熱砂の闘い /崖っぷちのブロンズ・ボンバーが中華の巨人(Big Bang)を相手にサバイバル・マッチ - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 プレビュー II -

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<1>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/ヘビー級12回戦
前WBO暫定王者/同2位 ジャン・ジーレイ(中国) vs 元WBC王者/同7位 ディオンティ・ワイルダー(米)




ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)に敗れた両者が、文字通り(年齢的にも立場的にも)生き残りを賭けた一騎打ち。

昨年4月、ジョー・ジョイス(リオ五輪S・ヘビー級銀メダル)とのメダリスト対決に臨んで、大番狂わせ(と呼んでいいだろう)の6回TKOに屠り、暫定の2文字付きながらも、史上初のアジア人ヘビー級王者となった”Big Bang”ことジャン・ジーレイ(チャン・ツィーレイ)。

5ヶ月置いて組まれたダイレクト・リマッチでは、雪辱に燃えるジョイスを僅か3ラウンドで返り討ち。4団体統一を目指すオレクサンドル・ウシク,タイソン・フューリー(当時/5月18日にウシクが判定勝ち)との三つ巴に言及する。

WBOに根回ししてジョイスに暫定王座を獲らせたのは、ウシク,フューリーに王座復帰への意欲を失っていないアンソニー・ジョシュアをプラスした四つ巴を実現する為に他ならない。目論みが泡と消えたフランク・ウォーレンは、ショッキングな連続KO負けに言葉を失う。

最も深刻な事態に陥ったのが、ジョイス自身であることは間違いない。だが、2019年4月にリオの銀メダリストをヘイメーカー・プロモーションズ(デヴィッド・ヘイの興行会社)から引き抜き、世界戦まで引っ張り上げたウォーレンの失望はさらに大きく(?)、「再起は困難」だと事実上の引退勧告に及ぶ。

◎試合映像:ジーレイ vs ジョイス第2戦
2023年9月23日/ウェンブリー・アリーナ,ロンドン(英)
WBOヘビー級暫定タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=SF4ra_PGqVE


泣いても笑っても、手元に残ったジーレイを使ってトップ戦線に割り込むしかない。次なるステップアップにウォーレンが選んだのは、昨年12月、今回と同じキングダム・アリーナで6倍近い掛け率をひっくり返し、ディオンティ・ワイルダーを転落寸前の断崖絶壁まで追い込んだパーカー。

2年前の秋、ジョイスと暫定王座を争い11回KO負けに退いたパーカーは、2016年10月~2018年3月までWBOの正規王者だった。3度目の防衛戦で渡英し、IBFとWBAの2冠を保持していたジョシュアに大差の0-3判定負けした後、すぐにまた呼ばれてディリアン・ホワイトに僅差の判定負け。以来、英国を主戦場に戦って来た。

「どういう展開になっても、まあ負けはないだろう。」

ところが・・・。しっかり仕上げたパーカーに、前評判で優位とされた中華版ビッグ・バンが手を焼く。最後まで倒し切ることができず、スプリット・ディシジョンで虎の子のベルトを手放す。


当然の事ながら、中華の巨人はパーカーに喫した僅差の1-2判定を承服していない。しかし、暫定王座を巡る立て続けの直接再戦(ジーレン vs ジョイス&パーカー)は、流石に無理が有り過ぎたのか、寝業師のウォーレンはターゲットの変更を迫られる。

2年前の夏に献上したプロ初黒星(2022年8月/IBFのエリミネーターでフィリップ・フルコヴィッチに僅少差の0-3判定負け)をきっかけに、ようやく掴んだマッチルームとの直接契約を棒に振り、フランク・ウォーレンの誘いを受けてクィーンズベリー・プロモーションズに乗り換えた。

パーカー戦に引けを取らない競った展開には違いなかったけれど、後半~終盤にかけてガス欠したジーレイは、ガードの保持もままならなくなり、フルコヴィッチにもスタミナの余裕が無かったから倒されずに済んだが、とにかく見栄えが悪いことこの上ない。

◎試合映像:フルコヴィッチ 判定12R(3-0) ジーレイ
2022年8月20日/ジェッダ・スーパードーム,ジェッダ(サウジアラビア)
https://www.youtube.com/watch?v=hSLvOp4n6I8


さらに遡ること3年余り。マイアミのハード・ロック・スタジアムで、ヴァージニアから呼ばれた黒人の中堅サウスポーと引き分けた時(0-1のマジョリティ・ドロー)にも、オフィシャル・スコアを頑なに拒絶。

先にダウンを奪いながらし止め切れず、バッティングで右の瞼をカットする不運に見舞われたとは言え、この試合でも後半の息切れが顕著で、いたずらにラウンドを失っている。フラフラになって上から覆い被さるように抱きつき、ホールディングの反則を取られて減点されたのも痛かった。

◎試合映像:ジーレイ 引分10R(0-1) ジェリー・フォレスト(オフィシャル・ハイライト)
2021年2月27日/ハードロック・スタジアム, フロリダ州マイアミ・ガーデンズ
https://www.youtube.com/watch?v=OK3TRsTFZxw


40代に突入した年齢に加えて、2021年以降増え続けてきた体重。身体的なスピードは薬にしたくとも無い。おまけに後半戦のガス欠癖。フルコヴィッチ戦までのジーレイには、世界タイトルの奪取など見果てぬ夢。到底覚束ないと判断するしかなかった。

だがしかし、集中が途切れない前半戦の間、ブロッキングで顔の周囲を守りながら、ノソノソと前進しつつショートで繰り出すストレート系のパンチは、思いのほか素早く相手のガードをすり抜けて顔面に届く。

プロ転向後、3番目に軽い256ポンドで仕上げた初戦のジョイスは、ジーレイが放つ左ショートストレートに反応できずに粉砕され、体重差がもたらすパワーの違いにやられたと考えたのか、再戦では一気に25ポンドも増やし、ジーレイと同じ280ポンド台で計量。

もともと運動量が豊富ではない為、見た目の動きは余り変わらない印象を受けるが、反応の鈍さも改善できなかった。にじり寄るジーレイの圧力に押し負ける姿も変わることがなく、警戒していた左ではなく、相打ち気味の右フック(ショート・カウンター)を浴びて轟沈。

他方奇跡の復活に懸けるパーカーは、スローモーな中でも懸命に肩と頭を振り、上体が立たないよう顎を引いた前傾姿勢を保ち、タフな巨漢を無理に倒そうとせず、着実にラウンドをまとめる作戦。

上から押し潰されてダウンカウントを取られたが、ダメージは少なくて済んだ。下からショートジャブを突き、一定の距離をキープしつつ大振りと深追いを慎む。そうやってパーカーは致命的な被弾から身を守り、12ラウンズを凌いでベルトの奪還を成し遂げた。

◎試合映像:パーカー 判定12R(2-0) ジーレイ
2024年3月8日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
WBOヘビー級暫定タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=mEEluYAVTy0


「(ここで負ければ)ラスト・ダンス。ウソ偽りの無いラスト・チャンス。そう捉えている。」

不惑を目前にしたワイルダーの危機感は、余裕を隠さないジーレイの比ではない。タイソン・フューリーとの3試合で、第2・第3戦を決定的なKOで落とした後、2歳年長の北欧の巨人ロベルト・ヘレニウスを初回KOに退け一息ついたが、1年2ヶ月休んでパーカーにワンサイドの12回0-3判定負け。

フューリーとの第2・第3戦、キャリア最重量の230ポンド超えで痛恨の連敗となった後、ヘレニウスとの再起戦では、フューリー第1戦とほぼ同じ214.5ポンドで秤に乗った。

