ブラウニーの豪打復活に期待 / - S・マティアス vs L・パロ ショート・プレビュー I -

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■6月15日/コリセオ・ファン・アルヴィン・クルス・アウレウ,マナティ(プエルトリコ)/IBF世界J・ウェルター級タイトルマッチ12回戦
王者 スブリエル・マティアス(プエルトリコ) vs IBF5位 リアム・パロ(豪)



プロ20勝1敗。勝利の総てをノックアウトで締め括り、”マテルニーリョの誇り(El Orgullo de Maternillo/マテルニーリョ:生まれ育った街=地域の名称)”が、およそ5年ぶりとなる凱旋興行。

カリブ海沿岸と言うより、もはや大西洋岸と表した方が相応しい生誕の地ファハルドではなく、首都サンファンを挟んで反対方向にあるマナティ(リゾート型のカジノ・シティ)での開催だが、試合会場は8千人収容の立派な屋内施設で、バスケットボールやバレーボール等の人気競技だけでなく、UFCを含めた格闘技イベントを積極的に誘致している。

アップライトに構えた痩躯にスラリと伸びた脚。リーチにも恵まれたボクサータイプの外見とは裏腹に、危険なクロスレンジで相手の真正面に立ち、ジャブもそこそこに、左右の強打をインサイドから打ち込む。

ブロック&カバー主体のディフェンスは堅牢とは言い難く、カザフの剛拳レフティ,バティール・ジュケンバイェフ(ユケンバイェフ)戦に象徴される、打ちつ打たれつの白兵戦を耐え続ける展開も少なくない。


12歳からボクシングを始めて、アマで100戦以上(あくまで自己申告)をこなしているだけあって、脱力した状態からショートで強打する技術に優れ、ベーシックなボディ&ステップワーク(スピード&細かな変化)に不足はなく、ジャブも上手いし反応も悪くないのに、想像以上に打たせ(れ)てしまう。

避けようとする気が薄い,と言い換えるべきなのかもしれないが、打ち合いから退こうとしない。「1発当たれば倒れる。それでOK」とでも言いたげに、何の迷いも無く真っ直ぐ距離を詰めて行く。

これだけの攻撃力があれば「そりゃそうなるよな」と半ば諦めつつ、不要な被弾で余計なダメージを負うのが気がかり。パンチング・パワーへの自信は、過信と表裏一体の紙一重。

マティアス自身がアイドルに挙げるミゲル・コット(140ポンド時代)と壮絶な打撃戦を繰り広げ、一度はKO寸前まで追い込みながら敗れたリカルド・トーレス(コロンビア)と同じく、激闘が祟って急速に疲弊するのではないかと危惧する。


2度の世界戦を含む直近の5試合を、すべて相手の試合放棄によるTKO勝ち。”ノー・マス・チェンコ(No Mas chenko)”と呼ばれた最盛期のロマチェンコを超える快記録と讃えたいところではあるが、”ノー・マス・マティ(No Mas Mati)”とは正直呼びづらい。

プロ・アマを通じてP4PのNo.1と称され、映画「マトリクス」になぞらえられた変幻自在なムーヴと、間断なく流れるように放ち続けるコンビネーションを武器に、文字通りの完封を立て続けにやってのけた”ハイ・テク”ロマチェンコに対して、ダメージを厭わずタフ・ファイトに真正面からのめり込むマティアス。

◎試合映像:直近5試合
<1>マティアス TKO6回終了 ショージャホン・エルガシェフ(ウズベキスタン)
2023年11月25日/ミケロブ・ウルトラ・アリーナ,ラスベガス
IBF世界J・ウェルター級王座V1


<2>マティアス TKO5回終了 ヘレミアス・N・ポンセ(亜)
2023年2月25日/アーモリー,ミネソタ州ミネアポリス
IBF世界J・ウェルター級王座獲得(決定戦)


<3>マティアス TKO9回終了 ペトロス・アナニアン(アルメニア)第2戦
2022年1月22日/ボルガータ・ホテル・カジノ&スパ,アトランティックシティ
141ポンド契約12回戦


<4>マティアス TKO8回終了 ジュケンバイェフ(カザフスタン)
2021年5月29日/ディグニティ・ヘルス・スポーツパーク,カリフォルニア州カーソン
IBF世界J・ウェルター級挑戦者決定12回戦

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=yn9lFBFqlm4

<5>マティアス TKO6回終了 マリク・ホーキンス(米)
2020年10月24日/モヒガンサン・カジノ,コネチカット州アンキャンスビル
140ポンド契約10回戦

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=qf7tBMZ2xB4


心身に負担の大きい我慢比べを、この先どこまで続けるられのか。アマの活動を終えた後、マッサージ師や庭師の仕事をしながら勉強を続けた為、プロのスタートが遅れた(23歳でデビュー)こともあり、既に年齢は32歳。

ド派手な連続KOで早くから期待されていたにも関わらず、想定外の躓き(※)の影響もあって、世界タイトルに辿り着くのに丸7年を要した(武漢ウィルス禍によるブランク込み)。

◎プロ初黒星:P・アナニアン 判定10R(3-0) マティアス第1戦
2020年2月22日/MGMグランド,ラスベガス(メイン:T・フューリー vs D・ワイルダー第2戦)
142ポンド契約10回戦

※フルファイト(削除の可能性有り)
https://www.youtube.com/watch?v=_ZmLRcr9jRk


2018年10月に実現したプロ初渡米(ニューオーリンズ/メインはWBSS140ポンドの初戦/R・プログレイス vs T・フラナガン,I・バランチュク vs A・イギ)、2019年11月の再渡米(メリーランド州オクソン・ヒル/メイン:テオフィモ vs 中谷)に続く3度目の王国アメリカ登場。

トップランク(ボブ・アラム)とPBC(トム・ブラウン)の共催で、セミ格ですらない完全な前座扱いとは言え、ESPN,FOXによる全国規模の中継にも含まれる。米本土での初陣(亜のベテラン元コンテンダーを初回KO葬)同様、鮮やかな即決勝負で勝ち名乗りとなれば、王国を代表する大手プロモーションとの複数年契約も夢ではない。

大いに張り切ったに違いないマティアスだったが、煩く手数を使うタフなアルメニア人にジャブ&手数で対抗したものの、容易にペースを手繰り寄せることができず、一進一退のままラウンドが長引いた。

しつこく食い下がるアナニアンに押し負け、ロープを背負う場面も目立つ。そして第7ラウンド、やはりロープ際の攻防で相打ちの左フックを効かされ、一瞬棒立ちになってロープ伝いに逃げたが、強烈な右フックを4発食らった後、返しの左フックを浴びて大きくたたらを踏むと、主審のロバート・バードがスタンディング・カウントを取る。

画面に集中するこちらはてっきりストップかと思ったが、危うくTKO負けを逃れて10ラウンズを乗り切るも、僅少差の0-3判定負け(94-95×2,93-96)。ダウンカウントが命取りになった。


武漢ウィルスの猛威もあり、8ヶ月の休息を挟んだマティアスは、PBCの興行に呼ばれて再起。ボルティモアからやって来た18連勝中(11KO)の黒人ホープ、マリク・ホーキンスを6回終了TKOに屠る。

復帰戦から7ヵ月後にジュケンバイェフとのエリミネーターが行われ、これを生き残ってアナニアンとのリマッチが決定すると、2015年のプロ入り以来コーナーを任せてきたフレディ・トリニダード(コットと並ぶ英雄フェリックス・ティトの叔父)とのコンビを解消。”パンダ”の愛称で知られるジェイ・ナハールと新しいチームを結成した。

前回の失敗に学んだ(?)マティアスは、遠めのミドルレンジをベースにジャブを上下に突き、接近戦に長く付き合わない。また、ロープを背負ってもカバーリングのガードを保持しつつ、丁寧なボディワークで無駄な被弾を回避。できるだけ速やかにリング中央に戻る。


マティアスのジャブは効果的で、密着したいアナニアン(リーチが短い)はなかなか自分の距離と展開に持ち込むことができず、ビッグショット狙いで粗くなったところを、パワーセーブしたマティアスのコンビネーションで上下を万遍なく攻められ消耗。

第3ラウンドにペースアップを仕掛けて密着戦に応じたが、頭を良く振って強引な強振を慎み、適時距離を取り直してはタイミングに注力した左右を的確にヒット。焦らず急がず堅調にラウンドをまとめて行く。

