熱砂の拳 -ミラクル・フィスト リヤドを行く 2 -
- カテゴリ:
- Boxing Scene
■モンスターがリヤド・シーズンと破格の契約 2
※左から:ファイサル・ビン・バンダル・ビン・スルタン王子,おそらく通訳の方,モンスター,大橋会長
今回の契約について、あのティモシー・ブラッドリーがチャチャを入れたと報じられている。何でも、「クレイジー。そこまで高額じゃない」とか何とか言ったらしい。
「あれれ・・・?」
ティモシーさん、貴方は確か大のモンスター・ファンで、推し活してたんじゃなかったっけ?。という訳で、まずは原典を探す。やはり、ご本人がどんな風に喋っているのか、実際を見てみないと正確な判断はできない。
口調と言うか物腰と言うか、ニュアンスを実感することが大事。「ノーノーノー、そんな金額は有り得ない。ナオヤは確かに凄い。モンスターだよ。でもS・バンタムだろ?。法外過ぎる!」なのか、「いや、そいつは違うな。オレが聞いたのはそんな金額じゃないぜ」なのか。
ESPNやインタビューをよくやるボクシング専門チャンネルから確認したが、そこには無し。ならばと飛んだのが「ProBox TV」。あった。
◎youtube公式/ProBoxTV
INOUE INKS DEAL WITH TURKI | ProBoxTV
2024年11月5日
◎ProBoxTV公式サイト/Talk Show(要アカウント登録・ログイン)
INOUE INKS DEAL WITH TURKI
https://my.proboxtv.com/videos/1730751627621_ts241104_1
※ProBoxTVについては、以下の過去記事を参照いただけると有り難い
◎過去記事:KO負けのヴェナードが脳出血(本人は再起を明言) /本命不在が続くフェザー級戦線 - L・A・ロペス vs A・レオ レビュー 5 -
2024年9月17日
https://keisbox.online/archives/26763520.html
勿論、youtubeで視聴。いきなりティム様が登場。いつもの早口で、しかし落ち着いた表情でしっかり話す。
「次はグッドマンだ。そいつを突破したらナカタニとやろう。グズグズしてる暇は無い。間違いなく、日本で最大のファイトになる。」
レギュラーメンバーのクリス・アルジェリ(元WBO J・ウェルター級王者/解説者として活躍中)とポーリー・マリナッジ(元IBF J・ウェルター級・WBAウェルター級王者/アナリスト兼解説者として定着)に、ゲストのブラッドリー(元WBOJ・ウェルター,同ウェルター級王者)を交えた鼎談形式。
そしてブラッドリーだが、確かに「1,900万ドルは馬鹿げている。完全な間違いだ。($19 million is absurd that number is completely false.)」と言っている。
「彼らは(既に)ビジネス・パートナーだと言っていい(一緒に仕事をしている)。つまり、トゥルキとリヤド・シーズンは、(井上尚弥のような大物を確保する為に)金を掴ませておきたいんだ。(They're working together in a sense. But I mean when you, Turki and Riyadh Season want to throw you all that type of money.)」
「俺はインサイダーなんだ。信じて欲しい。絶対に誤報だ。俺とは直接関係ないから、正確な金額を言うつもりはないが、そこまでの額じゃない。1,900万ドルはクレイジーだ。(I'm an Insider, trust me. It's completely false. It wasn't that much money, it was however, I'm not going to give you the exact number how much was. Because not of my business, What a $19 million is crazy.)」
映像を見て納得した。非常識な契約だと口を極めて批判しまくっているとか、モンスターを特段クサしているとかではなかった。声の大きさとトーンも至ってノーマル。「事実を教えたいだけ」との印象。
「クレイジー」の部分がボクシング・メディアに切り取られて、オーバーに伝えられただけだろう。「在米youtubeボクシング記者」の中にはモンスター・アンチもそれなりにいて、彼らはきっと喜んだと思う。
「自分はインサイドにいる。」と述べているが、あらためて断るまでもなく、最激戦区の中量級を2階級制覇した元王者はトップランクと近い。ESPNから依頼された解説の仕事も、長年に渡るアラムとの良好な関係があったればこそ。
具体的な契約金額も含めて、ブラッドリーに知り得る内情の一端(全部?)をリークしたトップランクの関係者が、どのポジションにいる人物なのかにもよるけれど、相応の確度を持った内容であることは容易に想像が付く。
無論のこと、「1,900万ドル」と報じた記者たちにも取材源が存在する。それはトップランクとサウジ側の関係者であり、どちらとも親しい第三者であり、「○○に近いところから聞いたんだけど、この金額に間違いはない・・?」などと、機会を見つけてトゥルキ氏やアラム,エディ・ハーンらに直接裏を取りに行く場合も有るだろう。
事実確認を目的にした電話インタビューのプロポーザルは、きっと大橋会長も受けていたのでは。
何処の関係者でもない、無名かつ在野の一マニアに過ぎない拙ブログ管理人は、「1,900万ドル」は事実に相違無し」と確信している。
