天才児の連敗確定? - エストラーダ vs 天心 ショートプレビュー -
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■4月11日/両国国技館/WBC世界バンタム級挑戦者決定12回戦WBC1位 ファン・F・エストラーダ(メキシコ) vs WBC2位 那須川天心(日/帝拳)
キックの天才児が2連敗決定?。
遠来の2冠王の評判がえらくいい。今月3日、心機一転新たに編成したチームとともに、2022年の暮れ以来となる2度目(?)の来日を果たしたチャンプ(WBCからフランチャイズ王者の認定を受けている)は、6日に練習を公開。
国内取材陣とファンの想像を遥かに超える、良好かつ充実したシャープネスとパワーを披露した”エル・ガーヨ(El Gallo;スペイン語の雄鶏/エストラーダのニックネーム)”は、迫り来るキャリアの終焉をほとんど感じさせない、極めて完成度の高いボクシング、隙の無い攻防一体をこれでもかと見せ付ける。
ハードコアなマッチメイクによる歴戦の疲労&ダメージに加えて、年齢的な限界,衰えを指摘されるようになって久しく、試合間隔も長くなった。
思わずため息が漏れそうな、無駄のない流麗な動きとコンビネーション。万全の仕上りを目の当たりにした取材陣のみならず、youtubeにチャンネルを開くボクシング関係者とファンを含めて、一気に悲観的な論調へと傾く。
日の出の勢いで台頭する”バム”・ロドリゲスに喫した自身初のKO負けから、早くも2年近くが経過。準備期間の不足を理由に、契約に含まれていた再戦条項を放棄した現代メキシコ軽量級の大看板は、いよいよバンタム級への進出を決断すると、長年コーナーを任せてきた戦友ホセ・カバジェロに別れを告げる。
新しいチーフは、やはり地元ソノラ州に拠点を構えるヘルマン・レオン。実弟アルフレド・レオンの兄弟2人を中心にしたファミリー・ビジネスで、ボクサーとしての成功を夢見るソノラ州の若者たちを支えてきた。
昨年6月14日、州都のヘルモシオに26歳の小柄なローカルクラスを呼び、20年近いプロキャリア中、2度目に重い調整(119ポンド)でリングに上がったエル・ガーヨは、ベストな状態とは言えないながらも、無難な試合運びで10回判定勝ち。
いかにも身体が重そうで、いいパンチを打ち込んでも、その都度若いローカルランカーから打ち返される。集中を欠いて2発・3発と被弾する場面も散見された。絵に描いたようなアンダードッグの若衆カリム・アルセ(21勝3敗2分け/8KO)は、折れそうになるハートを奮い立たせて、厳しく切ない10ラウンズを粘り切った。
S・フライ級では世界戦のKO勝ちが目に見えて減ったエストラーダ。とは言え、シーサケットやロマ・ゴンらとの激戦が続いたことを思えば、これはもう止むを得ない。直ちに「階級の壁」と断定することはできない。
がしかし、生涯の宿敵ロマ・ゴンと同様、112ポンドのフライ級でピークを築いたエストラーダにとって、118ポンドのバンタム級はいささか勝手が違うと、素直にそう思えたのも事実。歴戦の王者が繰り出す連射を浴びても、無名の若者は気持ちと態勢を立て直して反撃。逆にエストラーダがコーナーを背負わされ、ヒヤリとする局面も・・・。
実力と実績の違いを考えれば、明らかに物足りない内容ではあったものの、チューンナップにおける多少のもたつきや”らしからぬ攻防の粗”は、海外のトップレベルにとって半ばセオリーでもある。
階級アップと故障からの回復等々、エストラーダほどの練達でも、ブランク明けの復帰戦で格下相手に冴えないパフォーマンスに終始する姿を、これまで一度ならず見せてきた。そうした不出来に比べて、正式な118ポンドの初陣が特別酷かったとは思わない。ただ、オフィシャルスコアほど圧倒的な開きは無かった。
◎試合映像:エストラーダ 10回3-0判定 カリム・アルセ(メキシコ)
2025年6月14日/ソノラ州ヘルモシオ
オフィシャル・スコア:98-89,99-88,100-87
前日計量:エストラーダ119ポンド,アルセ不明
https://www.youtube.com/watch?v=FTJxJy9SlWw
さて、昨年6月の再起戦について、「20年近いプロキャリア中2度目に重い」と書いた。では、計量時のウェイトが一番重かったのはいつで、誰との試合だったのか。
