熱砂の闘い /崖っぷちのブロンズ・ボンバーが中華の巨人(Big Bang)を相手にサバイバル・マッチ - クィーンズベリー vs マッチルーム 5 vs 5 プレビュー II -
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<1>6月1日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)/ヘビー級12回戦
前WBO暫定王者/同2位 ジャン・ジーレイ(中国) vs 元WBC王者/同7位 ディオンティ・ワイルダー(米)
前WBO暫定王者/同2位 ジャン・ジーレイ(中国) vs 元WBC王者/同7位 ディオンティ・ワイルダー(米)
ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)に敗れた両者が、文字通り(年齢的にも立場的にも)生き残りを賭けた一騎打ち。
昨年4月、ジョー・ジョイス(リオ五輪S・ヘビー級銀メダル)とのメダリスト対決に臨んで、大番狂わせ(と呼んでいいだろう)の6回TKOに屠り、暫定の2文字付きながらも、史上初のアジア人ヘビー級王者となった”Big Bang”ことジャン・ジーレイ(チャン・ツィーレイ)。
5ヶ月置いて組まれたダイレクト・リマッチでは、雪辱に燃えるジョイスを僅か3ラウンドで返り討ち。4団体統一を目指すオレクサンドル・ウシク,タイソン・フューリー(当時/5月18日にウシクが判定勝ち)との三つ巴に言及する。
WBOに根回ししてジョイスに暫定王座を獲らせたのは、ウシク,フューリーに王座復帰への意欲を失っていないアンソニー・ジョシュアをプラスした四つ巴を実現する為に他ならない。目論みが泡と消えたフランク・ウォーレンは、ショッキングな連続KO負けに言葉を失う。
最も深刻な事態に陥ったのが、ジョイス自身であることは間違いない。だが、2019年4月にリオの銀メダリストをヘイメーカー・プロモーションズ(デヴィッド・ヘイの興行会社)から引き抜き、世界戦まで引っ張り上げたウォーレンの失望はさらに大きく(?)、「再起は困難」だと事実上の引退勧告に及ぶ。
◎試合映像:ジーレイ vs ジョイス第2戦
2023年9月23日/ウェンブリー・アリーナ,ロンドン(英)
WBOヘビー級暫定タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=SF4ra_PGqVE
泣いても笑っても、手元に残ったジーレイを使ってトップ戦線に割り込むしかない。次なるステップアップにウォーレンが選んだのは、昨年12月、今回と同じキングダム・アリーナで6倍近い掛け率をひっくり返し、ディオンティ・ワイルダーを転落寸前の断崖絶壁まで追い込んだパーカー。
2年前の秋、ジョイスと暫定王座を争い11回KO負けに退いたパーカーは、2016年10月~2018年3月までWBOの正規王者だった。3度目の防衛戦で渡英し、IBFとWBAの2冠を保持していたジョシュアに大差の0-3判定負けした後、すぐにまた呼ばれてディリアン・ホワイトに僅差の判定負け。以来、英国を主戦場に戦って来た。
「どういう展開になっても、まあ負けはないだろう。」
ところが・・・。しっかり仕上げたパーカーに、前評判で優位とされた中華版ビッグ・バンが手を焼く。最後まで倒し切ることができず、スプリット・ディシジョンで虎の子のベルトを手放す。
当然の事ながら、中華の巨人はパーカーに喫した僅差の1-2判定を承服していない。しかし、暫定王座を巡る立て続けの直接再戦(ジーレン vs ジョイス&パーカー)は、流石に無理が有り過ぎたのか、寝業師のウォーレンはターゲットの変更を迫られる。
2年前の夏に献上したプロ初黒星(2022年8月/IBFのエリミネーターでフィリップ・フルコヴィッチに僅少差の0-3判定負け)をきっかけに、ようやく掴んだマッチルームとの直接契約を棒に振り、フランク・ウォーレンの誘いを受けてクィーンズベリー・プロモーションズに乗り換えた。
パーカー戦に引けを取らない競った展開には違いなかったけれど、後半~終盤にかけてガス欠したジーレイは、ガードの保持もままならなくなり、フルコヴィッチにもスタミナの余裕が無かったから倒されずに済んだが、とにかく見栄えが悪いことこの上ない。