パーカー戦も213ポンドで調整したブラウン・ボンバーの動きそのものは悪くなかったが、パーカーの状態が非常に良く、ワイルダーは出足が遅れて後手を踏み続けた。

中盤以降は組み付く場面が増えて、互いに決定的な場面を作れないまま12ラウンズを終了。終始先手を取り続けたパーカーに、10ポイント・マスト・システムの恩恵をガッツリ持って行かれ、オフィシャル・スコアはとんでもない大差が付く(111-118×2,108-120×1)。

◎試合映像:パーカー 判定12R(3-0) ワイルダー
2023年12月23日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
WBCインターナショナル,WBOインターコンチネンタルヘビー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=25aOiUrlclA


完全に息の根を止められた格好で、このまま引退すると見る向きも多かった。復活の可能性は限りなくゼロに等しい。それでもなお、2度目のサウジ行きに応じたのは、400万ドルの最低保障(+PPVインセンティブ)が提示されたからというのがもっぱら。

パーカー戦で得た総額1千万ドル(推定)は無理にしても、PPVのセールス次第で700~800万ドルに届くとの見込み。

一方100万ドル(最低保障)と伝えられたジーレイの心中は察して余りあるが、こちらもPPVの件数如何で200~300万ドルまで跳ね上がる。何よりも、視線の先に見据えるパーカーとのリマッチを手繰り寄せる為にも、ワイルダーに長い時間を使うつもりはない。

打たれ脆さ+回復力の欠如という、我らがホルヘ・リナレスとまったく同じ爆弾を抱えるブラウン・ボンバーに、100パーセントの強打は不要。タイミングを計ったジャブを効かせて、ショートの左ストレートが顎から上のどこかに当たればジ・エンド。早い時間帯で決着を着けるのみ。


直前のオッズは、実に微妙なラインに落ち着いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ジーレイ:-150(約1.67倍)
ワイルダー:+125(2.25倍)

<2>betway
ジーレイ:-150(約1.67倍)
ワイルダー:+125(2.25倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ジーレイ:8/11(約1.73倍)
ワイルダー:6/5(2.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
ジーレイ:8/11(約1.73倍)
ワイルダー:7/5(2.4倍)
ドロー:22/1(23倍)


パーカー戦並みのコンディションに加えて、WBC王座に就いた当初にやっていた、ディフェンス重視の塩漬け安全策の徹底が最低条件にはなるけれど、中盤まで五分の展開をやりくりできれば、後半のジーレイは隙(穴)だらけになる。そこでもパーカーを良き手本として、大振りと深追いは厳禁。

危険な前半を無難にくぐり抜けて、ジーレイがヨレヨレになる後半~終盤まで、ワイルダーのハートが持つかどうか。パーカーのようにしっかり顎を引いて、ロング・ディスタンスの維持に意識を傾け、足で外すボリュームを増やす。

ハイリスクな近めの中間距離では、けっしてガードを緩めない。戦術的ディシプリンをどこまで保ち続けられるか。フィジカルの強度ではなく、ワイルダーに求められるのはメンタル・タフネス。


◎ジーレイ(41歳)/前日計量:282.8ポンド
前WBO暫定ヘビー級王者(V1)
戦績:29戦26勝(21KO)2敗1分け
アマ戦績:不明
2008年北京五輪銀メダル
2012年ロンドン五輪2回戦敗退
※A・ジョシュアにポイント負け(15-11)
世界選手権
2011年(バクー/アゼルバイジャン):3回戦敗退
2009年(ミラノ/イタリア):銅メダル
2007年(シカゴ/米国):銅メダル
2005年(綿陽/中国):ベスト8敗退
※オドラニエル・ソリス(キューバ/アテネ五輪金メダル)にポイント負け(17-7)
※階級:S・ヘビー級
身長:198センチ/リーチ:203センチ
左ボクサーファイター


◎ワイルダー(38歳)/前日計量:214.6ポンド
元WBCヘビー級王者(V10/在位:6年1ヶ月
戦績:47戦43勝(42KO)3敗1分け
アマ通算:30勝5敗
2008年北京五輪銅メダル
2007年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2007年全米選手権優勝
2007年世界選手権(シカゴ)初戦敗退
2007年プレ五輪(北京)準優勝
※階級:ヘビー級
身長:198(201)センチ,リーチ:211センチ
※Boxrecの記載が変更されている/カッコ内が以前の数値
右ボクサーファイター

◎前日計量


熱砂の闘い - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 プレビュー I -

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■6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)




巡礼で知られるイスラム教最大の聖地メッカ(マッカ)と、それに次ぐ聖地マディーナ(メディナ:ムハンマド=マホメットの墓とモスクがある)を擁し、近代的な高層ビル群と歴史的な遺跡が共存する砂漠都市リヤドで、英国を代表する2大ボクシング・プロモーションが、互いの面子とプライドを懸けた対抗戦を挙行。

昭和の時代にプロレス・ファンでもあった私などは、1986年に国技館(両国)で行われた新日本 vs UWFの「5対5勝ち抜き戦」をついつい思い出してしまう。

他にも、団体対抗戦の草分け的な全日本 vs 国際プロレス(1976年)や、新日本 vs UWFインター(1995年)などを経て、ミレニアム・イヤーに東京ドームで実現した全日本 vs 新日本(看板倒れの印象も否めない)等々、どうしてもプロレスチックなイメージが付いて回る。困ったものだ。


公表済みの対戦カード(対抗戦)は以下の通り。無事に前日計量も終えて、日本時間で明日未明
※国籍の後にあるアルファベット:「Q」=クィーンズベリー/「M」=マッチルーム

<1>ヘビー級12回戦
前WBO暫定王者/WBO2位 ジャン・ジーレイ(中国:Q) vs 元WBC王者/WBC7位 ディオンティ・ワイルダー(米/M)

<2>IBF世界ヘビー級暫定王座決定12回戦
IBF1位 フィリップ・フルコヴィッチ(クロアチア/M) vs IBF4位 ダニエル・デュボア(英/Q)

<3>WBC世界ミドル級挑戦者決定12回戦
WBC1位 ハムザ・シーラス(英/Q) vs WBA2位 オースティン・ウィリアムズ(米/M)

<4>WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 レイモンド・フォード(米/M) vs WBA8位 ニック・ボール(英/Q)

<5>L・ヘビー級12回戦
WBA5位 ウィリー・ハッチンソン(英/Q) vs WBO6位 クレイグ・リチャーズ(英/M)


そして、以上対抗戦5カードに加えて、L・ヘビー級で長期安定政権を築き、丁度2年前の5月にカネロを一蹴して大いに男を上げたドミトリー・ビヴォル(ロシア/キルギスタン)が、練習中に膝を負傷した3団体統一王者アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア)に代わり、緊急スクランブルに応じたマリク・ジナード(リビア/IBF2位)を迎えての防衛戦。

宿願の4団体統一戦は流れてしまったものの、首尾良く防衛に成功すれば、歴代2位となるWBA王座の連続V14=アーチー・ムーアに比肩し得る名王者ボブ・フォスターの大記録=に並ぶ。


◎LIVE配信:DAZN
配信開始:6月2日(日)3:00~ (予定)
※PPV:3,000円(サブスク月額にプラス)
https://dazngroup.com/press-room/0530/

DAZNの月額料金・お得な割引プランは?価格・入退会・支払・解約方法
https://www.dazn.com/ja-JP/news/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96/dazn-/191v1qw6f2r2s1moecxikituue



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■発祥の地英国のボクシング界を二分するフランク・ウォーレンとエディ・ハーン

◎FACE OFF | Frank Warren vs. Eddie Hearn
2024年5月30日/DAZN Boxing


ボクシングに限らず、ゴルフ,卓球,フィッシングからビリヤードやダーツまで手掛ける総合プロモーション,マッチルーム・スポーツの創業社長である父親バリー・ハーンから跡目を継承したエディ・ハーン(44歳)は、今最も勢いのある若手プロモーターの筆頭格。