ワンサイドに試合を進めたマティアスは、第9ラウンドに手数をまとめてさらにアナニアンを削り、痛烈な左フックで決定的なダウンを奪う。すぐにストップしてもいいぐらいのダメージだった。

驚異的なタフネスでカウントアウトを免れたアナニアンだが、第10ラウンドの開始を待たずにコーナーがギブアップ。

◎ファイナル・プレス・カンファレンス

※ファイナル・プレッサー(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=kgp_epW4p_M


「この戦い方なら、安定政権が望めるかも・・・」

過酷な防衛ロードに明るい希望の光が射したと喜んだのも束の間、堅く守りながらコツコツ削って行くのは性に合わないのか、ヘレミアス・ポンセとのエリミネーターでガチガチのぶつかり合いが復活。互いに1歩も退かず激しく打ち合い、五分五分の展開となった第5ラウンド。

頭を付けた状態で、肩の力を抜いたショートを続けるマティアス。ロープに詰められても余裕を失わず、アッパーをアクセントにした小さなコンビネーションを堅持。勝負の趨勢を決めかねない重要な局面で、パンダ・ナハールと取り組んだマイナー・チェンジが活きる。

ラウンド終了間際、一気にギアを上げてパワーアップした連打を回転させると、懸命に耐えていたポンセがたまらずダウン。エイト・カウントを凌いで残り時間の少なさに救われるも、第6ラウンドに備えたインターバル中に白旗を上げた。


遠回りを強いられることになったアナニアンとの第1戦以降、ギブアップのTKOを続けた米国内での5試合をPBCのリングで戦ったマティアスは、トップランクからテオフィモ・ロペスとの統一戦を150万ドルでオファーされる。

当然1試合だけのスポットとは行かず、4試合の複数年契約。なおかつアラムは、テオフィモ戦の実現について確約を避けたという。テオフィモをメインにした相乗り興行を2つほどやって、どんな塩梅かテストしたかったのだろうが、これがマティアスとパンダ・ナハールの癇に障った。

そこへすかさずエディ・ハーンが割って入り、5試合の長期オファー。4試合を順調に勝ち続ければ、デヴィン・ヘイニーとの統一戦を組む。しかもヘイニー戦が正式に決まった場合、ハーンは400万ドルの保障を申し出たらしい。

◎ハーンが提示したとされる5試合(推定)
(1)リアム・パロ
(2)リチャードソン・ヒッチンズ
(3)レジス・プログレイス
(4)ジャック・カテラル
(5)ヴィン・ヘイニー


アル・ヘイモンの支配下にいたまま、140ポンドで戦い続けたとしても、ビッグマネー・ファイトの可能性があるとすれば、唯一ジャーボンティ・ディヴィスの本格参戦のみ。丁度3年前の2021年6月末、マリオ・バリオスを11回TKOに下してS・ライト級のWBAレギュラー王座を獲得したタンクは、ライト級に出戻りして連勝を継続。

4月にライアン・ガルシアを粉砕して、いよいよフランク・マーティン(18連勝12KO)との無敗対決に臨む。シャクール(WBC)とロマチェンコ(IBF)は、言わずと知れたトップランク傘下だけに、交渉はガルシア戦以上の難航が予想される。

タンクがマーティンを破ったあかつきには、マティアスのIBF王座を懸けて・・・との目論みも無くはない。ただし、テオフィモ戦のオファーに心が動いたのは、タンク・ディヴィス戦も容易に具体化しそうにないという判断に違いない。

140ポンドのタレントを多く抱えているのはマッチルームであり、エディ・ハーンに仕切りを任せた方が、テオフィモ(トップランク)との交渉もスムーズに進む。マッチルームとの長期契約を選択したのは、当然の成り行きだったとも言える。


カザフとウズベクの実力者を連破し、その間にアルメニアのタフ・ガイに雪辱を果たした実績は大きい。がしかし、際どい接戦が続いているのも事実。安全パイと目される豪州のニュー・フェイスに油断せず、暫くぶりの豪打一閃に期待を。


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◎マティアス(32歳)/前日計量:140ポンド
戦績:21戦20勝(20KO)1敗
アマ戦績:100戦80勝(推計)
※正確な勝敗,タイトル歴等不明
身長:175(173)センチ,リーチ:180センチ
※身長:PBC公表/()内はBoxrec記載
右ボクサーパンチャー

◎パロ(28歳)/前日計量:140ポンド
戦績:24戦全勝(15KO)
身長:174センチ,リーチ:180センチ
左ボクサーファイター


◎前日計量


※前日計量(フル映像)
https://www.youtube.com/watch?v=Tw7PeAsz0SY


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■リング・オフィシャル:未発表



モンスターの好敵手(?)敗れる /火の玉小僧が悲願の王座奪取 - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 レビュー I - 4 -

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<2>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
WBA8位 ニック・ボール(英) 判定12R(2-1) 王者 レイモンド・フォード(米)

■再戦への希望を明らかにしたフォード,しかし階級はS・フェザーで・・・

このままずっと黙っているのかと思ったが、自らの公式X(旧Twitter)でリマッチへの希望を述べた。ただし、ウェイトは130ポンド。すぐにどうのこうのという話ではなく、今後機会があればということ。

「彼(ボール)が130に上がって来れば、当然再戦を求める。」

「126ポンドに留まることはない。自殺行為だ。」



また「Boxing News 24/7」に、次のような記事がアップされている。

◎Raymond Ford Wants Rematch With Nick Ball At 130
2024年6月3日/ウィル・アロンズ(Will Arons)
https://www.boxing247.com/boxing-news/raymond-ford-wants-rematch-with-nick-ball-at-130/279005

記事の中でフォードのインタビュー動画について触れ、発言のソースとして紹介していた。

◎Raymond Ford Reveals He Needs to Move Ip in Weight Class
2024年6月3日/Millcity Boxing Podcast(ミルシティ・ボクシング・ポッドキャスト)


「ポイントは気にしていなかった。ストップするつもりだったから。試合の途中、ある時点から、頭の中にはそれしかなかった。」

「ただ、ストップはそもそものファイトプランではなく、いいパンチを貰ってカっとなってしまった。でも、彼は僕が考えていたより上手くトリッキーだった。」

「ベスト・パフォーマンスではなかったと思うが、だとしても僕がNo.1だという自負と自信は失っていない。」


やはり、危険な距離での打ち合いに時間を使ったのはフォードの独断で、事前に練っていた作戦ではなかったのである。序盤の被弾(カバーリングはしていたが)をきっかけに熱くなり、冷静に戦況を俯瞰することができず、挑戦者が望む展開に自らハマり込んでしまった。

止むを得ない状況(減量の影響で普段通り動けない)ではあったにせよ、試合直後のインタビューで語っていた、「もっとコーナーの言うことに耳を傾けていれば・・・」は、率直な本音でもあるのだろう。


倒して勝つことへのこだわり、ボクサーパンチャーへの志向が強く、格下のアンダードッグには問題なく通用するが、一定の経験を積んだローカルランクの上位クラスになると、当たり前だがそう簡単に倒れてはくれない。

ベーシックなボディワークも使えない筈はないけれど、倒すことへの意識が勝ち過ぎて、ディフェンスに隙が生じ易く、とりわけハイリスクなクロスレンジでパンチの交換が始まると、打ち終わりの処理が甘くなって余計な被弾が増す。

2-1の判定(98-92,97-93,94-96)で辛くも黒星を免れたエドワルド・バスケス戦(12戦目)は、モンテカルロでジョー・コルディナ(英)を追い詰めたバスケスのインファイトに苦戦。公称のタッパはフォードと同じ170センチだが、敢えて深めの前傾姿勢を取り、下から強振を繰り返すバスケスに圧力負けして、ロープを背負う場面が目立った。


プロの修行に一区切りを着けるつもりの9戦目、三者三様のスプリット・ドロー(77-75,74-78,76-76)を分け合ったアーロン・ペレス戦も、165センチの好戦的なファイターに押し込まれて後手を踏んだ。

ジャブを多用して距離のキープに努め、頻繁にポジション・チェンジを繰り返しながら、スピードで翻弄する策もあると思うのだが、わざわざ面倒な展開を選んで見映えを悪くする。

IBFの地域タイトルを獲ったリカルド・メディナ戦(大差3-0判定勝ち/13戦目)なども含めて、「インファイトが下手(失礼)」,「イケイケのプレス・スタイルが苦手」という業界内の評価は、既に定着していると見ていいのでは。

◎試合映像(ハイライト)
<1>フォード UD10R リカルド・メディナ(米)
2022年6月25日/テキサス州サンアントニオ
https://www.youtube.com/watch?v=gzHu7kyzUw0