それは、今を去ること7年半前。年の瀬が迫るカリフォルニアに飛んだエル・ガーヨは、クラレッサ・シールズ,セシリア・ブレイクフスの女子重量級2トップの露払いとして、S・バンタム級の10ラウンズを戦った。
相手はビクトル・メンデスというローカル・ランカーで、対戦時のレコードは27勝(19KO)4敗2分け。エストラーダと同郷のソノラ州出身で、170センチを公称するだけあって背丈は十分。ひょろっとした痩身だが、エストラーダよりかなり大きい。
この大きなメンデスに対して、28歳のエストラーダは油が乗り切り元気一杯。一切臆することなく前に出て強打を叩き込み、しっかりボディも効かせて着実に削り続け、7ラウンド終了後のギブアップに追い込む。
◎試合映像:エストラーダ vs ビクトル・メンデス(メキシコ)
2018年12月8日/スタブハブ・センター,カリフォルニア州カーソン
70-63 Carla Caiz 69-64 Jerry Cantu 68-65
前日計量:エストラーダ119ポンド1/4,メンデス119ポンド1/4
https://www.youtube.com/watch?v=L4340BVeGtM
この2試合を見比べると、老いと疲弊のリアルな現実を認めざるを得ない。28歳のエストラーダは前に出るスピード(瞬発力)とバネが素晴らしく、それでいて腰が重くパンチが流れず、キレと威力もカリム・アルセ戦とはまったくの別人。口さがない表現で申し訳ないけれど、同じスタイルと持ち味のまま、経年劣化してしまった状態。
チームを一新したとは言っても、エストラーダのボクシングは完成されており、特別な変化は無し。と言うか、変わりようがない。だ環境から離れて、新鮮な緊張感の中で出直しを図りたかったのだろう。
無論この時とは気合の入り方が違う筈だし、マウリシオ・スレイマン会長御自ら立会人を買って出ていることも、老雄(失礼)の背中をさらに強く押す効果を持つ。
公開練習時のシャープネスが、計量後のリバウンドでどこまで落ちるのか落ちないのか。キックボクサーとのエキジビションをしくじり、大失態をやらかしたパッキャオも、前日(前々日?)の練習では、すっきりと絞ったスリムな上半身と、不惑を超えたとは思えないスピーディな身のこなしで観る者を唸らせていた。
「日本人キックボクサーにいくらボクシングの心得があっても、これでは勝負にならない。」
誰もがそう思ったに違いないが、一晩明けてリングに立ったパッキャオは、見事にお腹の周囲が膨れてしまい、やたらとサイズだけは大きい韓国人とやった時とほとんど同じ。
格闘技団体が手掛ける草興行(ボクシングに関する限り)と、WBC王座への挑戦権を懸けたリアルなファイトを同列に語るつもりはないが、リバウンドによるスローダウンとスタミナへの悪影響が脳裏を過ぎる。
◎公開練習
<1>天心
<2>エストラーダ
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◎原点回帰で捲土重来を期すキックの天才児
初めてのKO負けを契機にチームを解散したエストラーダよろしく、天心もまた国際式転向以来コンビを組んできた粟生隆寛(元WBCフェザー,S・フェザー級王者)トレーナーの下を離れて、15歳の時から本格的にボクシングを習った葛西裕一(元WBA世界J・フェザー級1位)を指名。
帝拳と葛西が立ち上げた「GLOVESジム」だけでなく、キック時代の古巣「TEPPEN GYM」にも頻繁に顔を出し、こちらは原点回帰を強力にアピール。
どちらかと言えばバランスに重きを置く粟生トレーナーの方針に沿って、天心は素直かつ従順な姿勢を保ち、どこまでも生真面目にプロボクサーたらんと努力精進を続けてきた。
戦績は僅か8戦に過ぎないけれど、5戦目からはジェルウィン・アシロ(比),ジェイソン・モロニー(豪),ビクトル・サンティリャン(ドミニカ)と、手強い相手との連戦が続き、遂に迎えた昨年12月の世界戦。
序盤の優勢を活かせず、天心にまったく引けを取らない井上拓真のスピード、上下を抜け目なく打ち分けるコンビネーションと精度の高いジャブ、鋭く速いアッパーを食らって主導権を奪われ、見る間に流れとポイントを失った。
