム級王者(V1).元IBFフライ級(V3),元WBA S・フライ級暫定(V1),元WBC・WBO統一バンタム級(V1),元WBO J・フェザー(第1期:V3/第2期:V1),元WBAフェザー級スーパー(V0)王者
戦績:48戦42勝(28KO)6敗
アマ通算:68勝8敗(2000年シドニー五輪代表候補)
2000年全米選手権優勝
1999年インターナショナル・ジュニア・オリンピック(メキシコシティ)金メダル
1999年ナショナル・ゴールデン・グローブス ベスト8
※階級:L・フライ級
身長:170.2センチ,リーチ:174センチ
※第1戦の予備検診データ
右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)


◎サンティアゴ(27歳)/前日計量:117.5ポンド
戦績:35戦27勝(14KO)3敗5分け
身長:159センチ,リーチ:166センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎前日計量



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■リング・オフィシャル:未発表

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