<2>フォード SD10R エドワルド・バスケス(米)
2022年6月25日/アリゾナ州フェニックス
https://www.youtube.com/watch?v=cloIfBU7E0E

<3>フォード SD8R(ドロー) アーロン・ペレス(米)
2021年3月/テキサス州ダラス
https://www.youtube.com/watch?v=TsWZL49pGBk

ニック・ボールと彼の陣営にも、バスケスとペレスの勇敢かつなファイトが大いに参考になったに違いない。


戦績が示すように、生粋のKOパンチャーではない。アマチュア時代の試合やスパーリング映像を見ると、ノーガードで挑発しながら前後左右に素早く動き、打ち気を誘って軽いパンチを当てに行くタッチスタイルもお手のもの。

プロに入ってからは、スタンスを広めに取って、踏ん張りながら強打を打ち込むパンチャースタイルを基本に、適時スタンスをせばめて前後左右に動くボックスを使い分けるようになった。

上述したスタンスとスタイル・チェンジの問題ゆえに、どうしても攻防分離にならざるを得ず、シームレスな切り替えが難しい。押しの強いファイターを相手にすると、ロープを背負わされたまま防戦に回る時間が長くなり、相手のレベルが上がるにつれて難しい展開も増える。


事あるごとにS・フェザー級への増量を口にしてきたが、おそらくはライト~S・ライト級への色気もあるだろう。しかし、1発の破壊力に恵まれず、フィジカル・パワーはフェザー級でもトップレベルとは言い難い。

新チャンピオンのニック・ボールは、サイズの不利を克服する為「肉を切らせて骨を絶つ」を続けるしかなく、仮にベルトをすぐに失っても現役を続けると思うし、階級の変更(アップだけでなくダウンも)も厭わない筈だが、蓄積したダメージが肉体の限界を超えるタイミングが、想像以上に早く到来する場合も有り得る。

惜敗のフォードにも同種の危惧を抱く。減量苦が和らぐことで、耐久性も含めたパワーアップに寄与する可能性がゼロではないけれど、戦い方を変えないとさらに無駄な被弾が増えて、一層厳しい状況に追い込まれる確率が高そうだ。禁止薬物に手を出なければいいが・・・。


◎参考映像
<1>マーク・カストロ戦(2017年度全米選手権バンタム級決勝)
2017年12月9日/ソルトパレス・コンヴェンション・センター/ユタ州ソルトレイク・シティ
カストロ 3-2 フォード


カストロはカリフォルニア出身のメキシコ系。オーソドックスのボクサーファイターで、年齢はフォードより1歳若い。現在12連勝(8KO)中。2020年12月のプロデビュー時からS・フェザー級で戦っている。公称172センチの長身。リバウンドの効果を目一杯利用する為か、スピード&シャープネスが鈍化している印象。アマ時代に全国規模のトーナメントでフォードを2度破っており(ローカル・トーナメントを含めれば対戦の数が増える可能性有り)、130ポンドで再戦が組まれるかもしれない(同じエディ・ハーン傘下)。

<2>ホルマトフ戦に向けたトレーニング映像
Raymond Ford Training Camp
2024年2月29日アップロード


2つの映像を見ればお分かりいただけると思うが、ロス・サントス戦のシャクール・スティーブンソンや、テオフィモ戦のジャメイン・オルティズ並みに極端である必要はないけれど、「省エネ・安全策」のタッチ・スタイルが本領という気がしてならない。

「凡戦製造マシーンになれってか!?」

いや、けっしてそういう訳では・・・。


◎フォード(25歳)/前日計量:125.4ポンド
戦績:17戦15勝(8KO)1敗1分け
身長:170センチ,リーチ:175センチ
アマ戦績:50~60戦超(詳細不明)
2018年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝(バンタム級:56キロ)
2018年全米選手権2位(フェザー級:56.7キロ)
2017年全米選手権2位(バンタム級:56キロ)
2017年イースタン・エリート・クォリファイング・トーナメント2位(バンタム級:56キロ)
※Eastern Elite Qualifying Tournament:毎秋米国東部各地域のアマチュア王者クラスが参加する500~600名規模の大きな大会
好戦的な左ボクサーファイター

◎ボール(27歳)/前日計量:125.8ポンド
戦績:21戦20勝(11KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:165センチ
右ファイター


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■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)

立会人(スーパーバイザー):アルフレド・メンドサ(ベネズエラ/WBAフェデラテン副会長)
※WBAフェデラテン:WBA直轄の中南米地域王座認定機関(Latin American Professional Boxing Federation)

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「フォードと彼のチームは、同じ街で育った大先達,”カムデン・バズソー(Camden Buzzsaw)”に教えを請うべきだった。」

「カムデン・バズソー(カムデンの丸鋸/丸ノコ)」は、1980年代にL・ヘビー級(WBC)とクルーザー級(WBA)の2階級を制した元王者ドワイト・ムハマド・カウィのニックネーム。ジャーボンティ・ディヴィスと同じくメリーランド州ボルティモアの出身だが、幼くしてカムデンに移り住んだ。

175ポンドをマイケル・スピンクス(WBA王者/統一戦)に、そして190ポンド(200ポンドへのリミット上限引き上げは2004年以降)はイヴェンダー・ホリフィールドに譲り、1992年に引退(1997年に44歳でカムバックして2勝1敗/完全に引退)した攻撃的なオーソドックスである。

カウィもまた170センチを公称する小柄なファイターで、実際は166~167センチ前後だったという。身長に比してリーチが長く(公称180センチ)、深いクラウチングスタイルで低い上背をさらに低くし、上下左右に上体を振りながら豪快な左右を強振することから、スモーキン・ジョー・フレイジャーの再来と称されたり、勇敢なファイトを多くのファンに愛された。

◎試合映像:カウィ KO11R ピエット・クロース(南ア/ハイライト)
1985年7月27日/スーパー・ボウル,サンシティ(南ア)
WBAクルーザー級タイトル獲得(15回戦)


◎試合映像:カウィ TKO6R マシュー・サアド・ムハマド第2戦(ハイライト)
1982年8月7日/スペクトラム,フィラデルフィア
WBC L・ヘビー級王座V2(15回戦)



マイク・タイソンとともに、スモーキン・ジョーは強打の小型ヘビー級の代表格として語り継がれているが、2人とも身長は182センチ。腕も極端に短かったアイアン・マイクと違って、フレイジャーは190センチ近いリーチに恵まれている。

ホリフィールドに敗れた後、ヘビー級に上げたカウィがもしも3階級を獲っていたら、あのトミー・バーンズ(171センチ/20世紀初頭の最重量級を11回防衛/ジャック・ジョンソンに敗れて転落)を超える史上最小兵のヘビー級チャンプになっていた。

「小さなパワーファイターの攻略方法を一番良く知っているのは、小さなパワーファイター自身」

という訳で、20世紀のボクシングに詳しい筋金入りのファンは、昔懐かしいカウィを引き合いに出して、「研究が足りなかったのでは?」とツッコんだ。

モンスターの好敵手(?)敗れる /ラウンド・バイ・ラウンド - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 レビュー I - 3 -

カテゴリ:
<2>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
WBA8位 ニック・ボール(英) 判定12R(2-1) 王者 レイモンド・フォード(米)
◎試合映像(ハイライト)


※フルファイト(削除されている場合有り)
https://www.youtube.com/watch?v=BTc_d04iLrU

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■ラウンド・バイ・ラウンド
<1>第1ラウンド
開始と同時にボールが突っかけると思っていたが、意外に慎重。ただ、機を見て前に出る勢いと圧力はかなりのもの。何度かフォードをロープやコーナーに押し込み、迫力満点の左右を振るう。

フォードも散発ながらキレのあるワンツーを返し、ボディも混ぜたコンビネーションで反撃。強い左ストレートも1発放つ。お互いブロック&カバーで守りを固めている為、明白なクリーンヒットは無し。手数は互角で、命中率はフォードに分がある。

ただし、前に出て押しているのはボール。ガードの上でなおかつ単発はあったものの、フォードの強い左をヒットと判断するジャッジがいても異論や異存は無い。やはりブロックに阻まれたが、身体を預けるようにフォードにロープを背負わせ、強烈な連打を複数回見舞ったボールの攻勢を取った。

気になるのはフォードの反応。ボールの動き出し(出足)はしっかり見えている筈なのに、ステップバックが僅かづつ遅れ気味になる。サイド・ムーヴも無い。戦前伝えられた減量苦の影響だろうか。

