ブラウニーの豪打復活に期待 / - S・マティアス vs L・パロ ショート・プレビュー I -
- カテゴリ:
- Preview
■6月15日/コリセオ・ファン・アルヴィン・クルス・アウレウ,マナティ(プエルトリコ)/IBF世界J・ウェルター級タイトルマッチ12回戦
王者 スブリエル・マティアス(プエルトリコ) vs IBF5位 リアム・パロ(豪)
王者 スブリエル・マティアス(プエルトリコ) vs IBF5位 リアム・パロ(豪)
プロ20勝1敗。勝利の総てをノックアウトで締め括り、”マテルニーリョの誇り(El Orgullo de Maternillo/マテルニーリョ:生まれ育った街=地域の名称)”が、およそ5年ぶりとなる凱旋興行。
カリブ海沿岸と言うより、もはや大西洋岸と表した方が相応しい生誕の地ファハルドではなく、首都サンファンを挟んで反対方向にあるマナティ(リゾート型のカジノ・シティ)での開催だが、試合会場は8千人収容の立派な屋内施設で、バスケットボールやバレーボール等の人気競技だけでなく、UFCを含めた格闘技イベントを積極的に誘致している。
アップライトに構えた痩躯にスラリと伸びた脚。リーチにも恵まれたボクサータイプの外見とは裏腹に、危険なクロスレンジで相手の真正面に立ち、ジャブもそこそこに、左右の強打をインサイドから打ち込む。
ブロック&カバー主体のディフェンスは堅牢とは言い難く、カザフの剛拳レフティ,バティール・ジュケンバイェフ(ユケンバイェフ)戦に象徴される、打ちつ打たれつの白兵戦を耐え続ける展開も少なくない。
12歳からボクシングを始めて、アマで100戦以上(あくまで自己申告)をこなしているだけあって、脱力した状態からショートで強打する技術に優れ、ベーシックなボディ&ステップワーク(スピード&細かな変化)に不足はなく、ジャブも上手いし反応も悪くないのに、想像以上に打たせ(れ)てしまう。
避けようとする気が薄い,と言い換えるべきなのかもしれないが、打ち合いから退こうとしない。「1発当たれば倒れる。それでOK」とでも言いたげに、何の迷いも無く真っ直ぐ距離を詰めて行く。
これだけの攻撃力があれば「そりゃそうなるよな」と半ば諦めつつ、不要な被弾で余計なダメージを負うのが気がかり。パンチング・パワーへの自信は、過信と表裏一体の紙一重。
マティアス自身がアイドルに挙げるミゲル・コット(140ポンド時代)と壮絶な打撃戦を繰り広げ、一度はKO寸前まで追い込みながら敗れたリカルド・トーレス(コロンビア)と同じく、激闘が祟って急速に疲弊するのではないかと危惧する。
2度の世界戦を含む直近の5試合を、すべて相手の試合放棄によるTKO勝ち。”ノー・マス・チェンコ(No Mas chenko)”と呼ばれた最盛期のロマチェンコを超える快記録と讃えたいところではあるが、”ノー・マス・マティ(No Mas Mati)”とは正直呼びづらい。
プロ・アマを通じてP4PのNo.1と称され、映画「マトリクス」になぞらえられた変幻自在なムーヴと、間断なく流れるように放ち続けるコンビネーションを武器に、文字通りの完封を立て続けにやってのけた”ハイ・テク”ロマチェンコに対して、ダメージを厭わずタフ・ファイトに真正面からのめり込むマティアス。
◎試合映像:直近5試合
<1>マティアス TKO6回終了 ショージャホン・エルガシェフ(ウズベキスタン)
2023年11月25日/ミケロブ・ウルトラ・アリーナ,ラスベガス
IBF世界J・ウェルター級王座V1
<2>マティアス TKO5回終了 ヘレミアス・N・ポンセ(亜)
2023年2月25日/アーモリー,ミネソタ州ミネアポリス
IBF世界J・ウェルター級王座獲得(決定戦)
<3>マティアス TKO9回終了 ペトロス・アナニアン(アルメニア)第2戦
2022年1月22日/ボルガータ・ホテル・カジノ&スパ,アトランティックシティ
141ポンド契約12回戦
<4>マティアス TKO8回終了 ジュケンバイェフ(カザフスタン)
2021年5月29日/ディグニティ・ヘルス・スポーツパーク,カリフォルニア州カーソン
IBF世界J・ウェルター級挑戦者決定12回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=yn9lFBFqlm4
<5>マティアス TKO6回終了 マリク・ホーキンス(米)