その理由は、本記事冒頭に掲載した写真。サウジ入りしたモンスターと大橋会長を、王子が自宅に招いているからだ。
総勢1万5千人と言われるサウジ王族の中で、権力を握り継承を続けるサウード家(一族は約2千人)の王子が、晩餐会をセットして遠来のモンスターを歓待してくれている。これは重要な意味を持つ。
一部国内スポーツ紙は、この人物をムハンマド・ビン・ファイサル・アル・サウード(Mohammad bin Faisal Al Saud)王子と報じているが、この方は「ファイサル王」と呼ばれる第三代ファイサル・ビン・アブドゥルアズィーズ・アル・サウード国王(1906年4月14日~1975年3月25日)の実子で、2017年に逝去している。
7代目となるサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ現国王(1935年12月31日~)は、初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード(1876年~1953年11月9日没)の25番目(!)の男子。
同じ名前を順番を入れ替えて使いまわし(失礼)する為、サウジの王族に縁と関心が薄い日本人には、そもそも分かり難いこと夥しく、いずれにしても、取材時の確認ミスである可能性が高い。
写真を見る限り、「eスポーツ連盟(SEF:Saudi Esports Federation)」のチェアマンで、「国際eスポーツ連盟(IESF:International Esports Federation)」の会長を兼務するファイサル・ビン・バンダル・ビン・スルタン・アル・サウード(Faisal bin Bandar bin Sultan Al-Saud)王子で間違いないのではないかと思う。
◎HRH Prince Faisal bin Bandar bin Sultan
2024年8月25日/New Global Sport Conference
◎関連URL
<1>SEF BOARD
https://saudiesports.sa/board-members
<2>IESF:Board Members
https://iesf.org/board-members/
いずれの紹介ページにも、「HRH(His/Her Royal Highness:殿下)」の敬称を付けた上で、プリンス(Prince)と記載されている。
エンターテイメント振興の旗を振るムハンマド・ビン・サルマーン(Mohammad bin Salman Al Saud)皇太子への拝謁なら、何処からも異論や文句は出なかったと思う。
しかしながら、公の施設ではなく私有する邸宅のどこかだったとしても、次期国王直々のお招きとなると、晩餐会ではなく短時間の謁見でも、これはもう国賓待遇になってしまう。皇太子とのダイレクトな面会が難しいのは当然で、こればかりは致し方が無い。
だがしかし、ブラッドリーの注目すべき発言は、「1,900万ドルはクレイジー」ではなく他にある。6分34秒付近からのブラッドリーに要注意。
「リヤド・シーズンは様々なスポーツに関わっているが、バスケットボールとアメリカン・フットボールには手を着けられていない。おそらくだが、機構側が彼(トゥルキ氏)を警戒してるんだろう。(Riyadh season is involved in just about every sports. They haven't gotten involved in basketball, yet football, American football, you know. I think those entities are trying to keep him away.)」
「だが、サッカーは勿論のこと、競馬,ナスカー(NASCAR:市販車レースの最高峰),ゴルフに卓球等々、既に取り組んでいるものもたくさんある。(But I mean as far as soccer goes as far as horse racing goes NASCAR I mean golf I mean table tennis I mean there's so much.)」
「彼らは、サウジアラビアをあらゆるスポーツのメッカにするつもりなんだ。リヤド・シーズン(のスポーツ・イベント)全体から見れば、ボクシングはほんの一部に過ぎない。(They want Saudi Arabia to be the Mecca of all sports that's what they're trying to do boxing intended a small sector of what Riyadh season is really about.)」
確かに仰る通り。ブラッドリーは良く勉強している。今やESPNのメイン・コメンテーターと言ってもいい活躍ぶりは、日々の地道な努力の賜物と称するべきか。
しょっぱなに、まだ手の着いていない「バスケットボールとアメフト」を挙げているが、ここはアメリカの象徴でもある「4大(NHLを除く)+人気スポーツ」に置き換えると分かり易い。「いや、MLBが抜けてるぞ」とツッコミが入りそうだが、実は野球はもう始まっている。
推進の主体は、クリケット委員会が設立母体となったUAE(アラブ首長国連邦)で、MLB人気が比較的高いとされるインドとパキスタンの2ヶ国が加わり、「ベースボール・ユナイテッド」と名付けたプロ・リーグを結成。
オランダ出身の元メジャーリーガーらをスカウトして、チーム編成が進んでいると昨年1月か2月頃に報じられ、11月24日と25日にお披露目のオールスター戦が行われている。昨季限りでNPBを引退した、元ベイスターズの平田真吾投手(パキスタンのチームに所属)が第2戦に登板して話題になった。