手数は五分。着弾数は明白にフォード。ただし見た目のインパクトは、1発1発が強く重いボールに譲る。

オフィシャル=カルディニ:9-10(B)/レネ:9-10(B)/キム:10-9(F)
管理人KEI:9-10 ボール(10-10)

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<2>第2ラウンド
ボールがスタートダッシュを仕掛ける。左右フックは荒いが迫力があり、角度を付けた右アッパーを使い始めたが、これは見栄えも良く印象点につながるパンチ。ただ、フォードも良く対応している。いきなりロープに詰められタコ殴りされかけたフォードが、頭にきたのか逆に自分から距離を潰す。しかし手数とプレスが伴わず、容易に押し返されてしまう。

手数,命中率ともボール。フォードが正面に立って打ち気に逸っている為、ボールは労せずしてヘッドハンティングに集中できる。第1ラウンド同様、クリーンヒットは無し。フォードのボディに散らすコンビはいいが、単発で後が続かない。クロスレンジでの強打の応酬は、誰がどう見てもボールの土俵。フォードに取って得策とは思えない。

多くのジャッジが10ポイント・マスト・システムに従い、迷うことなくボールのアグレッシブネスを取る。ただし、フォードのコンビネーション(上下)と真っ直ぐ伸びるワンツーを評価するジャッジもいる。2ラウンズとも判断が分かれて止む無し。ラスベガスのジャッジなら、2つともフォードに与えるかも。

手数は完全にボール。命中精度もややボール。明白なクリーンヒット無し。

オフィシャル=カルディニ:9-10(B)/レネ:10-9(F)/キム:9-10(B)
管理人KEI:9-10 ボール(10-10)

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<3>第3ラウンド
コーナーの指示だと思うが、フォードが先手でジャブを放ち、ボールの出足に合わせてステップバック&サイド・ムーヴを使い出す。ボールの圧力でロープを背負うと、密着して来るタイミングに合わせて、上から抱え込むクリンチ&ホールドで自由を奪い、主審のブレイクを待つ。

ボールでなくとも、小柄な豆タンク型ファイターが痩身のボクサーにこれをやられるとキツい。主審のさじ加減次第にはなるが、抱きつき戦術に甘いレフェリングでスルー(ノーチェック)されると、ほとんど為す術が無くなってしまう。

フォードも良く分かっていて、組み付きながら主審に目配せをしてブレイクを促す。そして割って入ると直ちにホールドを解く。自分から抱え込みにはいかない。主審は仕掛けているフォードではなく、密着&連打で突破口を開くしかないボールにホールドの注意。

狡猾と言えば聞こえはいいが、「省エネ安全策」は昨今の在米黒人ボクサーの常套手段であり、フロイド・メイウェザー・Jr.が流行らせ、アンドレ・ウォードを筆頭に数多くの黒人トップクラスが後に続いて定着した。この安直かつあられもないインファイト潰しが私は大嫌いで、プロにあるまじき行為だと軽蔑すらするけれど、フォードはしつこくないからなんとか許容できる。

おそらくだが、これがフォードのコーナーを預かるレジー・ロイドとアンソニー・ロドリゲスが立てた基本的な戦術だった筈。ただ、現代における「在米黒人ボクサーの定番」をフォードは心から素直に許容できないらしく、またガードを上げて正面に立ち、ボールのパンチをブロックしながら押して行こうとする。

ワンツーから左(右)ボディを返し、ストレートに近い右リードを突く得意のコンビネーションでポイントをまとめにかかるフォードに、ボールも右ストレートのボディから左を連射(ストレート,フック→アッパー)し、左右を続けてコーナーに押し込む。

手数は圧倒的にボール。命中精度はほとんど互角。明白なクリーンヒット無し。

オフィシャル=三者一致で10-9(フォード)
管理人KEI:10-9 フォード

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<4>第4ラウンド
遠目のミドルレンジをベースに右リードを先に出し、飛び込みたいボールの間合いをステップバックで外す。前回奏功した基本戦術に立ち返るフォード。しかし、また自分から正面に立って距離を潰し、わざわざ打ち合いに誘う。

生来のハードパンチャーではないけれど、これまでのフォードなら、もっと強いワンツー&ボディで相手を下がらせていたが、この日はそこまでの出力を発揮できない(減量の悪影響?)。折角上手く行きかけていたのに、ラウンド終了間際、またロープを背負ってボールの連打で受けに回る。

ポストファイト・インタビューで思わず口にした「もっとコーナーの言うことを聞いていれば・・・」は、十中八九この点を指しているのだろうが、計算高い省エネ安全策を良しとせず、敢えて捨ててかかるフォードの向こう見ずは嫌いじゃない。

第2,第3ラウンド同様、手数・着弾数ともボール。明白なクリーンヒット無し。

オフィシャル=三者一致で10-9(ボール)
管理人KEI:10-9 ボール

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<5>第5ラウンド
第3~第4ラウンド始めにかけて成功しかけた安全策を貫く意志が、どうやらフォードにはないようだ。ボールの正面に対峙し、ハイリスクな距離で強打とプレスを受け止め力で押し返そうとする。これでは、フィジカル&パンチング・パワーに勝るボールの流れになるのは自明の理。

それでも懸命に踏み止まり、左右のパンチで反撃を試みるフォード。ボールの良い右(ストレート&アッパー)、左右のアッパーが目立つ。フォードも一度はボールをロープ際まで下がらせ、強めの左を打ち込んだ。

両雄のこのパンチ(ボール:3~4発/フォード:1~2発)を、それぞれクリーンヒットと見ても間違いではないが、拙ブログ管理人は敢えてクリーンヒット無しとする。

手数・着弾数ともボール。

オフィシャル=三者一致で10-9(ボール)
管理人KEI:10-9 ボール

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<6>第6ラウンド
開始と同時に突っかけるボール。一気にペースを握らんとする構え。しかし、フォードもワンツーでここはしっかり応戦。右から入る逆ワンツー→左アッパーをトライするボール。この後展開は落ち着き、互いに駆け引き&崩しの応酬。

右のオーバーハンドを狙うボールの打ち終わりを、左アッパーから右の返しで迎撃するフォード。2人とも攻撃が散発な為、互いのディフェンス・ラインを突破し切れない。距離が出来てボールが見ると、すかさずワンツーを打つフォード。

中盤~後半に向けての中休み,ペース配分のラウンドかと思いきや、ボールがまたワンツー→左アッパー、右からの逆ワンツー→左アッパー、左の連射(ストレート.フック→アッパー)で波状攻撃。完全なヒットではないが、フォードのガードを割る場面もあり印象が良い。2分過ぎ、ボールの効果的な左ボディストレート。

距離を潰してフォードの守りを突破しようとする際、決まってストレートから入り、アッパーで一瞬の変化を付け、一気呵成にロープ際まで追い込み、密着してから自慢のフック-というのがボールの基本的な戦術。

ワンパターンではあるが、適度なインサイドワークも使って小休止を挟みながら、時には左アッパーから入るなど、工夫を加えつつ繰り返して行く。そして、フォードが囮の右からつなぎの速い左ストレートを出そうとすると、テイクバックの段階で鋭い右オーバーハンドを合わせて殺す。良く考えられている。

一方、正面から押し返すことに執着するフォード。左のダブル(上→下/フック)→右ショートフックの返しでいい場面も作るが、ボールが必ずパンチを返して来る為後が続かない。ボールの強振はブロックでカバーしているが、勢いに押されて上体が左右に揺れ(ブレ)るのもマイナス。

そしてラウンドの終わり、ボールがまたフォードをコーナーに押し付けて左右のパワーショットをまとめる。まともに当たってはいないが、攻勢点として評価されなくてはならない。

減量の影響で万全な仕上がりではなく、コーナーの指示通り動けないにしても、やはり無策に見えてしまう。

フォードも良く頑張ったが、手数・着弾ともボール。

オフィシャル=三者一致で10-9(ボール)
管理人KEI:10-9 ボール

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<7>第7ラウンド
スタートの攻勢はボール。後ろへ飛びのくいつもの軽快なフットワークではないが、サイドへ小さなステップを切っていなしつつ、上→ボディ,下→顔面へコンビを打ち返すフォード。さらにショートの左アッパーがいい。

ボールもボディから上に返すコンビと左右のアッパーで応酬。このラウンドも一進一退。打たれては打ち返す展開が続く。ただし、パンチのまとめ方と見映えはやはりボール。

がしかし、残り1分を切ろうかというところで、フォードの左フックが2発立て続けにヒット。1発目をスウェイでかわし損ねて後退するボールの鼻っ柱を2発目が襲う。これでボールは鼻の中を切って出血。