首都ロンドンで生まれたハーンは、父の方針でエセックス州にある伝統的な小中高一貫教育の私立学校(寄宿舎)に入れられたが、意外にも勉学は不得手だったらしく、クリケットとフットボール(サッカー)に適性を発揮していたという。

父の懇願を聞き入れずに学校を去ったハーンは、ホーンチャーチ(イースト・ロンドン)にある高等教育大学に進んでビジネスやスポーツ・サイエンスの学科を取ったが、成績は褒められたものではなかった模様。


卒業後は、主にゴルフのマネージメントを管轄する部門で修行を始めて、オンラインポーカーのパブリシティで一応の成果を上げた後、プロ転向後に地域王座クラスで挫折したオードリー・ハリソン(シドニー五輪S・ヘビー級金メダル)から、キャリアのリメイクについて相談を受けたことをきっかけに、ボクシング部門における本格的な活動に着手した。

ハリソンの次にやって来た大仕事は、ロンドン五輪のS・ヘビー級を制したアンソニー・ジョシュアの獲得であり、ウェンブリー・スタジアムに8万人を集めたカール・フローチ vs ジョージ・グローブス第2戦のプロモートである。


「フローチ vs グローブス 2」の大成功により、英国最大手の衛星専門チャンネル「スカイ・スポーツ(Sky Sports)」との独占的な契約を実現(2015年~2021年)。積極的な引き抜き工作(英国内の王者クラス及び人気選手の契約切れを待って強奪)を仕掛けて拡大を続け、2017年にはジョシュア vs ウラディーミル・クリチコをまとめ上げ、再びウェンブリーを満杯(9万人超を集客)にすると、2018年5月DAZNとの契約を発表。

国際的な規模でのストリーミング配信の実施とともに、英国の大物プロモーターが果たせなかった本格的な米本土進出に乗り出す。オスカー・デラ・ホーヤが率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ&御大ボブ・アラムのトップランク連合軍 vs アル・ヘイモンが旗を振るPBC(Premier Boxing Champions)の対立が過熱する中、両派の間を上手に立ち回りつつ、フリーハンドのポジションを堅持。

デヴィン・ヘイニー,ジャロン・エニス,レジス・プログレイス,リチャードソン・ヒッチンズ,マーク・カストロ,ディオンティ・ワイルダーらの米国勢を支配下に治めるだけでなく、ファン・F・エストラーダとジェシー・ロドリゲスも手中にして、S・フライ級ダービーを完全に横取り。

ジェイ・オペタイア(豪=旧英連邦の代表格・極めて近い存在),スレイマーヌ・シソコ(仏/リオ五輪ウェルター級銅メダル),イスマイル・マドリモフ(ウズベキスタン)らとも契約を交わすなど、お膝元の英米(北米圏)以外にも着実に手を伸ばす。


2019年の暮れ、ハーンは「ジョシュア vs アンディ・ルイス 2」をサウジアラビアの首都リヤドで開催。イスラム教国家の宿痾とも言うべき、女性への対応を含めた人種政策への批判が常につきまとい、当初は困難なハンドリングが予想されたものの、潤沢なオイル・マネーの取り込みにまんまと成功。

ケイティ・テーラー,スカイ・ニコルソン,リアノン・ディクソン,エバニー・ブリッジス,ラムラ・アリ,テリー・ハーパー,エリカ・クルスといった女子の第一人者&人気選手を数多く手掛け、MMAに遅れを取る女子マーケットの開拓と確立にも抜け目がない。

武漢ウィルスの猛威が拡大の一途を辿る2021年4月、実父バリーが正式に隠居を表明(代表権を持つ顧問に退く)。エディ・ハーンは40代の若さでマッチルーム・スポーツの全権を掌握した。


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グレイター・ロンドン(行政区の1つで首都の広域都市圏に含まれる地域)のイズリントンに生まれたウォーレン(72歳)は、ブックメイカーを営む父の下で育ち、成人した後弁護士事務所で事務職に就いたが、プロボクサーの従兄弟からマネージメントを依頼され、ライセンスを得ないままボクシング界に身を投じた。

BBBofC(British Boxing Board of Control:英国ボクシング管理委員会)にライセンスを申請して認められたのは1980年だったとのことで、程なくしてBBCとボクシング中継の契約を結び、瞬く間に主要なプロモーターの列に並ぶ。

80年代後半~90年代前半にかけて、イングランド領内で爆発的な人気を呼んだヘビー級のスター,フランク・ブルーノを手掛けると、旗揚げしたばかりの新興WBOを最大限に利用。

クリス・ユーバンク,ナイジェル・ベン,スティーブ・コリンズ,ジョー・カルザゲ(S・ミドル級4強)をスターダムに押し上げるとともに、軽量級に出現した異才ナジーム・ハメドを擁して、第二次大戦以降、宿命にして永遠のライバル,にっくき王国アメリカの後塵を廃止続けた発祥国のプライドと勢いを回復する。

自ら立ち上げた興行会社「スポーツネットワーク」の試合を「スカイ・スポーツ)」で中継するだけでなく、米国Showtimeの定期放送枠にも押し込み、精力的に事業規模を拡大して行く。


世紀が変わると、S・ミドル級4強&ハメドが終焉。入れ替わるように登場してきたリッキー・ハットン,アミル・カーンら軽中量級のスターをスカウトして勢力維持に努めたが、ハットンとカーンに相次いで去られ、クルーザー級の3団体を統一したデヴィッド・ヘイの獲得にも失敗してしまう。

さらにカルザゲとの間で勃発した金銭を巡る裁判で敗訴(2009年に確定/当時のレートで3億円に近い支払いを命じられた)。スポーツネットワークは法的な管理下に置かれることとなり、足場を失ったウォーレンは2010年に新たな興行会社「クィーンズベリー・プロモーションズ(Queensberry Promotions)」を設立。

翌2011年には、「ボックス・ネイション(BoxNation TV channel)」をスタートさせ、スカイスポーツに替わる配信チャネルの確立に急ぐ。苦しく厳しい第二の黎明期を支えたのが、ヘビー級の問題児デレク・チソラとS・ミドルのニュースター,ビリー・ジョー・サンダースだった。


その後はタイソン・フューリーを皮切りに、ジョー・ジョイス(リオ五輪銀メダル),ダニエル・シュボア(ジュニア・ユースで活躍),デヴィッド・アデレィエ(ABA=アマの全英選手権で名を馳せる),モーゼス・イタウマ(2022年ユース欧州選手権金メダル)らヘビー級のスカウトを継続する。

軽量級では、マッチルームから引き抜いたジョシュ・ウォーリントン(フェザー級)にIBFのベルトを獲らせた他、S・バンタム級のリアム・ディヴィスらを発掘育成。ウォーリントンをマッチルームに奪還されたが、火の玉小僧ニック・ボールをコンテンダーに押し上げるなど、スポーツネットワーク時代の最盛期に引けを取らない隆盛ぶり。

◎FURY v USYK IN SAUDI ARABIA? - FRANK WARREN REACTS TO HEARN STEP-ASIDE COMMENTS ON AJ & YARDE KO WIN
2021年12月5日/iFL TV


ディーノ・デュバと契約して、メダルを逃したロンドン五輪終了後の2014年に渡米した北京大会S・ヘビー級銀メダリストのジャン・ジーレイは、なかなか希望通りの処遇を得られず、2019年以降マッチルームの傘下に入って巻き直しを図るも、フィリップ・フルコヴィッチに喫したプロ初黒星(IBF挑戦者決定戦)の判定を巡ってハーンと仲違い。

この機を逃さず中華の巨人を手中に収めたウォーレンは、WBOから王座決定戦を融通して貰い、ジョイスのステップボードにするべく首都ロンドンでの開催に漕ぎ着けたが、まさかの2連続KO負け(昨年4月・9月)。