◎試合映像:フルコヴィッチ 判定12R(3-0) ジーレイ
2022年8月20日/ジェッダ・スーパードーム,ジェッダ(サウジアラビア)
https://www.youtube.com/watch?v=hSLvOp4n6I8
さらに遡ること3年余り。マイアミのハード・ロック・スタジアムで、ヴァージニアから呼ばれた黒人の中堅サウスポーと引き分けた時(0-1のマジョリティ・ドロー)にも、オフィシャル・スコアを頑なに拒絶。
先にダウンを奪いながらし止め切れず、バッティングで右の瞼をカットする不運に見舞われたとは言え、この試合でも後半の息切れが顕著で、いたずらにラウンドを失っている。フラフラになって上から覆い被さるように抱きつき、ホールディングの反則を取られて減点されたのも痛かった。
◎試合映像:ジーレイ 引分10R(0-1) ジェリー・フォレスト(オフィシャル・ハイライト)
2021年2月27日/ハードロック・スタジアム, フロリダ州マイアミ・ガーデンズ
https://www.youtube.com/watch?v=OK3TRsTFZxw
40代に突入した年齢に加えて、2021年以降増え続けてきた体重。身体的なスピードは薬にしたくとも無い。おまけに後半戦のガス欠癖。フルコヴィッチ戦までのジーレイには、世界タイトルの奪取など見果てぬ夢。到底覚束ないと判断するしかなかった。
だがしかし、集中が途切れない前半戦の間、ブロッキングで顔の周囲を守りながら、ノソノソと前進しつつショートで繰り出すストレート系のパンチは、思いのほか素早く相手のガードをすり抜けて顔面に届く。
プロ転向後、3番目に軽い256ポンドで仕上げた初戦のジョイスは、ジーレイが放つ左ショートストレートに反応できずに粉砕され、体重差がもたらすパワーの違いにやられたと考えたのか、再戦では一気に25ポンドも増やし、ジーレイと同じ280ポンド台で計量。
もともと運動量が豊富ではない為、見た目の動きは余り変わらない印象を受けるが、反応の鈍さも改善できなかった。にじり寄るジーレイの圧力に押し負ける姿も変わることがなく、警戒していた左ではなく、相打ち気味の右フック(ショート・カウンター)を浴びて轟沈。
他方奇跡の復活に懸けるパーカーは、スローモーな中でも懸命に肩と頭を振り、上体が立たないよう顎を引いた前傾姿勢を保ち、タフな巨漢を無理に倒そうとせず、着実にラウンドをまとめる作戦。
上から押し潰されてダウンカウントを取られたが、ダメージは少なくて済んだ。下からショートジャブを突き、一定の距離をキープしつつ大振りと深追いを慎む。そうやってパーカーは致命的な被弾から身を守り、12ラウンズを凌いでベルトの奪還を成し遂げた。
◎試合映像:パーカー 判定12R(2-0) ジーレイ
2024年3月8日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
WBOヘビー級暫定タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=mEEluYAVTy0
「(ここで負ければ)ラスト・ダンス。ウソ偽りの無いラスト・チャンス。そう捉えている。」
不惑を目前にしたワイルダーの危機感は、余裕を隠さないジーレイの比ではない。タイソン・フューリーとの3試合で、第2・第3戦を決定的なKOで落とした後、2歳年長の北欧の巨人ロベルト・ヘレニウスを初回KOに退け一息ついたが、1年2ヶ月休んでパーカーにワンサイドの12回0-3判定負け。
フューリーとの第2・第3戦、キャリア最重量の230ポンド超えで痛恨の連敗となった後、ヘレニウスとの再起戦では、フューリー第1戦とほぼ同じ214.5ポンドで秤に乗った。
パーカー戦も213ポンドで調整したブラウン・ボンバーの動きそのものは悪くなかったが、パーカーの状態が非常に良く、ワイルダーは出足が遅れて後手を踏み続けた。
中盤以降は組み付く場面が増えて、互いに決定的な場面を作れないまま12ラウンズを終了。終始先手を取り続けたパーカーに、10ポイント・マスト・システムの恩恵をガッツリ持って行かれ、オフィシャル・スコアはとんでもない大差が付く(111-118×2,108-120×1)。