ダメージでチャレンジャーの勢いが殺がれ、王者に押されたボールが珍しくロープを背負う。もっとも、フォードにも集中打で詰め切るだけの余力は無い。パンチの切れ目を見逃さずに身体を入れ替えたボールが、逆にフォードをロープに貼り付けて連打のお返し。打たれっ放しにならないところがボールの強み。終了ゴング前の攻防は、互いに良く守って甲乙付け難い。

相変わらず手数はボールも、着弾数はややフォードか。そしてその効果は、数少ない明白なクリーンヒットを奪ったフォード。フランク・ウォーレンとともに、リング下で激しい戦いを見守るエディ・ハーンが興奮して椅子から立ち上がり、フォードに声援(檄?)を飛ばす姿を中継のカメラが映し出す。

オフィシャル=三者一致で10-9(フォード)
管理人KEI:10-9 フォード

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<8>第8ラウンド
右のリードをダブル,トリプルで続けて、左ボディ(アッパー&ストレート)を見舞うフォード。ボールも右左のストレートと角度を付けた例のアッパー(左)を連射。前回のダメージは残っているが、簡単に下がらず反撃の態勢を崩さない。

散発の強打とコンビを幾度か振り合った後、ボールの左が伸び切って引き手を戻す前の打ち終わり、フォードの鋭い左ショートフックがまたボールの鼻を叩く。傷を気にするボールに、ジャブを2発見舞うフォード。

すると、フォードの右サイド(死角)へ大きく回り込み、下から左フックを打ち込もうとするボール。これをしっかり見切りながら、右足を軸にピボットのように身体を半転させ、左アッパーを顎へ突き上げるフォード。

これが効いた。一瞬ガクンと腰を落としかけるボールだが、堪えながら反撃のポーズを取る。溜まった疲労が顕在化してくる後半、この反応はお見事。ようやくフォードらしいカウンターが決まった。惜しむらくは、ここでも追撃が出なかったこと。打たれたら必ず打ち返し続けたボールの奮闘が、遂に訪れたピンチから自らを救う。

ボールの白いトランクスは鼻血で真っ赤。何故かフォードから見合ってしまい、息を整え直したボールが逆襲。勢い良く強打を振るって前に出る。フォードも高いガードを保持して防ぎ、左右フックとワンツー、ボディを返す。

左アッパーがガードの真ん中を割ると、ボール下がらず「もっと打って来い!」と逆に挑発。打ちつ打たれつを繰り返し、ロープを背負わされたフォードが我慢せずクリンチに逃げる。

ラスト30秒を切った辺りで、フォードの右から返す左ショートアッパーがまたヒット。今度はボールから抱きつく。そしてこの後、右ジャブをかいくぐるように突進したボールが、左腕でフォードを突き倒す。不可抗力と見た主審は特段の注意無し。

ボールは左(フォードの右サイド)へ流れながらの左ストレートをリトライ(探り半分)していたが、フォードが問題なく対応するのを見て止めた。ボールに柴田国明並みのスピードがあったら、決定機を呼び込めたかもしれない。

手数・着弾はほぼ互角。ダメージを追加されたボールの手数が落ちた。

オフィシャル=カルディニ:10-9(F)/レネ:9-10(B)/キム:10-9(F)
管理人KEI:10-9 フォード

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<9>第9ラウンド
フォードがジャブ&ワンツーで前に出る。ボールは左右に動きながら、軽めのフックで揺さぶりをかけ、強振+密着を続けようとするがやや抑え気味(ダメージ&疲労?)。さらに右から突っかけるも、フォードは左足を引くように右サイドへ身体を逃がしつつ間合いを取り、ボールが追いかけて来ないとわかると、少しパワーを上げた左ストレート。フォードにも余裕は無い。

するとボールが左右フックで前に出るが、勢いと鋭さに欠ける。しばしブロックしてから、同じような左右フックで反撃するフォード。こちらも大分鈍い。ここでボールも気合を入れ直して、角度を付けたアッパーを混ぜて連打。やはりパワーダウンが顕著で、フォードが左ショートアッパーをアクセントにしたコンビで押し返す。

どちらも一呼吸入れて仕切り直したい。双方とも疲弊が見え出した中、手数を続ける両者。クリーンヒット無し。手数と着弾はややボール。

オフィシャル=カルディニ:9-10(B)/レネ:9-10(B)/キム:10-9(F)
管理人KEI:10-10(振り分け:9-10 ボール)

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<10>第10ラウンド
互いにスタミナの限界が見え始め、集中力の維持が困難になり、攻め手もすべてわかり切っている。フォードはワンツーと左アッパー、ボールは下から突き上げる左右のコンビ(アッパーをアクセント)を応酬し合う。チャンピオンシップ・ラウンド(11・12R)に備えた中休み感も。

セーブしながらの一進一退。決め手になる攻勢もクリーンヒットも無し。ペースの鈍化がより顕著なボールに対して、その差はごく僅かだではあるが、距離と態勢を維持できているのはフォード。

オフィシャル=カルディニ:10-9(F)/レネ:9-10(B)/キム:10-9(F)
管理人KEI:10-9 フォード(10-10)

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<11>第11ラウンド
前回の中休みで息を吹き返す両雄。前半程ではないが、ボールの出足にも勢いが戻る。ただし、フォードのブロックを揺らし、ガードを割る精度とパワーは望めない。

ボールのスローダウンに助けられる格好で、結構な時間ロープを背負ったフォードが強めのワンツーで前に出ると、ボールも懸命の連打で逆襲。またロープに詰めるとフォードもここは無理せずクリンチ。ホールドしていなかった為主審のブレイクはかからず、ボールから離れるとフォードが追撃。

頭を付けて押し返そうとするボールの右脇腹へ強い左ボディ。思わず1歩後退するボール。それでも頭部と顔面を覆うガードを維持して、左フックもろとも前へ踏み出したところへ、相打ちの左フックをカウンターするフォード。テンプルから上の付近を巻き込み気味になった為、オフ・バランスになりかけるボール。下を向いたまま、両方のグローブで後頭部を覆って耐える。綺麗なヒットではないがそれなりに効いた印象。

ボールも気持ちを作り直して攻めるが、下半身が付いて行かない。踏み込み(出足)が足りず、距離を合わせることができない。ブロックを完全に破れてはいないが、フォードが強めの左ストレートを1発追加。ボールの反撃(散発)をステップ&ボディワーク+クリンチでいなすフォード。少しだけ余裕ができたか。

思うように足が出なくなったボールは、フォードの右リードを待ってクロス気味に左を被せ、さらに左右フックを続ける。しかしフォードがダックでかわす。前半のボールはここで一気に距離を潰しに行っていたが、フォードの左ショートアッパーとボディを警戒してか敢えて追わない。

フォードはボールの右ガードの隙間からテンプルを狙って、大きめの左フックを2発。まともに当たってはいないが、ボールの身体が揺れる。またボールが左右を振るって突進しようとするが、身体が伸びてしまいフォードにダックされるとパンチを続けられない。しっかり学習済み。疲れてはいても、流石にチャンピオンだけのことはある。

ラウンド終了直前、組み合う両者。割って入る主審に委細構わず、脇に抱えられた右腕を振って突き放そうとするボール。さらに思わず左フックを1発見舞ってしまう。フォードもすかさず右を返してヒートアップするも、流れの中で主審がボールに注意を与えて即時落着。年季の入ったプロの良きレフェリング。

手数は五分。着弾は明らかにフォード。明白なダメージを伴うクリーンヒットではないが、ボールのテンプルを狙うフォードの左フックは良かった。

オフィシャル=カルディニ:9-10(B)/レネ:10-9(F)/キム:10-9(F)
管理人KEI:10-9 フォード

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<12>第12ラウンド
いよいよ最終ラウンド。アップライトから前傾に姿勢に変えたフォードが、軽めだが意思のこもったジャブを連射。ボールが出て来ず、強めのワンツーで攻勢を取りにかかるフォード。マズと感じたボールが左のスウィングを振るうと、一旦距離と間を置くフォード。

ボールも前半戦に近い瞬発力を見せるが、近い距離でのパンチの応酬になると分が良くない。フォードのワンツーが連続してボールのガードを割る。

それでもワイルドに左右を振って突進。左から右でフォードをガードごと揺らしロープに詰めるが、ここはフォードも意地で強打を振り返す。いずれもきれいに当たってはいないが、迫力のある攻防で見せ場になる。