手駒として確保したフューリー(ボブ・アラムとの共同プロモートでワイルダーを完全に駆逐)と、凋落傾向が明らかなアンソニー・ジョシュアの後釜に据える目論見を大きく外したのは、痛恨の大失態(読み違い)ではあった。


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■キングダム・アリーナ(Kingdom Arena)

サウジアラビアの総合娯楽局が開発を計画・指揮し、「ブールバール・ホール(Boulevard Hall)」 と命名して整備され、昨年秋にオープンした2万6千人収容の屋根付きサッカー・スタジアム。

ナショナル・チームに大量の代表選手を送り出す「アル・ヒラル」の本拠地(2024年シーズン~)でもあり、同チームの実質的な経営権を持つ「キングダム・ホールディング(Kingdom Holding Company:サウジの権力を一手に握るサウード家のアル・ワリード王子が保有する/事実上の国営企業)」が運営権を取得したことから、現在の名称に変更されている。

◎Riyadh Season 2023 Opening Ceremony in Kingdom Arena | Boxing With Tyson Fury vs Francis Ngannou



毎年10月~翌年3月まで、国費で開催される恒例のエンターテイメント&スポーツ・フェスティバル「リヤド・シーズン(2023)」の拠点としても使用され、「タイソン・フューリー vs フランシス・ガヌー戦(2023年10月28日)」は、開幕を飾るビッグ・イベントと位置づけられ同スタジアムで行われた。

開催期間中に国内外から訪れる観光客は、500万人超と公表されている。半年続くフェスティバルだと思うと、一切合財すべてについて大盛況と書くことを躊躇してしまう。海外からの誘客が占める構成比など、詳しいデータを調べていないので何とも言いづらいが、国外から流入する人たちは間違いなく富裕層の筈だから、滞在期間もそれなりの長さになるのだろう。

宿泊費と遊興費、食費や買い物(土産物を含む)等々、落として行くお金は相当な額に上ると思われる。メイウェザーが登場する週末のラスベガスで、林立する巨大カジノホテル群の宿泊費が軒並み高騰したのに近い感覚と言えば多少は分かり易くなる?。

◎Riyadh Season 2023 Opening Ceremony in Kingdom Arena | Boxing With Tyson Fury vs Francis Ngannou



そして302メートルの高さを誇り、アル・ファイサリア・タワーと並び、首都リヤドを象徴するランドマークにもなっている「キングダム・センター(Kingdom Centre:2002年オープン)」は、「キングダム・ホールディング」が直接開発を手掛けた。

ハリウッドのSF映画に出てきそうな、いかにも近未来的なデザインでありながらも、夜間にライトアップされると、古代遺跡を思わせる幻想的な雰囲気を醸し出すタワーの77階に設営されたモスクは、世界で一番高い場所にあるとのこと。

◎Riyadh Kingdom Centre, Saudi Arabia - Webuild Project



サウジアラビアは「無税」と喧伝されることも多いが、「ザカート」と呼ばれる制度的な喜捨(浄財)が税の役割を果たしている。また、「サダカ」という義務化されていない喜捨(いわゆる寄付?)」もあり、両者は明確に区分けされているという。

いずれも有名な「イスラム5行(信仰の告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼)」に含まれており、サウジ国内で暮らすイスラム教徒が1年以上保有している私的財産(現金・家畜・農作物・商品など:税率はそれぞれ異なる)が対象となる。

税率は非常に低く(現金:2.5%/対象によって異なる)、オイル・マネー頼みの財政運営は年々歳々厳しさを増しているらしい。

サウジ国内で活動する外国人や外国企業にも異なる税率で課せられるとのことだが、詳しい分類と税率はよくわからない。

◎福田安志(日本イスラム協会)
サウジアラビアにおけるザカートの徴収 - イスラームの税制と国家財政 -
https://www.jstage.jst.go.jp/article/theworldofislam/55/0/55_73/_pdf/-char/ja#:~:text=%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E%E3%81%AE,%E4%B8%8A%E5%AD%98%E5%9C%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82

モンスター改め白虎(びゃっこ)が黒彪を一呑み? - 東京ドーム4大決戦 プレビュー 1-4 -

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■5月6日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)




※ファイナル・プレッサー(公式フル映像)
2024年5月/4日/Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=x0qn6Ihs2Po


■ネリーが狙う”打倒モンスター対策”

これはもう、火を見るよりも明らか。

「ドネア第1戦の再現」以外に有り得ない。きっかけと方法は何だって構わない。早い時間帯にガツンと1発かまして、効かせるかどこか怪我をさせるか。

眼窩底骨折の重傷を負って、一時的に右眼の視力を失った尚弥は、巧まざるインサイドワークで百戦錬磨のドネアを騙し続けて、何度かの危機を乗り越え、強烈な左ボディで決定的なダウンを奪い、念願のアリ・トロフィーを高く掲げた。

しかし、ドネアに通じた駆け引きなど、ネリーは一気呵成の突進と自慢の連打を回転させてゴリゴリの乱打戦に持ち込み、そのまま力でねじ伏せる。尚弥のカウンターで逆襲されグラついても、身体のどこかにしがみついてでも耐え凌ぎ、ホヴァニシアンと同じ目に遭わせて最後は打ち倒す。


「死を賭して戦う。血塗れにする。」

ファイナル・プレッサーで語った物騒な覚悟、公開練習でトレーナーとともに言及した「モンスターの小さからぬディフェンスの穴」発言、そして公式インスタグラムで公開した例の壁画も、その背景には夥しい血痕が描かれていた。

「イノウエは必ずKOを狙って来る。後生大事にポイントメイクなんてしないだろう。オレを安く値踏みしたなら尚更だ。」

「ガンガン来るならしめたものだ。下がって距離を取ろうとしたら、密着してグシャグシャにしてやる。」





壁画


尚弥のファースト・コンタクトを待って、いきなりの相打ちを仕掛けるのか、それとも開始ゴングと同時に猛然と襲い掛かるのか。あるいは、そのどちらもなのか。いずれにしろ、立ち上がりの出方が大きなカギを握る。

フルトン戦とタパレス戦のように、正面に立っての駆け引きは危険。構えと視線,雰囲気だけで圧力をかけて後退させるのではなく、スパーリングで三代大訓(みしろ・ひろのり/国内ライト級の第一人者)を驚愕させた、一瞬たりとも気を抜くことのない凄まじいまでに研ぎ澄まされた集中力をそのままに、ロング・ディスタンスをキープしながら脚を使って距離で捌く。

比嘉大吾との公開スパーリング(2021年2月11日/国立代々木第一体育館/チャリティー・イベント:Legend)で見せ付けた、華麗かつスピードに溢れたフットワーク。あの時ほど魅せることを意識する必要はない。

ネリーの出足を読んで素早く動き、死角から鋭いジャブ&右ストレートを突く。クリンチすら許さない、徹底したサークリングでネリーを翻弄する。ロールモデルは、伝説の石の拳に「ノー・マス」と言わせた、再戦におけるシュガー・レイ・レナード。

序盤の4ラウンズは、他に何も要らない。8割以上の本気のパンチは数発でOK。その中でカウンターのチャンスがあり、それで決まればそれもまた良し。


ネリーは確かにディフェンスに無頓着なところがあり、とりわけジャブに対する反応が鈍い。ただし、あの粗さは誘い水の役割も果たしていて、調子に乗ってワンツーで踏み込む瞬間を、パンテーラは虎視眈々と狙っている。山中を最初に倒したパンチも、ゴッドレフトに合わせたショートのカウンターだった。

ジャブを多少浴びたくらいでは、ビクともしない打たれ強さへの自信がある。さらに、致命的な一撃から身を守るボディワークにも相応の手応えを持っていて、L字の構えを取り、状態を斜めに倒し首を振り、”神の左”をもいなして見せた。そうして一発効かさることさえできれば、立て直す暇を与えない強打の回転が始まる。