2020年10月24日/モヒガンサン・カジノ,コネチカット州アンキャンスビル
140ポンド契約10回戦
※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=qf7tBMZ2xB4
心身に負担の大きい我慢比べを、この先どこまで続けるられのか。アマの活動を終えた後、マッサージ師や庭師の仕事をしながら勉強を続けた為、プロのスタートが遅れた(23歳でデビュー)こともあり、既に年齢は32歳。
ド派手な連続KOで早くから期待されていたにも関わらず、想定外の躓き(※)の影響もあって、世界タイトルに辿り着くのに丸7年を要した(武漢ウィルス禍によるブランク込み)。
◎プロ初黒星:P・アナニアン 判定10R(3-0) マティアス第1戦
2020年2月22日/MGMグランド,ラスベガス(メイン:T・フューリー vs D・ワイルダー第2戦)
142ポンド契約10回戦
※フルファイト(削除の可能性有り)
https://www.youtube.com/watch?v=_ZmLRcr9jRk
2018年10月に実現したプロ初渡米(ニューオーリンズ/メインはWBSS140ポンドの初戦/R・プログレイス vs T・フラナガン,I・バランチュク vs A・イギ)、2019年11月の再渡米(メリーランド州オクソン・ヒル/メイン:テオフィモ vs 中谷)に続く3度目の王国アメリカ登場。
トップランク(ボブ・アラム)とPBC(トム・ブラウン)の共催で、セミ格ですらない完全な前座扱いとは言え、ESPN,FOXによる全国規模の中継にも含まれる。米本土での初陣(亜のベテラン元コンテンダーを初回KO葬)同様、鮮やかな即決勝負で勝ち名乗りとなれば、王国を代表する大手プロモーションとの複数年契約も夢ではない。
大いに張り切ったに違いないマティアスだったが、煩く手数を使うタフなアルメニア人にジャブ&手数で対抗したものの、容易にペースを手繰り寄せることができず、一進一退のままラウンドが長引いた。
しつこく食い下がるアナニアンに押し負け、ロープを背負う場面も目立つ。そして第7ラウンド、やはりロープ際の攻防で相打ちの左フックを効かされ、一瞬棒立ちになってロープ伝いに逃げたが、強烈な右フックを4発食らった後、返しの左フックを浴びて大きくたたらを踏むと、主審のロバート・バードがスタンディング・カウントを取る。
画面に集中するこちらはてっきりストップかと思ったが、危うくTKO負けを逃れて10ラウンズを乗り切るも、僅少差の0-3判定負け(94-95×2,93-96)。ダウンカウントが命取りになった。
武漢ウィルスの猛威もあり、8ヶ月の休息を挟んだマティアスは、PBCの興行に呼ばれて再起。ボルティモアからやって来た18連勝中(11KO)の黒人ホープ、マリク・ホーキンスを6回終了TKOに屠る。
復帰戦から7ヵ月後にジュケンバイェフとのエリミネーターが行われ、これを生き残ってアナニアンとのリマッチが決定すると、2015年のプロ入り以来コーナーを任せてきたフレディ・トリニダード(コットと並ぶ英雄フェリックス・ティトの叔父)とのコンビを解消。”パンダ”の愛称で知られるジェイ・ナハールと新しいチームを結成した。
前回の失敗に学んだ(?)マティアスは、遠めのミドルレンジをベースにジャブを上下に突き、接近戦に長く付き合わない。また、ロープを背負ってもカバーリングのガードを保持しつつ、丁寧なボディワークで無駄な被弾を回避。できるだけ速やかにリング中央に戻る。
マティアスのジャブは効果的で、密着したいアナニアン(リーチが短い)はなかなか自分の距離と展開に持ち込むことができず、ビッグショット狙いで粗くなったところを、パワーセーブしたマティアスのコンビネーションで上下を万遍なく攻められ消耗。
第3ラウンドにペースアップを仕掛けて密着戦に応じたが、頭を良く振って強引な強振を慎み、適時距離を取り直してはタイミングに注力した左右を的確にヒット。焦らず急がず堅調にラウンドをまとめて行く。
ワンサイドに試合を進めたマティアスは、第9ラウンドに手数をまとめてさらにアナニアンを削り、痛烈な左フックで決定的なダウンを奪う。すぐにストップしてもいいぐらいのダメージだった。
驚異的なタフネスでカウントアウトを免れたアナニアンだが、第10ラウンドの開始を待たずにコーナーがギブアップ。
◎ファイナル・プレス・カンファレンス