そしてまた、ガードを保ちクロスレンジでのパンチの応酬。密着したボールが、右腕で強引にフォードを押して下がらせ、左フックを振りかぶりながら、さらに身体を預けるようにそのままロープに押し込む。プッシングのチェックが入るかと思ったが、主審はスルー。

互いにガードを崩さず、再びクロスレンジでの打ち合い。ボールがガードごと頭から突っ込む。組み付いた後、フォードも頭を擦り付けてお返し。ここでも主審はバッティングの注意無し。

また得意のパンチを応酬し合う中、ボールの右オーバーハンドに合わせたフォードの左アッパーがヒット。これが効いてボールはクリンチ。抱きつかれながらも、右ショートフックを追撃したフォードが後退して距離を作り、右フックをもう1発。ボールの上体が僅かに揺らぎ、明らかに効いているが、フォードにも詰め切る余力は既に無し。

ボールは細かい左右のボディ連打で変化を付け、前半奏功した下から突き上げる左右のストレート連射。そしてフォードに抱きつくと、ロープまでゆっくり歩きブレイクを待つ。

再開と同時にフォードが前に出て、テンプルを狙うアウトサイドからの左フック。ボールも踏み止まり、これも今日奏功している左のダブル(ストレート→アッパー)から右へとつなぐコンビ。そして右アッパーのダブル(ボディ→顔面)と攻め込むも、フォードが上から覆い被さり主審のブレイクが入る。ボールは惜しいチャンスを分断された。

リスタート後、ボールの左スウィングにフォードも左スウィングを返し、また密着。頭をくっ付けながらロープまで押して行くボール。流石に今度はバッティングの注意が入る。

リング中央に戻り、ボールの右強打とフォードが打ち下ろす左フックが交錯。打ち終わりに上体を折り、かがみ込んだボールがオフ・バランスになる。フォードが力をこめた左右。ボールも何とか打ち返すがすぐにクリンチ。

残り時間も僅か。打ち合ってはクリンチを繰り返すも、フォードの左アッパーがいいタイミングで1発入る。ボールも必死にこらえながら腕を振り、左右を振って迎撃するフォードに身体を預けてロープに押し付けたところでゴング。下がりながらも何発かフォードのパンチが当たっていたが、前がかりになったボールの体重を押し返せなかった。

手数は圧倒的にボール。ただし着弾はフォード。そしてよりダメージを負ったのはボール。

オフィシャル=カルディニ:10-9(F)/レネ:10-9(F)/キム:9-10(B)
管理人KEI:10-9 フォード


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◎オフィシャル・スコア及びスコアカード
副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)
offc-scorecard-S
■清書
off-scorecard-cleancopy

■クリス・マニックス:115-113 フォード
※DAZN アン・オフィシャル・ジャッジ
Chris-mannix-ScoreDAZN-Unofficial-Score-S

■管理人KEIのスコア:115-114でフォード
keis_scorecard

◎終了直後のインタビュー(囲み取材/Fight Hub)



かような次第で、拙ブログ管理人はフォードの防衛と見たが、終始前に出る姿勢を貫いたボールの手が挙がった。効かされても必死に踏ん張り、渾身の力を振り絞って打ち返し続ける敢闘精神は称えられて然るべき。

「実際には、2度目のタイトル獲得だ。でも、こうしてベルトを獲ることができた。(レイ・バルガス戦の判定は)もう気にしない。チャンピオンになれたんだから。」

◎バルガス戦直後のインタビュー
BIG CONTROVERSY! 'Frank Warren WAS FUMING!' - Nick Ball After title dreams SHATTERED
2024年3月9日/Seconds Out


公称163センチのフェザー級チャンプに幸多かれ・・・と願いたいけれど、防衛ロードは平坦では有り得ない。ランキング1位に控えるのは、あのスティーブン・フルトン。WBAとはこれまでほとんど縁が無く、噂されるルイス・レイナルド・ヌネス(19連勝中/13KOのドミニカン/アマ85勝5敗)との再起戦が今週末に迫っているが、正式なアナウンスはされていない様子。

そして2位には、早くもルイス・ネリーの名前が。S・バンタムでも相対的なパワーダウンとサイズのディス・アドバンテージに苦しんだネリーが、ステロイドの助け無しでフェザー級?。

東京五輪フェザー級代表からプロ入りした3位のミルコ・クェリョ(亜/14連勝11KO)、フォードに最終盤のTKOで敗れたものの、高評価を維持する4位オタベク・ホルマトフ(ウズベキスタン)は手強い。

5位にランクを上げたビクター・モラレス(米/19勝9KO1分け)も、リオ五輪代表候補からプロに転じたエリート組み。昨年4月、テキサス州アーリントンでディエゴ・デラ・ホーヤを2回KOに屠り、プロスペクトとして広く認知された。


上位を占める選手は、いずれ劣らぬインサイド・ワーカー(技術&駆け引きに長けている)。しっかりボクシングされて、クリンチワークで接近戦を潰されると厳しい。

早くも統一路線に言及するなど、長期政権の樹立に余り関心はなく、その視線は「王座統一 → 階級アップ」に向いているようだ。


Part I -4 へ


◎フォード(25歳)/前日計量:125.4ポンド
戦績:17戦15勝(8KO)1敗1分け
身長:170センチ,リーチ:175センチ
アマ戦績:50~60戦超(詳細不明)
2018年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝(バンタム級:56キロ)
2018年全米選手権2位(フェザー級:56.7キロ)
2017年全米選手権2位(バンタム級:56キロ)
2017年イースタン・エリート・クォリファイング・トーナメント2位(バンタム級:56キロ)
※Eastern Elite Qualifying Tournament:毎秋米国東部各地域のアマチュア王者クラスが参加する500~600名規模の大きな大会
好戦的な左ボクサーファイター

◎ボール(27歳)/前日計量:125.8ポンド
戦績:21戦20勝(11KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:165センチ
右ファイター


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■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)

立会人(スーパーバイザー):アルフレド・メンドサ(ベネズエラ/WBAフェデラテン副会長)
※WBAフェデラテン:WBA直轄の中南米地域王座認定機関(Latin American Professional Boxing Federation)



モンスターの好敵手(?)敗れる /火の玉小僧が悲願の王座奪取 - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 レビュー I - 2 -

カテゴリ:
<2>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
WBA8位 ニック・ボール(英) 判定12R(2-1) 王者 レイモンド・フォード(米)

■競ったスプリットもフォードは判定に納得



まさしく一進一退の白熱した打撃戦。どちらに転んでもおかしくない、拮抗したラウンドが続いた。果たしてオフィシャル・スコアは割れた僅差となり、またぞろ紛糾かと眉が曇りかけたが、意外にもフォードがすんなり結果を受け入れ、ファンと関係者からも異論は聞かれない。

チームからも文句は出ていなかったようで、私自身はフォードに軍配を上げていた為、肩透かしを食らった気分がいや増したのだと思う。

「(勝利の為にやるべきことは)十分にやれたと思う。でも際どい戦いだったし、自分にもミスはあった。もう少し、コーナーの助言を聞くべきだったかも知れない。」

「今日はニックの方がより良かった。言い訳はできない。130(ポンド=S・フェザー級)に上がるよ。」

前の記事に記した通り、ウェイトの維持が限界に達していたのは確からしく、試合直後のリング上で行われたインタビューを、フォードは次のように締め括った。

「(ベストシェイプは難しいとの自覚はあったが)この素晴らしい機会を逃す選択肢はなかった。エディ(ハーン)はこの興行に僕を出したがっていたし、これまでどんな相手とでも戦ってきた。(負けはしたが総てに対して)感謝したい。」

フォード自身の性格もあるのだろうが、少なくとも陣営の中では、階級アップが規定の路線として確定済みだったことも、潔い振る舞いを助長してくれたのではないか。「フェザーはこれが最後」と決めていたから、「言い訳はできない」と言い切れた。

無念の想いに沈みながら、自ら進んでノーサイドのハグを求める姿が清々しくもあり、また痛々しい。


このようにフォード本人が敗北を認めているにもかかわらず、ネット上は判定の是非を巡る議論で沸いている。

「フォードの防衛だろ!」

「別な意味でサベージ(Savege:ヤバい=フォードのあだ名)!」

全体的な論調として感じるのは、カムデンからやって来たチャンプ支持だろうか。ただし、専門メディアはスコアリングに関する限り静かである。繰り返しになるが、フォードと彼の陣営が素直に判定を受け入れていることに加えて、内容自体「リアルなクロスファイト」だったからに他ならない。