◎Baseball United Showcase 2023
2024年1月26日/Baseball United
当然の流れ(?)で、サウジも「ベースボール・ユナイテッド」への参加を決めている。どこまでチーム作りが出来ているのかはわからないけれど、インドとパキスタンがそれぞれ1チーム,本体のUAE×2チームに、サウジが発足させる予定の5チームが参戦する。
レギュラーシーズンの幕開けは来秋と伝えられていたが、以下の通り、8月1日に日程がリリースされた。
(1)1stシーズン:2025年10月23日開幕
(2)参加チーム:ムンバイ・コブラス(インド),カラチ・モナークス(パキスタン),アラビア・ウルブズ(UAE/ドバイ),ミッドイースト・ファルコンズ(UAE/アブダビ),サウジアラビア発足予定(リヤド)の5チーム
(3)リーグ戦:2025年10月23日~2025年11月23日まで/33試合
(4)カップ戦:2026年2月22日~2025年3月1日まで/(総当りトーナメント)
※BASEBALL UNITED ANNOUNCES DATES FOR FIRST FULL SEASON AND INAUGURAL BASEBALL UNITED CUP
2024年8月1日/Baseball United
https://baseballunited.com/news/baseball-united-announces-dates-first-full-season-inaugural-baseball-united-cup
記念すべきファースト・シーズンの結果次第ということになるが、チーム数の拡大と同時に裾野を拡げて行く為にも、メジャー(ロースターに入れないAAAの中堅を含め)を中心としたメキシコ,ドミニカ,プエルトリコ,ベネズエラなどの北中米諸国,NPB,韓国,台湾のピークを過ぎたベテラン選手と、現場を離れた指導者,元選手に対する需要は高くならざるを得ず、スカウト活動が活発になるのは自明の理で、既に契約する選手がいるオランダ、イタリアに、元阪神の名ショートで85年の日本一を率いた吉田義男が指導したフランス,中国も重要な供給源になりそうだ。
「グローバル・アンバサダー戦略」はこちらでもやっていて、プロジェクトの設立母体でもあるクリケット界から、引退したパキスタンのスーパースター,ショアイブ・アクタールが三顧の礼を持って招かれ、MLBからもアルバード・プホルズ(実働22年/通算703本塁打・3384安打/打率:296)が招聘された。いずれも契約の金額は明らかにされていない。
モータースポーツの立ち上げにもまい進していて、2021年の暮れにジッダ(ジェッダ)にあるサーキットでF1グランプリを初めて開催し、2022年以降毎年3月に行っている他、WRC(世界ラリー選手権)がリヤド・シーズンと向こう10年の契約を交わし、かつてヨルダンで実施された「中東ラウンド」が復活すると、大きなニュースになったのが今年6月。
2025年は年明け早々の1月23日にモンテカルロで激走の火蓋を切り、スウェーデン,ケニア,カナリア諸島,ポルトガル,イタリア,ギリシャを転戦。
7月にはエストニアとフィンランドを回り、8~9月に南米(パラグアイ・チリ)を走った後、昨年から始まった「セントラル・ヨーロピアン・ラリー」が、オクトーバー・フェスト(世界的に有名なビール祭り)で盛り上がる独・オーストリアとチェコで行われる。
そして11月に日本(昨年と今年=本日より開催=に引き続き愛知と岐阜で開催)を駆け抜け、リヤド・シーズン真っ只中のサウジで大団円を迎えるというスケジュール。
フロリダに本拠を置く「ナスカー(NASCAR)」も、サウジでのレース開催に向けて具体的な話し合いに入っている。最終的な合意には至っていないとのことだが、サウジは「キディヤ(Qiddiya City)」と名付けられた巨大リゾートに建設中のサーキット(キディア・スピードパーク:2027~28年開業予定)にF1の開催を移す計画で、「ナスカー(NASCAR)」も同じ場所での開催を基本に協議中。
◎How Qiddiya City's F1 Track will "Push the Boundaries" of Racing
2024年5月21日/Autosport
◎World First Gaming & Esport District
2023年12月15日/Qiddiya
このプロジェクトを推進するのも、サウード家が牛耳る政府系の投資会社(PIF:Public Investment Fund)で、既に数百億ドルを投じているとされる。全体の計画の中で、ボクシング(とUFC,プロレス)が「ほんの一部に過ぎない」とのブラッドリーの指摘はまったく正しい。
「幾ら潤沢なオイル・マネーでも、天井知らずの予算である訳がなく、日本のボクシング・マーケットの規模は、当たり前だがアメリカの足下にも及ばない。いくら大スターの井上だからと言っても、軽量級の日本人に、そこまでの価値を認めるとは思えない。」
「実際に確認した金額は、報道よりもずっと少なかった。これは事実だ。俺を信じろ。」
とまあ、ブラッドリーの言いたいことも理解はできる。しかし、エンターテイメント産業の勃興に費やす予算は不明で、どこまで膨らむのか予測もつかない。だからこそ「1,900万ドルはむしろ安い買い物」だと、逆の見方も十分に成り立つ。
さらに、大枚を投じてモンスターを押さえる理由と目的は、ボクシング・セクターの活性化だけではない。
※Part 3 へ