メキシコのトップボクサーは、あのビクトル・ラバナレスのように、ディフェンスそっちのけでガンガン振り回すブル・ファイターでも、いざとなったらアウトボクシングで時間を稼ぐ器用さも併せ持つ。


タイで上り調子のシリモンコンとやった時、大幅なリバウンドでウェルター級近くまで戻したヤング・チャンプの馬力に苦しんだラカンドンは、名匠ナチョ・べりスタイン仕込みのステップワークでイケイケのプレスに対抗していた。

日本人キラーとして名を馳せたオスカー・ラリオス然り。バンタム級で当たるを幸い倒しまくっていたジョニー・ゴンサレスも、階級を上げて簡単に勝てなくなってからは、丁寧なボクシングも混ぜるようになったし、ジュニア・ジョーンズによもやのKO負けを食らった後、マルコ・アントニオ・バレラもアウトボックスのボリュームを増やして延命を図っている。

ネリーもそれなりにやれそうだが、過去の試合を振り返ると、やはり技術戦が得意そうには見えない。パワーへの分厚過ぎる信頼故に、「オレにはそんなものは不要」と考えているのかもしれず、実際にやればできるのかもしれないが・・・。


Camp Life: Inoue vs Nery | FULL EPISODE | Undisputed Fight Monday Morning on ESPN+
2024年5月2日/トップランク公式





スタートの4ラウンズを「デュラン2のレナード」で幻惑翻弄すれば、我慢できなくなったネリーが。それこそ遮二無二突進して来る。頭の衝突だけに気を付けて、くっつかれる前にサイドステップで安全圏に逃げつつ、ガードがバラけても委細構わず、身体を翻してさらに追いすがろうとするパンテーラに、強烈無比な右ストレートを叩き込む。

ガクンと膝が揺れたら、すかさず左の連打(上下)で畳み掛け、最後はロープかコーナーに詰めてドネア2,フルトンと同じフィニッシュ。

余りにも安易かつ荒唐無稽な妄想だと笑われるだろうが、”パワー・ハウス”ならぬ”ファンタジスタ・ナオヤ”も悪くないと、本気でそう思っている。


とにかくネリーは、この一戦さえモノにできれば、後はもうどうなってもいいというぐらいの覚悟を決めてモンスターに対峙する筈。ゆめゆめ油断することは無いと信ずるけれど、スタートはどこまでも慎重に距離を取って。

ロング・ディスタンスのキープに努めて欲しい。


身銭を切って賭けてる連中は、どんな様子だろうか。発表直後と直前のオッズを見比べてみよう。


□主要ブックメイカーのオッズ
◎3月19日
<1>betway
尚弥:-1408(約1.07倍)
ネリー:+700(8倍)

<2>FanDuel
尚弥:-1100(約1.09倍)
ネリー:+640(7.4倍)

<3>DraftKings
尚弥:-1200(約1.08倍)
ネリー:+700(8倍)

<4>ウィリアム・ヒル
尚弥:1/12(約1.08倍)
ネリー:13/2(7.5倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
尚弥:1/10(1.1倍)
ネリー:6/1(7倍)
ドロー:20/1(21倍)

◎5月4日
<1>BetMGM
尚弥:-1200(約1.08倍)
ネリー:+750(8.5倍)

<2>betway
尚弥:-1587(約1.06倍)
ネリー:+750(8.5倍)

<3>ウィリアム・ヒル
尚弥:1/16(約1.06倍)
ネリー:7/1(8倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
尚弥:1/12(約1.08倍)
ネリー:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)

MGMもしっかり並び、少しづつだが差は開いている。パンテーラのパワーショットと旋風のような勢いに一抹の怖さを認めつつ、総合力に優るモンスターが明白なアドバンテージを有する。大方の見立てが、そうした結論に辿り着く。

ファン・C・パジャーノ戦並みとまで贅沢は言わない。でも、パワーでねじ伏せるボクシングではなく、技&スピードで倒す”芸術的なKO”を久々に見てみたい。

期待値などではなく、当然の帰結として中盤までのKO防衛。


◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:26戦全勝(23KO)
現WBC・WBO統一S・バンタム級王者
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:21戦全勝(19KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎ネリー(29歳)/前日計量:120.8ポンド(54.8キロ)
現WBC S・バンタム級(V0) ,元WBCバンタム級(V0)王者
戦績:36戦35勝(27KO)1敗
アマ戦績:9戦全勝(5KO・RSC)
身長:165センチ,リーチ:167センチ
※山中第2戦の予備検診データ
左ボクサーファイター


ネリーの500グラムアンダーについて、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。調整の失敗に言及するインフルエンサー(あくまでボクシングの話題限定)も居て、なかなかにかまびすしい。

しかし、ネリーは130ポンド契約でカルモナ戦をやったかと思えば、直近のサルダール戦を119ポンドで仕上げたり、大胆にウェイトを上げ下げしている。本気で追い込めば、今でもバンタム級でやれないこともないのでは?。

自身もピークにあったS・フライ級時代、WBOのベルトを保持する尚弥にアタックして、慢性化した減量苦+右拳の負傷に腰痛まで加わり、満身創痍の割引モンスターだったとは言え、12ラウンズをフルに持ち応えたカルモナに130ポンドを呑ませたのは、前戦から8ヶ月の間隔が開いて完全にオフしていた為だろう。

僅かでもオーバーした瞬間、ボクシング人生最大のビッグ・マネー・ファイトを、リザーバーのT・J・ドヘニーにさらわれてしまう。何があってもリミット以下に落とさなければと、素行不良の問題児なりに取り組んだ結果だと考えるのが妥当。

◎前日計量(トップランク公式チャンネルにアップされたハイライト)


◎Inoue Picks Gloves, Has Final Words for Nery | Undisputed Fight Monday Morning ESPN+
トップランク公式(グローブチェックの様子と囲みのインタビューを収めた別バージョンのハイライト)


◎前日計量フル映像(公式)
Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=wgw-XvtA9ag


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■オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
ホセ・アルベルト・トーレス(プエルトリコ)
アダム・ハイト(豪)
ベノイ・ルーセル(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ドゥウェイン・フォード(米/NABF会長)
IBF:安河内剛(日/JBC事務局長)
WBO:レオン・パノンチィーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)


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■無料公開された公式映像
<1>【無料公開】『独占密着 井上尚弥VSルイス・ネリ 東京ドーム決戦直前SP』 |プライムビデオ
(1)#1 “最強”のキャリアに「まだ満足していない」と語る井上尚弥。
https://www.youtube.com/watch?v=P3_ROltzHoo

(2)#2 「激闘で汚名を返上する」と語る“最恐”ルイス・ネリ。
https://www.youtube.com/watch?v=8du9Gqf-koU

(3)#3日本ボクシング界34年ぶりに行われる東京ドーム決戦。
そこには世界に挑む5人の日本人選手それぞれの物語があった。
https://www.youtube.com/watch?v=1VOyDMnkevE


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■単独インタビュー 大橋秀行会長、井上尚弥に託した東京ドーム「特別な思い」 
5・6ボクシング4大世界戦あと4日
2024年5月2日/サンケイスポーツ
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/sanspo/sports/sanspo-_sports_others_Y3IG3FYPJNNF5EZTOVDLTKX3PM?redirect=1


モンスター改め白虎(びゃっこ)が黒彪を一呑み? - 東京ドーム4大決戦 プレビュー 1-3 -

カテゴリ:
■5月6日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)