◎オフィシャル・スコア及びスコアカード
副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)
offc-scorecard-S
■清書
off-scorecard-cleancopy

■クリス・マニックス:115-113 フォード
※DAZN アン・オフィシャル・ジャッジ
Chris-mannix-ScoreDAZN-Unofficial-Score-S

■管理人KEIのスコア:115-114でフォード
keis_scorecard

私のスコアもフォード支持だが、ご覧の通り1ポイント差。イーブンにしたいラウンドと、実際にイーブンを付けた第9ラウンドをマストで割り振る場合のポイントを横に付記した。

こちらのトータルは118-115で3ポイント差になったが、全体的な印象としては五十歩百歩である。命懸けで戦っている両雄には申し訳ない言い方になってしまうけれど、以下に記載するパンチング・ステータスを見ても、そうした考えにならざるを得ない。

私の第8ラウンドまでのスコアは、オフィシャルの1人,パヴェル・カルディニ(ポーランド)とまったく同じ。第9ラウンドをマストでボールに振ると、意見が分かれるのは第11ラウンドの1つのみ。その場合、結果は114-114のドローになる。

最終盤の3ラウンズ(10~12R)はフォードが取ったと見たけれど、カナダ人ジャッジのようにボール有利を主張する人や、最終ラウンドを1人だけボールに与えた韓国人ジャッジの見解もむべなるかなと思う。

それぐらい拮抗していたのも事実。だから「1-2のボール勝利」に対して、理不尽だとか不当だなどとは考えない。

できるものならドローにしてあげたいとも思う。反面それでは、バルガス戦に続く悲運に見舞われるボールには気の毒過ぎる。


■パンチング・ステータス(Compubox)
https://beta.compuboxdata.com/round-stats/14432

○ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
<1>フォード:155/637(24%)
<2>ボール:167/828(20%)

○ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
<1>フォード:37/292(13%)
<2>ボール:36/280(13%)

○強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
<1>フォード:131/345(34%)
<2>ボール:131/548(24%)

これもまた繰り返し(ずっとレビューを書く時間が無く久方ぶり)になるが、パンチ・スタッツは展開の優劣を判断する為に有用な「1つの指標」に過ぎない。着弾の多寡は勝敗を決定付ける第一のファクターには成り得ず、命中率が低いからと言っても、それを持って雑で粗いと決め付けてもいけない。

手数の多少は積極性,好戦性を判断する良い材料に違いないが、戦況によっては無駄打ちと見られる場合もある。何よりも重要なことは、着弾数と率は、「ダメージの度合い」を表すことができない。

その着弾が、果たしてどの程度効いたのか、あるいは効いていないのか。ポイントを割り振り、ラウンドの優劣を確定する為に最も重要なキーファクターであり、そこに一定水準以上の正確性と妥当性が求められる以上、経験を積み場数を踏んだ人の眼で見て判断するしかないのである。


ラウンド・バイ・ラウンド(Part I -3) へ


◎フォード(25歳)/前日計量:125.4ポンド
戦績:17戦15勝(8KO)1敗1分け
身長:170センチ,リーチ:175センチ
アマ戦績:50~60戦超(詳細不明)
2018年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝(バンタム級:56キロ)
2018年全米選手権2位(フェザー級:56.7キロ)
2017年全米選手権2位(バンタム級:56キロ)
2017年イースタン・エリート・クォリファイング・トーナメント2位(バンタム級:56キロ)
※Eastern Elite Qualifying Tournament:毎秋米国東部各地域のアマチュア王者クラスが参加する500~600名規模の大きな大会
好戦的な左ボクサーファイター

◎ボール(27歳)/前日計量:125.8ポンド
戦績:21戦20勝(11KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:165センチ
右ファイター

◎フェイス・オフ(ファイナル・プレス・カンファレンス)


※ファイナル・プレス・カンファレンス:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=Wi-oKCfOvg8


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■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)

立会人(スーパーバイザー):アルフレド・メンドサ(ベネズエラ/WBAフェデラテン副会長)
※WBAフェデラテン:WBA直轄の中南米地域王座認定機関(Latin American Professional Boxing Federation)

モンスターの好敵手(?)敗れる /火の玉小僧が悲願の王座奪取 - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 レビュー I - 1 -

カテゴリ:
<2>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
WBA8位 ニック・ボール(英) 判定12R(2-1) 王者 レイモンド・フォード(米)

ball _win

フェザー級へのさらなる階級アップが早まりそうな(?)、我らがリアル・モンスター.井上尚弥の前に立ちはだかる難敵・・・との呼び声も聞かれるフォードが、なんと想定外の王座転落。

ジャッジ3名が揃って2ポイント差(115-113)。火種になってもおかしくない僅差のスプリット・ディシジョンで、ウズベクが誇る完成度の高い万能型オタベク・ホルマトフを最終盤にストップして得たベルト(今年3月)を、僅か3ヶ月で手放すこととなった。

互いに持てる力を総動員し、至力(死力)を尽くした12ラウンズは、クリンチの少ない、現代プロフェッショナルの最高水準と呼んで差し支えが無い激闘。心からの拍手と最大限のねぎらいを両雄に贈りたい。

「第二のラスベガス」を目論む中東のホットスポットまで赴き、完全に出鼻を挫かれた格好の「Savage(サべージ:フォードのニックネーム=ヤバい,イケてる,冷酷無比等々)」だが、オフィシャル・スコアへの不満は無論のこと、リマッチを要求することもなく、試合前にも喧伝されていた増量を選択する模様。

なお、各種の紹介記事には”Ray Ray”と記載される場合もあるが、リングコールではもっぱら”Savage”が用いられる。勿論、今回も同様だった。


「(体重調整が)キツいとは聞いていたが、想像以上に状態が悪い。挑戦者にビッグ・チャンスが転がり込むかも・・・」

前日計量時の消耗ぶりに注目する記事が出るなど、フォードの周辺に不穏な空気が漂う。もっとも、過酷な減量を見慣れた(?)日本のファンの眼には、果たしてどう映っただろう。本番のパフォーマンスに関して言えば、スタートからキレと冴えがイマイチではあった。

weigh-in

計量後のリカバリー云々という指摘も無視はできないけれど、ホルマトフ戦やジェシー・マグダレーノ戦と比べても、下半身を中心とした運動量が明らかに落ちていたし、パンチも手打ち傾向が目立ち、生来のKOパンチャーではないにしても威力の目減りは明白。

チャレンジャーの肉薄を押し止め、逆に下がらせるだけのフィジカル・パワーを感じさせず、仮にホルマトフ戦を100とすれば、今回は良くて70~75との印象も。伝えられていたように、126ポンドの維持が困難になっていたのは確かなようだ。


プロ転向の前年、ナショナル・ゴールデン・グローブスのバンタム級を制して、2020年東京五輪の代表候補に名乗りを上げた2018年以降、良好円満な関係を続けるトレーナー,レジナルド・ロイドとアンソニー・ロドリゲスの2人も、「(4団体)統一より階級アップ」に言及していたが、手痛いプロ初黒星を機にS・フェザー級進出を明言。

同じマッチルーム傘下のジョー・コルディナ(英/リオ五輪ライト級代表)が保持するIBF王座を当面の照準にしていたが、フューリー vs ウシク戦(5月18日/リヤド)のアンダーに出場して、アイルランドの長身サウスポー,アンソニー・カカーチェに8回TKO負け。

クィーンズベリー傘下のカカーチェとの交渉は一筋縄では行かないと思われるが、マッチルームからトップランクに乗り換えたオシャキー・フォスター(米/WBC)、米英における共同プロモートの相手を明確にしていないWBOの新チャンプ,デニス・ベリンチュク(ウクライナ/アラム&ウォーレン連合が押さえそう?)も含めて、全方位で2階級制覇を目指す方針に変わりは無いらしい。

team_ford

治安の悪さが全米トップ・クラスとされる、ニュージャージー州カムデン出身。チーフのレジー・ロイドがシャクール・スティーブンソン(ニュージャージーで最も人口の多いニューアーク出まれ)のチームに参加していた縁で、3階級王者のキャンプに度々合流している。

「怖いもの知らず(Fearless)」を止めて、恐れ多くも(?)「Sugar)」を名乗り出したシャクールをアイドルとして挙げているが、他にもロイ・ジョーンズやメイウェザー&ウォード、クロフォードに加えて、シュガー・レイ・レナードやカネロまで列挙していて気が多い。