終わってみれば完敗。キック時代を通しての生涯初黒星(プロ)。経験の差をこれでもかと味わい悔し涙を零す。最大の持ち味であるスピード&クゥイックネスを自ら捨てて、遮二無二打ち合わない時が済まないメンタルの不安定さを克己して、拓真は自らのストロングポイントを信じ切って、キャンプで取り組んだ戦術を貫き通して勝利を掴んだ。
ボクシングに対して真面目過ぎて(?)、キック時代の奔放さはリングの上では鳴りを潜めて、「頭で考えながら動く」不自由さが目に付く。やはりバランス重視のイスマエル・サラスの指導を受け、悩みながら戦っていたプロ初期の村田諒太を見る思いがした。
葛西裕一との再会が、天心の心身を縛っていた「ボクシングへの馴化」という手かせ足かせから解き放ち、いい意味での自由な戦い方を取り戻すことができれば、エストラーダに取りこぼしたとしても、大きなプラスになると思えて仕方がない。
高いガードを保持したまま、時に小刻みに頭と肩を振って駆け引きしつつ、迷いの無い鋭い踏み込みもろとも、真っ直ぐ伸びるワンツーで一気に飛び込む。
パンチの重さと決定力はとりあえず置いといて、見事に老練エストラーダを攻略して新旧交代を強く印象付け、目出度くP4P入りも果たしたバム・ロドリゲスの突破を想起させる。丸ごとコピーは出来ないし、そのつもりも無いだろうけど、葛西トレーナーは相当に意識していたに違いない。
倒すことはハナから捨てて、スピード&シャープネスを前面に押し出し、公開練習のワンツーを軸に出はいりを繰り返しながら、ステップワークを絶やさず打たせずに打つボクシングに徹しさえすれば、中差の判定を呼び込めそう。
エストラーダの状態次第にはなるが、コツコツ守りながら攻め続けることで、後半の自滅(TKO)に追い込むことなら、けっして夢物語ではないと確信する。
一番まずいのは、真正面に立って受けに回ること。拓真に遅れを取った現実から目を背けることなく、自身のストロングポイントを信じ切って戦う。それこそが、何より大切なマインド・セットである筈・・・。
直前の賭け率も、実に微妙なラインを突いてきた。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetWay
エストラーダ:-190(1.53倍)
天心:+140(2.4倍)
<2> FanDuel
エストラーダ:-125(1.8倍)
天心:+110(2.1倍)
<3>ウィリアム・ヒル
エストラーダ:4/5(1.8倍)
天心:EVS(1.8倍)
ドロー:14/1(15倍)
<4>Sky Sports
エストラーダ:11/13(1.85倍)
天心:5/4(2.25倍)
ドロー:16/1(17倍)
◎ファイナル・プレッサー
◎エストラーダ(35歳)/前日計量:117.5ポンド(53.3キロ)
元WBC S・フライ級王者(V5),元WBA・WBO統一フライ級王者(V5)
現在の世界ランキング:IBF6位/WBO2位(WBA:ランク外)
戦績:49戦45勝(28KO)4敗
世界戦通算:15戦12勝(6KO)3敗
アマ通算;94勝4敗
身長:163センチ,リーチ:168センチ
計量時の検診データ
血圧:118/70
脈拍:67/分
体温:36.3℃
右ボクサーファイター
◎天心(27歳)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
現在の世界ランキング:WBA2位/IBF:7位/WBO11位
戦績:8戦7勝(2KO)1敗
世界戦:1戦1敗
キック通算:42戦全勝(28KO)
※各種のキック世界タイトルを総ナメ
身長:165センチ,リーチ:176センチ
左ボクサーファイター
◎前日計量
◎『独占密着 4.11 PRIME VIDEO BOXING 15』那須川天心、エストラーダ|プライムビデオ
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■オフィシャル
主審:マイケル・グリフィン(カナダ)
副審:
ケヴィン・スコット(米/ノースカロライナ州)
ダニエル・ヴァン・デ・ヴィーレ(ベルギー)
リム・ジュンバェ(韓)
立会人(スーパーバイザー):マウリシオ・スレイマン(WBC会長)