■ドーピング違反&体重オーバー対策

3月6日に大橋会長が取材陣に方針を語り、その後明らかにした”ネリー対策”を時間軸に沿って示す。

<1>2024年2月20日:JBCがネリーのサスペンド(日本国内の無期限資格停止)解除に着手
<2>2024年2月26日:JBCがネリーのライセンス容認を正式発表
<3>2024年3月6日:発表会見(反省モードのネリー/終始一貫殊勝な態度+取材陣の前で山中に謝罪)
<4>2024年3月6日:WBCによる厳格なウェイトの監視+抜き打ちのドーピングテスト実施を公表
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□予備計量
1)3月4日 試合45日前(上限規定無し):井上61.2キロ/ネリー134ポンド(約60.8キロ)=書類での提出
2)4月6日 30日前(リミット+10%=134.2ポンド/60.8キロ):井上60.5キロ/ネリー130.6ポンド(約59.2キロ)
3)4月19日 14日前(リミット+5%=128.1ポンド/58.2キロ):井上58.1キロ/ネリー127.6ポンド(約57.9キロ)
4)4月29日 7日前(調印式リミット+3%=125.7ポンド/57.0キロ):井上57キロ/ネリー124.8ポンド(56.6キロ)
※急激な体重減少の抑制・監視に努める
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<5>2024年3月21日:メキシコのViva Promotionsがネリーのドーピング検査クリア公表
※ネリー自身もリポスト
<6>2024年4月10日:万が一の事態に備えてT・J・ドヘニー招聘を発表(ノンタイトルマッチを用意した上でリザーバーに指名/4団体とも承認済み)
<7>2024年4月18日:WBCが両者のランダム・テストクリアを公表
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前日計量の前に、合計4回の予備計量を実施。さらに、WBCの全面的な支援により、「VADA(The Voluntary Anti-Doping Association )」が複数回の抜き打ちドーピング検査を行う。

2016年5月、WBCは「クリーン・プログラム」と称する独自のドーピング検査規定を導入した。WBCの世界チャンピオンと全階級のランカーに対して、五輪基準の抜き打ち検査を義務付けし、該当する選手がプログラムへの登録を拒否した場合、ランキングから除外される(王者はベルトはく奪+除外)。

検査を委託されたのは、上述したVADA。ラスベガスに所在する民間検査機関で、対戦を切望するフロイド・メイウェザーからドーピング違反を疑われたマニー・パッキャオの潔白を証明するべく、ボブ・アラム率いるトップランクが五輪基準の抜き打ち検査を依頼したのが、ボクシング業界と関わりを持つ発端となった。

同様に禁止薬物の使用を公然と噂されたノニト・ドネアも、VADAの協力を得てアマチュアと同様の「競技会外検査」を実施。向こう1年間のトレーニングに関する行動予定表(居場所情報)を提出し、検査員(DCO:ドーピングコントロールオフィサー)が予告無しに現れ、血液&尿検査をランダムに実施する。

尚弥自身、昨年3月16日付けの公式Xで「週二は来すぎでしょ。」と、VADAのランダム・テストを受けたことを報告している他、SNSと動画配信による情報発信に積極的な赤穂亮が、youtubeの公式チャンネルで「本当に突然来た」と明かしていた。

VADAの検査員がノーアポで横浜光ジムに現れ、その時間にジムワークを予定していなかった赤穂は、緊急招集を受けて大急ぎでジムに駆けつけたらしい。

WBC&WBOの2冠王スティーブン・フルトンへの挑戦が正式にリリースされたのが、奇しくも1年前の3月6日。それから1週間ほどして、VADAの検査員が立て続けに2度も訪れた。




洋の東西を問わず、プロスポーツの統括団体は五輪基準の厳格なテストに否定的で、世界中を震撼させた「バルコ・スキャンダル(2003年発覚)」を経験した王国アメリカにおいても、基本的な構図は今も変わらない。

ボクシングとMMAを所管する全米の各州アスレチック・コミッション(もしくは統括部局)は、試合前後の尿検査のみを義務付けている。

血液検査を含むランダム・テストをやらないのは、ヒューマン・リソース込みの経済的な理由によるものだが、実態はもっと本質的な経済原則に基づく。人気選手を片っ端からサスペンドしていたら、興行が成り立たない。

パッキャオを激しく非難したメイウェザーは、五輪基準のランダム・テストにいち早く取り組んだボクシング界の先駆者として知られているが、試合の契約を交わす都度、任意の条項として対戦相手に実施を要求し、USADA(U.S. Anti-Doping Agency:米国アンチ・ドーピング機関)に検査を依頼している。

大金を稼ぐ千載一遇のチャンスを棒に振るボクサーが居る訳もなく、メイウェザー戦をオファーされれば、USADAのランダムテストを拒否する変わり者はまずいない。


アラムが「検体のすり替えやデータの改ざん」といった不正のリスクに言及し、USADAではなくVADAを選んだのは、「メイウェザーに利する」ことを嫌った交渉上の駆け引きだが、同時にメイウェザーの試合が行われるラスベガス(MGMグランド)を管轄するネバダ州へのけん制も兼ねていた。

メイウェザー自身にも複数回の陽性反応に関するリークがあり、ネバダ州による隠蔽疑惑の噂が流れたり、5年超の時間を経てようやく実現したパッキャオ戦では、前日計量を終えた後、回復を促進する為「合法の薬品をWADAが禁止する方法(静脈注射:点滴)」で摂取したことが明らかとなっている。

メイウェザーは「ネバダ州のルールには抵触していない」と開き直ったが、自身が立ち上げたプロモーションの支配下選手が相次いでドーピング違反で処分を受けるなど、無傷を主張できる立場にはない。

カネロにレイ・バルガス、フリオ・C・マルティネス,フランシスコ・バルガス・・・。メキシコ産牛肉を言い訳にしたクレンブテロール(ジルパテロール)の悪用は、今やメキシカントップボクサーの常套手段と化した感さえある。

ブラジルの五輪金メダリスト,ロブソン・コンセイソンとの防衛戦(2021年9月/アリゾナ州ツーソン)に際して、WADA(World Anti-Doping Agency:世界アンチ・ドーピング機関)が禁止薬物に指定するフェンテルミン(向精神薬)の陽性反応を示したオスカル・バルデスは、「常飲していたハーブティーが原因」だとのたまい、WBCも「基準値を超えたと言っても、極めて微量だった」と仰天するような言い訳を押し通し、タイトルマッチを容認(開催はあくまでアリゾナ州)。

メキシカン優遇が目に余るWBCを盲信することも憚られるが、井岡一翔との一件(入れ墨問題に続く大麻成分の陽性反応)で、お粗末過ぎて話にならないドーピング検査体制を露呈したJBCに、前歴者ネリーとの試合運営を全面的に委ねることはできない。


各国の有力なプロモーターとズブズブの世界王座認定機関が、本来コミッションの領分である筈のドーピング検査をやるのは筋違いなのだが、適切な検査体制をJBCに期待できない以上、WBCを通じてVADAに頼る以外に現実的な解決策がないことも事実。。ことドーピング検査に関する限り、「JBCよりはマシ」という結論にならざるを得ない。

本来なら、JADA(Japan Anti-Doping Agency:日本アンチ・ドーピング機構)のバックアップを仰ぎたい場面ではあるものの、JBCのJADA加盟は夢物語。日本国内で行われるJBC管轄の公式戦は無論のこと、ライセンスを認めたすべてのプロ選手に対して、定期的な尿検査の義務付すらできないのが現実(コスト負担に耐えられない)。
※五輪基準を満たす必要があるアマチュアを統括する日連(日本ボクシング連盟)はJADA加盟団体

ましてや、血液検査を含むランダム・テスト(抜き打ち検査)など以ての外。誰がその費用を調達・負担するのか・・・。


山中 vs ネリー第1戦と同様、直近の抜き打ち検査の結果が公表されるまで、試合が終わってから、早くとも数週間を要するだろう。

開始前のリングコールに際して、我が国の世界戦では「コミッショナー宣言」が必ず行われる。厳正な予備検診と計量をパスしたから、JBCはこの試合を正式に世界タイトルマッチとして認める云々という例の下りだ。