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以下に示すオッズ通り、不利の予想を覆してベルト奪取に成功したニック・ボールは、ビートルズの街リヴァプールからやって来た、公称157センチの豆タンク型イングリッシュ・ファイター。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
フォード:-150(約1.67倍)
ボール:+138(2.38倍)

<2>betway
フォード:-163(約1.61倍)
ボール:+138(2.38倍)

<3>ウィリアム・ヒル
フォード:8/11(約1.73倍)
ボール:5/4(2.25倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
フォード:8/11(約1.73倍)
ボール:6/4(2.5倍)
ドロー:20/1(21倍)


かつて我が国にも、163センチ(身長・リーチとも)の小兵をものともせず、フェザー級とJ・ライト級の2階級制覇を海外奪取(日本人唯一)で成し遂げ、”天才パンチャー”と呼ばれた柴田国明がいた。

背丈だけならフライ級。160センチ台半ばのフェザー級なら、今でも時折見かけるけれど、160センチ台前半の126ポンドは希である。

柴田は切れ味鋭いハードパンチに加えて、130ポンドに上げて以降、コーナーを支えた名匠エディ・タンゼントをして「日本一速いはクニアキ。」と言わしめた、並外れた踏み込み&ハンド・スピードを誇り、リズミカルなウィービング&ステップで肩と頭を振りながら素早く相手の懐に飛び込み、規格外の強打を叩き込んだ。

◎参考映像:柴田 KO1R ラウル・クルス(メキシコ)
1971年6月3日/東京都体育館/WBCフェザー級王座V1


「エディさんが言うの。クニアキ、背が低いよ。でも大丈夫ね。”ごめんさない、ごめんさい”言うて、謝りながらガードの下にもぐり込んで行くの(笑)。」

深めのクラウチングを基本にしつつ、小刻みに肩をゆする絶え間ないウィーブ&ダックについて、生涯の師と仰ぐエディさんとの懐かしい思い出話をまぶし、半ば冗談めかして話すのが常だった。

163センチのフェザー級は希にして少ない。だが、ボールは157センチ。完全にミニマム級のサイズである。ところが、2017年にプロデビューした時、ボールは130ポンドを僅かに超えるS・フェザー級だった。


「とにかく動き続けて、プレスし続ける。これが僕のスタイルなんだ。会場に来てくれたファンは絶対に喜んでくれるし、テレビ受けもする。」

ご本人も述べているが、「アクション&プレッシャー」が売り。絶え間なく前進を繰り返しながら、強靭なフィジカルを武器に、火の玉のように突進して相手をロープ(コーナー)に釘付けにすると、何の迷いも無く左右の強打を振るう。

驚くべきことに2戦目~12戦目までの間、ライト級リミットに近いウェイトで3試合、同じくS・ライト級で2試合をこなしている。本格的に絞り始めたのは、2020年の夏以降。130ポンドアンダーで2戦やった後、元英連邦王者アイザック・ロウを6回TKOに下して、フェザー級の初戦でWBCシルバー王座を獲得(2022年4月)。これ以降、126ポンドを主戦場にしている。


そして、WBCシルバー王座を律儀に4回防衛してランキングを上昇。アイザック・ドグボェ(ガーナ)を中~大差の判定に退けたV4戦が国際的な注目を集め、WBC王者レイ・バルガス(メキシコ)への挑戦を実現した。

こうして3月8日、今回と同じキングダム・アリーナに登場。ジャン・ジーレイ(中国) vs ジョセフ・パーカー(豪)のアンダーカードで、長身痩躯のバルガスから2度のダウンを奪って追い詰めるも、倒し切れずに判定勝負となり、三者三様のスプリット・ドロー(116-110,112-114,113-113)で緑のベルトを獲り逃がす。

◎試合映像:バルガス SD12R/Draw ボール(ハイライト)
2024年3月8日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)

※フルファイト
https://www.youtube.com/watch?v=eGGzqe13nbA


3週間後の3月末、ラスベガスでローランド・ロメロを8回TKOに屠り、WBA S・ライト級王座を獲得したイサック・クルス(メキシコ)と同タイプ。スタイルの相似性ゆえに、”小型タイソン”と称されることも多いが、メキシコ産”ピットブル”の方がより荒々しい。クルスも公称のタッパは163センチで、天才パンチャー,柴田国明と同じだが、リーチは160センチで柴田より短い。

2007年~2008年にかけて、ギャヴィン・リースというウェールズ出身のボクサーが、短期間だがWBA S・ライト級王座を保持していた。この人も身長・リーチともに163センチを公表していた。

本来の適性階級より重いクラスで戦う極端な小兵選手は、つまるところ”突貫小僧スタイル”じゃないとやっていけない。柴田ほどスピード&シャープネスに優れ、さらに1発の破壊力を併せ持つ豆タンク型は滅多にいないから、人並み外れたフィジカルの強度とタフネス(打たれ強さ)が不可欠になる。

◎参考映像:I・クルス TKO8R R・ロメロ
2024年3月30日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス
WBA S・ライト級タイトルマッチ12回戦


◎参考映像:G・リース UD12R スレイマーヌ・ムバイエ(仏)
2007年7月21日/インターナショナル・アリーナ,カーディフ(英/ウェールズ)
WBA S・ライト級タイトルマッチ12回戦



ティーン・エイジのニック少年が夢中になっていたのは、英国内外の熱視線を集めるマージーサイド・ダービー(リヴァプールFC vs エヴァートンFC)が有名なフットボール(サッカー)でもボクシングでも無く、キックボクシングだったという。

本人は始めからプロの格闘家を目指していたらしいが、父の下で左官職人の修行を始めた。学業は余り熱心ではなかったようだ。

しかし格闘家への憧れと熱い思いは止まず、「アマチュアボクシングなら・・・」と父の許可を得て競技活動に進んだらしく、ジュニアのABA(全英選手権)チャンピオンになったと言うが、年度と階級は明らかにされておらず、戦績も含めたアマチュア時代の詳細は報じられていない。


「オレはいったい何をやってるんだろう・・・」

左官の仕事に馴染めず、燻り続ける格闘技への情熱がついに火を噴く。「プロになる」という決意を固めて、近隣にあったエヴァートン・レッド・トライアングルというボクシング・ジムを尋ねると、すぐにジムを主宰するコーチ,ポール・スティーブンソンの目に止まる。

「18か19(歳)だったと思う。突然やって来るなり、プロになりたいと言ったんだ。アマチュアでやっていたと言うから、取りあえず身体を見て練習をやらせてみた。基礎的な体力は申し分がなかったし、打撃に対する免疫も充分に出来ていた。」

ball_stevenson

長丁場を戦うスタミナを養い、ペース配分を考えたスタイルの再構築を中心に、ルールの違いを含めたプロ対策を施す必要はあったが、「大した手間じゃない。元々プロ向きのスタイルだったから、具体的な部分は幾つかのマイナーチェンジだけで済んだ。」とのこと。


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◎フォード(25歳)/前日計量:125.4ポンド
戦績:17戦15勝(8KO)1敗1分け
身長:170センチ,リーチ:175センチ
アマ戦績:50~60戦超(詳細不明)
2018年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝(バンタム級:56キロ)
2018年全米選手権2位(フェザー級:56.7キロ)
2017年全米選手権2位(バンタム級:56キロ)
2017年イースタン・エリート・クォリファイング・トーナメント2位(バンタム級:56キロ)
※Eastern Elite Qualifying Tournament:毎秋米国東部各地域のアマチュア王者クラスが参加する500~600名規模の大きな大会
好戦的な左ボクサーファイター

◎ボール(27歳)/前日計量:125.8ポンド
戦績:21戦20勝(11KO)1分け
アマ戦績:25戦23勝2敗
ジュニア全英(ABA:The London Amateur Boxing Association)選手権優勝
※年度・階級不明
身長:157センチ,リーチ:センチ
右ファイター

◎前日計量


※前日計量:フル映像
https://www.youtube.com/watch?v=zR8JB7e59uk


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■オフィシャル

主審:エクトル・アフゥ(パナマ)

副審:
パヴェル・カルディニ(ポーランド):115-113(B)
ジャン・ロベール・レネ(仏):115-113(B)
キム・ビュンムン(韓国):113-115(F)

立会人(スーパーバイザー):アルフレド・メンドサ(ベネズエラ/WBAフェデラテン副会長)
※WBAフェデラテン:WBA直轄の中南米地域王座認定機関(Latin American Professional Boxing Federation)


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