◎試合映像:パーカー 判定12R(3-0) ワイルダー
2023年12月23日/キングダム・アリーナ,リヤド(サウジアラビア)
WBCインターナショナル,WBOインターコンチネンタルヘビー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=25aOiUrlclA
完全に息の根を止められた格好で、このまま引退すると見る向きも多かった。復活の可能性は限りなくゼロに等しい。それでもなお、2度目のサウジ行きに応じたのは、400万ドルの最低保障(+PPVインセンティブ)が提示されたからというのがもっぱら。
パーカー戦で得た総額1千万ドル(推定)は無理にしても、PPVのセールス次第で700~800万ドルに届くとの見込み。
一方100万ドル(最低保障)と伝えられたジーレイの心中は察して余りあるが、こちらもPPVの件数如何で200~300万ドルまで跳ね上がる。何よりも、視線の先に見据えるパーカーとのリマッチを手繰り寄せる為にも、ワイルダーに長い時間を使うつもりはない。
打たれ脆さ+回復力の欠如という、我らがホルヘ・リナレスとまったく同じ爆弾を抱えるブラウン・ボンバーに、100パーセントの強打は不要。タイミングを計ったジャブを効かせて、ショートの左ストレートが顎から上のどこかに当たればジ・エンド。早い時間帯で決着を着けるのみ。
直前のオッズは、実に微妙なラインに落ち着いた。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ジーレイ:-150(約1.67倍)
ワイルダー:+125(2.25倍)
<2>betway
ジーレイ:-150(約1.67倍)
ワイルダー:+125(2.25倍)
<3>ウィリアム・ヒル
ジーレイ:8/11(約1.73倍)
ワイルダー:6/5(2.5倍)
ドロー:20/1(21倍)
<4>Sky Sports
ジーレイ:8/11(約1.73倍)
ワイルダー:7/5(2.4倍)
ドロー:22/1(23倍)
パーカー戦並みのコンディションに加えて、WBC王座に就いた当初にやっていた、ディフェンス重視の塩漬け安全策の徹底が最低条件にはなるけれど、中盤まで五分の展開をやりくりできれば、後半のジーレイは隙(穴)だらけになる。そこでもパーカーを良き手本として、大振りと深追いは厳禁。
危険な前半を無難にくぐり抜けて、ジーレイがヨレヨレになる後半~終盤まで、ワイルダーのハートが持つかどうか。パーカーのようにしっかり顎を引いて、ロング・ディスタンスの維持に意識を傾け、足で外すボリュームを増やす。
ハイリスクな近めの中間距離では、けっしてガードを緩めない。戦術的ディシプリンをどこまで保ち続けられるか。フィジカルの強度ではなく、ワイルダーに求められるのはメンタル・タフネス。
◎ジーレイ(41歳)/前日計量:282.8ポンド
前WBO暫定ヘビー級王者(V1)
戦績:29戦26勝(21KO)2敗1分け
アマ戦績:不明
2008年北京五輪銀メダル
2012年ロンドン五輪2回戦敗退
※A・ジョシュアにポイント負け(15-11)
世界選手権
2011年(バクー/アゼルバイジャン):3回戦敗退
2009年(ミラノ/イタリア):銅メダル
2007年(シカゴ/米国):銅メダル
2005年(綿陽/中国):ベスト8敗退
※オドラニエル・ソリス(キューバ/アテネ五輪金メダル)にポイント負け(17-7)
※階級:S・ヘビー級
身長:198センチ/リーチ:203センチ
左ボクサーファイター
◎ワイルダー(38歳)/前日計量:214.6ポンド
元WBCヘビー級王者(V10/在位:6年1ヶ月
戦績:47戦43勝(42KO)3敗1分け
アマ通算:30勝5敗
2008年北京五輪銅メダル
2007年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2007年全米選手権優勝
2007年世界選手権(シカゴ)初戦敗退
2007年プレ五輪(北京)準優勝
※階級:ヘビー級
身長:198(201)センチ,リーチ:211センチ
※Boxrecの記載が変更されている/カッコ内が以前の数値
右ボクサーファイター
◎前日計量