試合を所管するコミッショナーとして当然なのだが、ならばドーピング違反が発覚した場合、欧米に倣って結果をノーコンテストに改めるべきなのに、嘆かわしくもJBCにはその責任を果たす気が無い。

WBCは山中をチャンピオンとして再承認する意思を日本側に伝えたが、「どういう理由があるにせよ、KO負けしておいてそれはできない」と断っている。潔いのは素晴らしいことだが、王国アメリカやメキシコの関係者と選手たちが聞いたら、口をあんぐりと開いて「日本人はバカなのか?」と呆れる筈だ。


>> Part 4 へ


◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:26戦全勝(23KO)
現WBC・WBO統一S・バンタム級王者
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:21戦全勝(19KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎ネリー(29歳)/前日計量:120.8ポンド(54.8キロ)
現WBC S・バンタム級(V0) ,元WBCバンタム級(V0)王者
戦績:36戦35勝(27KO)1敗
アマ戦績:9戦全勝(5KO・RSC)
身長:165センチ,リーチ:167センチ
※山中第2戦の予備検診データ
左ボクサーファイター


ネリーの500グラムアンダーについて、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。調整の失敗に言及するインフルエンサー(あくまでボクシングの話題限定)も居て、なかなかにかまびすしい。

しかし、ネリーは130ポンド契約でカルモナ戦をやったかと思えば、直近のサルダール戦を119ポンドで仕上げたり、大胆にウェイトを上げ下げしている。本気で追い込めば、今でもバンタム級でやれないこともないのでは?。

自身もピークにあったS・フライ級時代、WBOのベルトを保持する尚弥にアタックして、慢性化した減量苦+右拳の負傷に腰痛まで加わり、満身創痍の割引モンスターだったとは言え、12ラウンズをフルに持ち応えたカルモナに130ポンドを呑ませたのは、前戦から8ヶ月の間隔が開いて完全にオフしていた為だろう。

僅かでもオーバーした瞬間、ボクシング人生最大のビッグ・マネー・ファイトを、リザーバーのT・J・ドヘニーにさらわれてしまう。何があってもリミット以下に落とさなければと、素行不良の問題児なりに取り組んだ結果だと考えるのが妥当。

◎前日計量(トップランク公式チャンネルにアップされたハイライト)


◎Inoue Picks Gloves, Has Final Words for Nery | Undisputed Fight Monday Morning ESPN+
トップランク公式(グローブチェックの様子と囲みのインタビューを収めた別バージョンのハイライト)


◎前日計量フル映像(公式)
Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=wgw-XvtA9ag


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■オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
ホセ・アルベルト・トーレス(プエルトリコ)
アダム・ハイト(豪)
ベノイ・ルーセル(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ドゥウェイン・フォード(米/NABF会長)
IBF:安河内剛(日/JBC事務局長)
WBO:レオン・パノンチィーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)


モンスター改め白虎(びゃっこ)が黒彪を一呑み? - 東京ドーム4大決戦 プレビュー 1-2 -

カテゴリ:
■5月6日/東京ドーム/4団体統一世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
統一王者 井上尚弥(日/大橋) vs WBC1位 ルイス・ネリー(メキシコ)


■WBCは信頼に足る組織なのか?

JBCの無期限出場停止(JBCの権限が及ぶ日本国内限定)を支持するとの態度を明らかにしたWBCだが、山中との再戦から7ヶ月後の2018年10月、ネリーはフィリピン人ローカル・ランカーを呼び、地元ティファナであっさり復帰。なおかつ、WBCはバンタム級のシルバー王座を承認した。

2019年3月と7月、いずれもバンタム級契約で、マックジョー・アローヨ(米/元IBF J・バンタム級王者/アンカハスに敗れてバンタム級に進出)とファン・C・パジャーノ(ドミニカ)を連破。

◎試合映像:ネリー RTD4R アローヨ


◎試合映像:ネリー 9回KO パジャーノ



復調をアピールしたネリーは、11月23日にエマヌエル・ロドリゲスとのエリミネーター(WBC)に同意したが、前日計量で1ポンドオーバー。すぐに水分補給を行い、再計量を拒否したネリーに激怒したロドリゲス陣営は、報酬の増額をもちかけられても応じず出場を拒否。大きなトラブルに発展した。

実力者ロドリゲスを前に、性懲りも無く意図的な体重超過をやらかす。勝つ為には手段を選ばない。山中に対する狼藉を反省するどころか、本性がまったく変わっていないことを自ら暴露した。

ロドリゲスとの指名戦を潰したネリーは、S・バンタム級への階級アップを正式に表明。この時点でネリーはWBCのランキングに入っていなかったが、二桁台の下位ランカー,アーロン・アラメダ(メキシコ)とのエリミネーターが承認される(2020年2月)。

3月28日にラスベガスのパーク・シアターで行われる予定だったが、パンデミックの影響でCDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)が150名を超えるイベントの中止を決定。

7月18日にロサンゼルス開催でリ・スケジュールされ、さらに8月1日(コネチカット州アンキャンスビル)、8月29日(開催場所は変わらず)と変遷する。この間WBCは、7月の月例ランキングでネリーをS・バンタム級の1位に据えた後、8月14日はフェザー級への転出が規定の路線になっていたレイ・バルガスから、S・バンタム級の正規王座をはく奪。

パンデミックによる休止に加えて、バルガスは足の怪我を理由に、亀田和毅との防衛戦(2019年7月/V5)以降リングから遠ざかっていた。


再延期を繰り返したネリー vs アラメダ戦は、空位となった王座決定戦に昇格。9月26日にコネチカットのモヒガンサン・カジノでゴングが鳴り、サイズで勝りタフなアラメダを攻めあぐねたが、小~大差の割れた3-0判定勝ち(115-113,116-112,118-110)。WBCの強引な後押しを受けて2階級制覇を達成。

◎試合映像:ネリー UD12R アラメダ



陣営は一気に勝負に出て、WBA王座を保持するテキサスの雄,ブランドン・フィゲロアとの統一戦に臨み、アラメダ戦に続いて自慢のパワーで押し切ることができず、激しい打撃戦の末に左ボディのカウンターで見事にレバーを抉られ、苦痛にうめきながらの7回KO負け。

パジャーノを悶絶させた左のレバーブローをまともに食らい、同じように苦悶するネリーの姿を見て、フィゲロアに声援を贈った多くの日本のファンは大喜び。長身痩躯のフィゲロアは、ベイビーフェイスの二枚目とは裏腹なファイタータイプで、試合の度に丁々発止の白兵戦に雪崩れ込み顔を腫らす。

ネリーが放つ右強打で開始早々グラついたが、強靭なフィジカル・タフネスを頼りに持ち直して、ネリーの顔面にも多くの傷を付けた。

◎試合映像:フィゲロア KO7R ネリー



フィゲロアにプロ初黒星を献上した後、ネリーは4戦をこなして全勝(3KO)。2022年2月の再起戦は、アリゾナ在住で無傷の27連勝(12KO)を更新中のカルロス・カストロに攻勢を許し、小差の2-1判定で何とか勝ち残ったが、同年10月に130ポンド契約(!)で組まれたデヴィッド・カルモナ(115ポンドを主戦場にして不調だったとは言え井上尚弥相手に判定まで粘っている)との調整試合を3回KOで一蹴。

WBCからエリミネーター(いったい何度目?)に指定された昨年2月のホヴァニシアン戦を11回KO(カリフォルニア州ルールでレフェリーストップもKOになる)で生き残る。

カルモナ戦を除く3試合をS・バンタム級リミットの調整を経験して、ようやく122ポンドに身体がフィットしてきた印象を与えたが、昨年7月のチューンナップは、119ポンドでの調整。

フライ級で木村翔のWBO王座に挑み、6回KOに散ってバンタム級にアップしたフロイライン・サルダール(比)を、メキシコシティ近郊のメテペクで2回に粉砕。サルダール(118ポンドで計量)のウェイトに合わせたとも取れるが、バンタム級への出戻りを模索した可能性も否定できない。