※ファイナル・プレッサー(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=kgp_epW4p_M
「この戦い方なら、安定政権が望めるかも・・・」
過酷な防衛ロードに明るい希望の光が射したと喜んだのも束の間、堅く守りながらコツコツ削って行くのは性に合わないのか、ヘレミアス・ポンセとのエリミネーターでガチガチのぶつかり合いが復活。互いに1歩も退かず激しく打ち合い、五分五分の展開となった第5ラウンド。
頭を付けた状態で、肩の力を抜いたショートを続けるマティアス。ロープに詰められても余裕を失わず、アッパーをアクセントにした小さなコンビネーションを堅持。勝負の趨勢を決めかねない重要な局面で、パンダ・ナハールと取り組んだマイナー・チェンジが活きる。
ラウンド終了間際、一気にギアを上げてパワーアップした連打を回転させると、懸命に耐えていたポンセがたまらずダウン。エイト・カウントを凌いで残り時間の少なさに救われるも、第6ラウンドに備えたインターバル中に白旗を上げた。
遠回りを強いられることになったアナニアンとの第1戦以降、ギブアップのTKOを続けた米国内での5試合をPBCのリングで戦ったマティアスは、トップランクからテオフィモ・ロペスとの統一戦を150万ドルでオファーされる。
当然1試合だけのスポットとは行かず、4試合の複数年契約。なおかつアラムは、テオフィモ戦の実現について確約を避けたという。テオフィモをメインにした相乗り興行を2つほどやって、どんな塩梅かテストしたかったのだろうが、これがマティアスとパンダ・ナハールの癇に障った。
そこへすかさずエディ・ハーンが割って入り、5試合の長期オファー。4試合を順調に勝ち続ければ、デヴィン・ヘイニーとの統一戦を組む。しかもヘイニー戦が正式に決まった場合、ハーンは400万ドルの保障を申し出たらしい。
◎ハーンが提示したとされる5試合(推定)
(1)リアム・パロ
(2)リチャードソン・ヒッチンズ
(3)レジス・プログレイス
(4)ジャック・カテラル
(5)ヴィン・ヘイニー
アル・ヘイモンの支配下にいたまま、140ポンドで戦い続けたとしても、ビッグマネー・ファイトの可能性があるとすれば、唯一ジャーボンティ・ディヴィスの本格参戦のみ。丁度3年前の2021年6月末、マリオ・バリオスを11回TKOに下してS・ライト級のWBAレギュラー王座を獲得したタンクは、ライト級に出戻りして連勝を継続。
4月にライアン・ガルシアを粉砕して、いよいよフランク・マーティン(18連勝12KO)との無敗対決に臨む。シャクール(WBC)とロマチェンコ(IBF)は、言わずと知れたトップランク傘下だけに、交渉はガルシア戦以上の難航が予想される。
タンクがマーティンを破ったあかつきには、マティアスのIBF王座を懸けて・・・との目論みも無くはない。ただし、テオフィモ戦のオファーに心が動いたのは、タンク・ディヴィス戦も容易に具体化しそうにないという判断に違いない。
140ポンドのタレントを多く抱えているのはマッチルームであり、エディ・ハーンに仕切りを任せた方が、テオフィモ(トップランク)との交渉もスムーズに進む。マッチルームとの長期契約を選択したのは、当然の成り行きだったとも言える。
カザフとウズベクの実力者を連破し、その間にアルメニアのタフ・ガイに雪辱を果たした実績は大きい。がしかし、際どい接戦が続いているのも事実。安全パイと目される豪州のニュー・フェイスに油断せず、暫くぶりの豪打一閃に期待を。
※Part 2へ
◎マティアス(32歳)/前日計量:140ポンド
戦績:21戦20勝(20KO)1敗
アマ戦績:100戦80勝(推計)
※正確な勝敗,タイトル歴等不明
身長:175(173)センチ,リーチ:180センチ
※身長:PBC公表/()内はBoxrec記載
右ボクサーパンチャー
◎パロ(28歳)/前日計量:140ポンド
戦績:24戦全勝(15KO)
身長:174センチ,リーチ:180センチ
左ボクサーファイター
◎前日計量
※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=Tw7PeAsz0SY
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
■リング・オフィシャル:未発表