◎試合映像:ネリー KO3R カルモナ
Zanfer Promotions


でっぷりと肥えたカルモナに比べると、重そうではあるものの、ネリーの上半身は思いのほかシェイプを保っている。フィジカルのポテンシャルが高いのは疑う余地がなく、IBFルールのリバウンド制限(リミット+10ポンド)&当日計量を義務付けした方が良かったのではないかと、要らぬ老婆心が鎌首をもたげて困ってしまう。

55.2キロ(S・バンタム級のリミットを100グラムアンダー)で仕上げた尚弥も、一晩で61キロ前後(ライト級リミット)まで戻す。増量はおおよそ13ポンドになり、IBFが定める上限をオーバーする。IBFルールを避けたのは、尚弥自身の調整も考えてのこと。

カルモナ戦の映像を見ると、ネリーは余裕で140ポンドのS・ライト級か、142~143ポンドのウェルター級まで増やしてくるかもしれない。


◎試合映像:ネリー TKO2R サルダール


ネリーが存分に本領を発揮できるのは、やはりバンタム級だという気がする。これぐらい絞らないと、山中をあっという間に追い詰めたキレと迫力,一気呵成の勢いが出ない。相手のサイズと耐久性も含めて、S・バンタム級では本来の良さを活かし切れないと感じる。


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■ホヴァニシアン戦の評価

リング誌が2023年度のファイト・オブ・ジ・イヤーに選出したこの試合は、「打たれ強さ&強打」という、互いの持ち味が最大限に発揮されたグッド・ファイト。ダメージも甚大だったと思う。

最後は爆発力に勝るネリーに軍配が上がったけれど、ホヴァニシアンにあと少しの狡猾さがあったら、逆の目が出ていた可能性も高い。文字通りの一進一退であり、命を削るような打撃戦だった。

◎ネリー 11回KO ホヴァニシアン



ホヴァニシアンの頑強さには以前から定評があり、NHKのドキュメンタリーが一瞬だけ捉えていた尚弥とのスパーリングでも、少々打たれても怯まない心身の強さが良く出ている。

ネリーの強打も真正面から受け止めるに違いなく、フィゲロア戦で既に証明されていたことではあるが、パンテーラの打たれ強さがS・バンタムでも頭1つ抜けたものかどうか、アルメニアの破壊神が証明してくれると誰もが思った。

かく言う私は、ダウンの応酬も込みでホヴァニシアンの終盤ストップ勝ちを予想したが、どちらも外れてネリーに凱歌が上がる。敗れたホヴァニシアンは潔くネリーを賞賛。ステロイドの助けを借りずにここまでやれたのなら、S・バンタムにアジャストしたと評していいのではないか。

いくばくかの疑念も残しつつ、そう思った。


S・バンタムに上げて以降、アラメダ戦,フィゲロア戦,カストロ戦と厳しいマッチアップが続き、山中を粉砕した圧倒的な回転力と破壊的な勢いが見られない。再びステロイドに手を出すのではないかと、そんな危うささえ感じてしまう。

山中を2タテしたのは、2017年~2018年。あれから6,7年が経過しており、「増量の影響もあるだろうが、単純にピークアウトしただけ」との意見も聞かれた。

カネロのチームに合流してエディ・レイノソの指導を受けたが、すぐに元サヤ(山中との2試合に帯同したコーチ,イスマエル・ロドリゲス)に戻る。体重オーバーで消滅したが、ロドリゲス戦の時はフレディ・ローチの支援を受けた。

ローチとの関係もこの失敗で破綻。一度も一緒に戦うことなく終了。フィゲロアにKOされた後、タイソン・フューリーとリナレスをサポートしたホルヘ・カペティーリョの招聘が伝えられるも、結局は元サヤを選択している。

今回チーフ格として紹介されたのは、サミール・ロサーノという比較的若いトレーナー。還暦は過ぎているであろうイスマエル・ロドリゲスのアシスタントとして、山中との2試合にも付いてきていたという。


居心地がいいのは確かなのだろうが、山中第1戦の悪夢がどうしても頭から離れない。八重樫東が自身のyoutubeチャンネルで、「(どんな手を使っても)勝てばいいって思う選手なんで」でと述べている通り。

「Going」に映像で出演した山中も、ネリーの怖さについて聞かれと、「どんな大事な試合でも平気で体重オーバーしてくる。凄いメンタル」と、皮肉交じりに苦笑しながら答えていた。

yama


「1ポンドでもオーバーしたら試合はやらない。もしもそうなったら?。ファイトマネーも払いません。ドーピングも同じ・・・」

3月6日の発表会見が終わった後、囲み取材に応じた大橋会長がそう明言して、さらにその後、幾重にも用意した”ネリー対策”が明らかになる。


◎「日本の至宝を全力で守る」決意を述べる大橋会長
2024年3月6日/マイナビニュース



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◎井上(30歳)/前日計量:121.7ポンド(55.2キロ)
戦績:26戦全勝(23KO)
現WBC・WBO統一S・バンタム級王者
前4団体=WBA(V7)・IBF(V6)・WBC(V1)・WBO(V0)統一バンタム級王者.元WBO J・バンタム級(V7),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
世界戦通算:21戦全勝(19KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.5センチ,リーチ:171センチ
※ドネア第1戦の予備検診データ
右ボクサーパンチャー(スイッチヒッター)


◎ネリー(29歳)/前日計量:120.8ポンド(54.8キロ)
現WBC S・バンタム級(V0) ,元WBCバンタム級(V0)王者
戦績:36戦35勝(27KO)1敗
アマ戦績:9戦全勝(5KO・RSC)
身長:165センチ,リーチ:167センチ
※山中第2戦の予備検診データ
左ボクサーファイター

ネリーの500グラムアンダーについて、ネット上では様々な憶測が飛び交っている。調整の失敗に言及するインフルエンサー(あくまでボクシングの話題限定)も居て、なかなかにかまびすしい。

しかし、ネリーは130ポンド契約でカルモナ戦をやったかと思えば、直近のサルダール戦を119ポンドで仕上げたり、大胆にウェイトを上げ下げしている。本気で追い込めば、今でもバンタム級でやれないこともないのでは?。

自身もピークにあったS・フライ級時代、WBOのベルトを保持する尚弥にアタックして、慢性化した減量苦+右拳の負傷に腰痛まで加わり、満身創痍の割引モンスターだったとは言え、12ラウンズをフルに持ち応えたカルモナに130ポンドを呑ませたのは、前戦から8ヶ月の間隔が開いて完全にオフしていた為だろう。

僅かでもオーバーした瞬間、ボクシング人生最大のビッグ・マネー・ファイトを、リザーバーのT・J・ドヘニーにさらわれてしまう。何があってもリミット以下に落とさなければと、素行不良の問題児なりに取り組んだ結果だと考えるのが妥当。

◎前日計量(トップランク公式チャンネルにアップされたハイライト)


◎Inoue Picks Gloves, Has Final Words for Nery | Undisputed Fight Monday Morning ESPN+
トップランク公式(グローブチェックの様子と囲みのインタビューを収めた別バージョンのハイライト)


◎前日計量フル映像(公式)
Prime Video JP - プライムビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=wgw-XvtA9ag


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■オフィシャル

主審:マイケル・グリフィン(カナダ)

副審:
ホセ・アルベルト・トーレス(プエルトリコ)
アダム・ハイト(豪)
ベノイ・ルーセル(カナダ)

立会人(スーパーバイザー):
WBA:ウォン・キム(韓)
WBC:ドゥウェイン・フォード(米/NABF会長)
IBF:安河内剛(日/JBC事務局長)
WBO:レオン・パノンチィーリョ(米/ハワイ州/WBO副会長)



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